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過去を身に着けて②

「あれ?那智さんってピアスつけてたっけ?」

「ん?これ?ノンホールなの。この前友達と出掛けた時にプレゼントしてくれて。」


木曜日の夜。休みの前に様子を見たくて槙君のお店に遊びに行く。明日も仕事だからお酒を一杯だけにして、カウンターの向こうから槙君が渡してくれる料理を堪能。メニューは任せたので何が出てくるのか分からなくてちょっと楽しい。お客さんもそんなに居ないからそのままお喋りしていたら彼からそんなことを聞かれた。ネックレスの方は気付かなかったらしい。


「あぁ、例のワンコ君?」

「そうそう。彩子から聞いてたり?」

「うん。那智さんに一目惚れした暴走ワンコって。」

「ふは、何それ?」


彩子はいつ槙君に優ちゃんの話をしたんだろう。説明の仕方がおかしい。ワンコしか合ってないんだけど。


「おっとコレは内緒だったのかな。」

「彩子が面白おかしく言ってるだけでしょ?」

「いや、あながち間違いじゃないかもよ?」


早々に空になったグラスを引き上げながら槙君が意地悪げな笑みを浮かべる。


「え、まじ?」

「マジだったらどうするの?」

「んー、…正直彼氏を作るのに抵抗が…。」


もし彼が運命の人じゃなかったら。

もし彼が浮気をしてしまったら。

その2つが常に頭をぐるぐるしている。メモに書かれた運命の人じゃなかったら、いつか別れる方向に無理矢理持っていかれる可能性が高くて。その原因が浮気だったらもうアタシは立ち直れる自信がない。


「浮気した元彼だっけ?」

「そうそう。どうしても躊躇っちゃうよね。」

「ならそんなにガチガチに考えて付き合わなくてもいいんじゃない?まだ若いんだし、遊んでナンボでしょ。」


もっと気楽に考えたら、の言葉に声が出なかった。


「でも、相手に失礼じゃ?」

「そう思われた男が悪いってことでいいんじゃない?」


アイスコーヒーと一緒に出されたシフォンケーキのプレートには、チョコペンでワンコが描かれてる。槙君なりの励ましなんだろうか。


「…。うん、ちょっと考えてみるわ。」

「それがいいと思うよ。」


ちょっとだけ軽くなった心は目の前のシフォンケーキに惹かれている。ワンコを崩さないようにフォークで切り取って、たっぷりのクリームと一緒に口に含めば柑橘の香りが広がった。知り合いからもらったレモンを使ってるらしい。普通に美味しい。


「ありがとう槙君。」

「どういたしまして。」

「でも、若いから遊んでナンボっていうのはアカンよ。」


そんなフラフラしてたら、石井さんの時みたいに彩子が怒って絶縁するよ?


それを聞いた槙君はハッとしたように彩子一筋宣言をするのである。

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