【sideY】気付けなかった男
「おつかれーしたー。」
まだまだ猛暑が続く中の作業は本当にしんどい。残業がないだけマシだけど、そろそろ熱中症になるんじゃないだろうか。
「あ、本道君お疲れー。」
「松田さん。」
仕事道具を車にしまっていると声を掛けられた。振り向けば今回合同で作業している別会社の松田さんだった。スポドリをポンッと渡されたのでお礼を言って早速口をつける。冷たくて気持ちいい。
「なんか前一緒だった時より生き生きしてるねぇ。何かあった?」
「僕そんなに死んでました?」
この人達と前に仕事したのは確か元カノにフラレた直後だった。短期間でそう思われるくらいあの時の俺ってやばかったんだな。そりゃ亮君はじめ、皆が心配するわけだ。
「してたしてた。良いことでもあったの?」
「良いこと…。そうですね、とても良いことがありましたね。」
スマホの待受になっているなっちゃんの顔を思い出す。あぁ可愛い。めちゃめちゃ会いたい。何故酔った勢いで告白したんだ自分。
脳内で壁に全力で頭を打ち付けていると、片付けの最終チェックを終えた先輩が戻ってきて松田さんに絡み始めた。先程の話を一通り聞いた先輩はニヤニヤしながら俺の肩に腕を回してくる。
「そりゃ、運命のなっちゃんに会えたもんなー?」
「先輩!なっちゃん呼びは許してないですよ!」
「………なっちゃん?」
俺のなっちゃんを軽々しく呼ぶなんて!
先輩の腕を抓って抗議すればすぐに距離をとられた。「優佑、お前嫉妬深すぎ…。」ってドン引きしてるが知らん。
向かいの松田さんが不思議そうにしているので、軽く、本当に軽く説明する。先輩が茶々入れてくるのが心底うざい。
「へぇ。そんなに素敵な人なんだー。」
「そうなんですよ!もうめちゃめちゃ可愛くて!」
「えー?写真とかないの?気になるー。」
こてん、と頭を傾げる松田さんは容姿も相まって可愛く見える。同じ仕事してるのにほとんど焼けてない白い肌に線の細い体。年齢は俺より1つ上なはずなのに、いくつも下の、なんならまだ学生で通用しそうなぐらいの童顔だ。
「え、それはちょっと…。」
「いいじゃんか別にそれくらい。スマホの待受にしてるんだからすぐ見せられるだろ?」
「へぇ、まだ彼女でもないのに待受は相当だね。」
「ほら優佑。」
「………。これです…。」
先輩に言われて渋々スマホを取り出してロックを解除する。表示されたなっちゃんの顔はいつ見ても可愛い。何回でも言う、可愛い。
「………なるほど、本道君の好みのタイプはこんな子なんだねー。」
「子って。松田さんと同じ24歳ですよ?」
「………そうなんだ。」
なっちゃんも確かに童顔寄りではある。この二人が制服来て並んでても違和感ないかもしれない。なっちゃんの制服姿…やばい、妄想が暴走しそうだ。
煩悩と必死に戦っていると、遠くの方から松田さんを呼ぶ声がした。
「とーもひろー。そろそろ行くぞー。」
「あ、ごめーん。すぐ行くー。じゃ、また明日。」
「あ、はい、お疲れ様です。」
ヒラヒラと手を振った松田さんはクルリと回れ右をして同僚であろう人の元へ駆けていった。俺達もと先輩に促され、助手席に乗り込めばすぐに運転席の先輩がアクセルを踏んだ。
「ふーん。なっちゃん、ねぇ。」
振り返ってた松田さんの零した言葉なんて、勿論俺の耳には届いていない。




