色々あったのよ、色々さ②
券売機の前でスマホを確認しながら切符を買っていたアタシは、後ろの人達からだいぶ迷惑だと思われていただろう。購入後そそくさと改札を抜け、ホームへの階段を駆け下りる。電光掲示板で時間を確認すると、タイミング良くすぐ来るようだ。
(事故で死んでから電車に乗る機会は何回かあったけど、まだちょっとトラウマだ…)
どれだけ飛んでも、どれだけ乗っても、多分しばらくはあの衝撃音と激痛は忘れられそうにない。イケ女にもう少し文句言っておけば良かったと後悔している。
(最後に電車に乗ったのは二つ前の世界だったかな…)
二つ前は自分がヲタクになる切っ掛けとなった作品だった。学園もので、スポーツもの。最推しと同じ学校で同じクラス。楽しかったなぁ。友人として間近で顔面拝めるの最高だったよ、うん。ストーリーに手を加えることは出来ないから見てるだけだったけど、自分の存在が影響して何か変化してくれと試合の時はいつも祈りながら応援してたな。結局変わらず負けちゃったけど。
(そういえば、彼氏、大丈夫かな)
実は推しではないが、主要人物とお付き合いもしていた。まさか告白されると思わなくて驚きしかなかったけど。
勿論良い人だっていうのは作品を見ていたから知っていたし、他の世界でも恋人はいた。でもこうして飛べてるということは、いずれ別れることになっていたんだろう。
やっぱり、元彼以上の人間はいないんだって毎回凹んでる。期待しなきゃいいんだけど、好意を向けられると、ねぇ。
『次は~〇〇〇~。お出口は左側です。』
聞こえてきたアナウンスにスマホを確認。あと二駅らしい。ちなみに今回社会人であるアタシが勤める会社があるのはこの駅のようだ。買い出しから戻ったらその辺りも調べておかないと。
(現時点で地名も駅名もアタシの知ってる作品に出てきてないんだよなぁ)
乗っている路線の全ての停車駅も初めて見るものしかない。主要人物のいる場所からだいぶ離れた所なのだろうか。それとも、ランダムにしたせいで知らない作品も混ざってしまったのだろうか。
(でも、自分の知ってる世界でって指定はしたはず)
バグが発生することもあるんだろうか。どっちにしろ、色々見て回らないことには始まらない。
(あー…、イヤホンも買わなきゃか)
どこかへ旅行に行くのか、若い女の子達が集団でキャーキャー騒いでいるのを不快に感じてそう思った。