人生が終わったようだ⑥
「これで完了ですね。」
署名が済んで渡した誓約書を確認したイケ女は、それを大事にバインダーに挟んで満足気に頷いた。
「そういえば、名前は今のままですか?」
「元の世界を選択しなかった人達には同じ名前を使用することは許可しています。」
それを聞いて安心する。自分で自分の名前考えるのはちょっと恥ずかしかったし。那智なら片仮名にしてもそれっぽいし。
「ふぅ…やっと全員片付きました…。」
「…お疲れ様です。」
いつの間にか手元のバインダーは消えていて、ぐでんと机に突っ伏すイケ女。アタシの前にどれだけの人間とやりとりしたかは分からないけど、同じ説明を何度も繰り返せばそりゃ疲れるよなぁ。
自業自得なんだけど。
「さて、早速転生しますか?産まれ落ちる世界が決まってるならすぐにでも魂をお送りしますよ。」
ちょっとそこのコンビニまでみたいな感覚で言わないでほしい。
今まで触れてきた二次元作品に思いを馳せてみる。制限があるからやっぱり学園ものでワイワイするのがラクな気がする。それも恋愛ものでなくてスポーツ系の。そうなると少年漫画から選んで…。
「そんなに悩むことですか?」
「当たり前です。ちなみに最初がファンタジーの世界で魔法とかが使えた場合って、別の世界に持ち越しは出来ます?」
「次の世界で使用しても違和感ないものであれば継続出来ますよ。もし使用出来なくても、また別の世界に行ったら使えるようになったってこともあり得ますね。」
なかなか便利な仕様だ。それなら最初が学園ファンタジーでも問題なさそう。
「………。」
「………。」
「………。」
「…そろそろ決めてもらっていいですか?」
そんなに急かさなくてもアタシで最後なんだからいいじゃんって不満を口にすれば、この後始末書やらお説教パート2やらで忙しいらしい。だから自業自得…。
「…。決めました。」
「希望を伺いましょう。」
「学園もので。」
「………それだけですか?」
「はい、あとはランダムにします。」
色々注文つけるのもいいかなって思ったけど、どうせ飛べるようになってからは自分の好きに出来るわけだし、最初くらい何が来るか分からないワクワク感を体験するのもありかと。ただ譲れないところだけ。
「分かりました。覗かせてもらって思い入れのありそうな世界に送りますね。」
「覗くって…。まぁ、ありがとうございます。」
お礼を言うとすぐに体が光りだしてポカポカした。この体とはここでお別れなのだと言われなくても分かった。
最後にもう一度あの写真を見たかったな。見なくても彼の笑顔は焼き付いて離れないんだけど。
「友優より良い人いるのかな…。」
「いますよ。どこかに、きっと。」
いってらっしゃい。
彼女の言葉を最後に再びブラックアウトした。