幸か不幸か③
彼が大声を出したことによって周りの視線か集まってしまい、恥ずかしさのあまりそのまま引っ張ってお店まで来てしまった自分を殴りたい。
「助かったよ、ありがとう。」
「それ飲んだらとっとと出てって欲しいですね。」
向かいでニコニコしている男も殴りたい。この辺り何もないわけではないんだから、1人で居たって時間くらいいくらでも潰せるだろうに。
ちなみに石井さんのことは優ちゃんに一応話した。一緒にカフェにいるって言ったら怒りのくまさんスタンプの嵐で少し引いた。予定より一本早い電車で来るらしい。
「石井さんのお友達はどのくらいで着くんですか?」
「んー、一時間はかからないと思うけど、アイツだからなぁ…。」
先程からアイツ呼ばわりされているお友達さんはだいぶフリーダムな人間のようだ。いるよね、そういう人。振り回される身にもなれと声を大にして言いたい。
「友達とランチって彩子じゃないんだね。」
「なんで分かるんですか。」
「彩子だったら最初からそう言うだろう?」
友達いたんだねーなんて発言をかましてくるので、悲鳴が上がらないギリギリの塩梅で彼の足を踏みつける。
「折角可愛い格好してるんだから、少しはお淑やかにした方が…。」
「うるさいですよ。」
なんでピンヒールのサンダルにしなかったんだアタシ。
◆◇◆
あと一駅で到着すると優ちゃんから連絡が来たので石井さん伝えると、彼の方もそろそろらしい。仕方なく一緒に店を出て駅まで戻る。
優ちゃんのくまさんスタンプ攻撃は今も続いている。
「別に待つ場所まで一緒じゃなくてもいいじゃないですか。」
「お友達がどんな人なのか気になって。」
「言っておきますけど、女じゃないですからね。」
アタシの言葉にちょっと驚いている石井さんだったが、急に視線が後ろに向かう。
「なっちゃん!」
「うわっ!?」
突然背後から腕を引っ張られてバランスを崩したと同時に、ぽすっと何かに包まれる。上から降ってきた声はどこか焦っていた。
「わぁ。ワンコ?」
「…あんたが彩子さんの元彼か。」
初対面の人間に瞬時にワンコと認識されてしまう彼、優ちゃんは石井さんを頭のてっぺんから爪先までガン見している。見るのは構わないが、ぎゅうぎゅうに拘束するのはやめて欲しい。心臓に悪い。
「彩子の知り合いか。いやいや、そんなに威嚇しなくても別に彼女とは何もないからね?」
「槙さんが酒癖が悪いって言ってた。なっちゃんにもめちゃめちゃ絡んだって。」
「槙のやつ…!」
優ちゃんから槙君の話が出てきて驚く。いつ交流を持ったんだ?
「優ちゃん、落ち着こう。てかもうご飯行こう。それじゃぁ石井さ「たーくとー、お待たせー。」っっ。」
石井さんに噛みつく優ちゃんを宥めてさっさと槙君のお店に行こうと促した時。
「あれ?本道君と、…わぁ!本当になっちゃんじゃーん。」
二度と聴くことがない声が耳に入ってきた。




