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彼の幸せ②

なかなか希望のPCに巡り会えない…。

「そういえば、狩野さんの最終出勤日に少しだけ話したんだ。」

「へぇ…。どんな話です?」


彼女は地元の母親の介護という理由で退職になったと誰かが言っていた。勿論それは嘘で、イケ女かこの世界そのものがそう設定したんだろうけど。今の所代わりのヒロインが来る感じはしないし、来るとは言っても彼の異動先になのかもしれない。

石井さんがこの地を離れることが出来るのもそういうことなのだろう。


「すごい謝られたよ。よく分からないことも言っていたけど。本物のヒロインとお幸せにって。」

「ぶっ、は、…へぇ。」


彼女は最後まで彼女だった。紅茶が変なところに入って咳が止まらなくなった自分を石井さんは心配そうに見てくるけど、問題ないと手で示す。

本物のヒロインって、なんつーことを言うんだ。


「本物のヒロインってなんだろうね?」

「………多分、未来の恋人のことじゃないでしょうか…。」


適当に誤魔化したが納得してくれた彼に内心ホッとする。なんでアタシが彼女のフォローをしなきゃいけないんだ。


「未来の恋人ねぇ…。出来ると思う?」

「顔面偏差値は高いから、大丈夫だと思いますよ。フラフラしなければ。」

「相変わらずだね…。」


先に飲み終わった石井さんが荷物をまとめ始めたので慌ててストローに口をつけたが、構わないと制されてしまった。二人で店から出た所を見られたら大変だろうからゆっくりするといいと。

それは自分も思ってたことではあったので素直に感謝して深く座り直す。


「じゃぁ、彩子によろしく伝えておいてくれると嬉しい。」

「気が向いたら。」

「ふは、ありがとう。」


複雑そうな笑顔で去っていった彼は、外に出た時にもう一度こちらを見上げて頭を下げた。一応手を振っておいたけど、周りに知り合いがいなかったと思いたい。


(フラフラはしてるけど、彩子のことはまだ大事なのかなぁ)


本人が口に出したわけでもないし確認もしてないけど、なんとなく元彼を引きずる自分と重なった。彼もこの先自分のような生活を送るようになるのだろうか。


(それはしんどいだろうな)


その苦しさはよく分かる。だから事故死をキッカケに藻掻いてみようと思ったわけだし。未だ運命の人は見つからず、だけど。


(あー…優ちゃんどうしてるかな)


ふいに掴まれた時の熱を思い出した。仕事柄か少しカサついた手は、自分のより確かに大きくて、ちょっとだけドキッとした。

運命の人が現れるまでは絶対に恋愛はしたくないのに。


(早く来ないと流されてしまいそうだ)


考えないようにしようとしてる時点でもう手遅れなんだろうけど、それでも認めたくなくて。

去り際の石井さんを思い出して彼のこれからの幸せを願うことで逃避することにした。


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