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【sideY】外堀を埋める男

「お前もしかして彩子の彼氏?」

「ちょっと!初対面の人に失礼だからね!?」


目の前の男からの殺気に動けなくて棒立ちになる。

亮君と姉ちゃんが田沼さんとそのお兄さんとご飯に行くって聞いたのは今朝。何故か亮君に俺も行くかと誘われ、なっちゃんが居ないならと断ろうとしたのに姉ちゃんが来いと脅してきて強制参加になったのが昼。

そして一度帰宅し身綺麗にした後待ち合わせ場所で先に来ていた田沼さんへ近寄った瞬間にこれである。


「初めまして。亮君の義弟の本道です。田沼さんの友人の那智さんの夫になる予定の男です。」

「待て待て待て待て。君も何を言っている?」


田沼さんのお兄さんにあらぬ誤解をされてつい口に出してしまった願望に、田沼さんが全力でツッコんできた。同じ田沼で面倒だ。もう田沼兄と田沼妹でいいか。


「お待たせーって、なんで彩子ちゃんは優佑の胸倉を掴んでいる?」

「ちょっと優佑、アンタ何かしたの?」


田沼妹を宥めるのに苦戦していたら、後ろから亮君と姉ちゃんの声がした。なんで俺が何かした前提になってるの。酷いや。


「船橋君!優紀さん!」


二人の姿を確認した途端に手を離され、反動で後ろに傾く。そこまでの力じゃなかったからすぐに立て直せたけど、田沼兄が「あんなに距離近くに…!」ってブツブツ言ってるを見てしまうと、尻もちくらいついて文句言っても良かったかもしれない。シスコン過ぎるだろ。



◆◇◆



「君が那智をねぇ…。」


当日の人数変更にも対応してくれた店に感謝しつつ、田沼兄妹と向かい合う形で俺達は座る。

最初の一杯を頼み、待ってる間に先程のやりとりを亮君達に説明した。二人は俺がなっちゃんのこと大好きなの知ってる(姉ちゃんは亮君が面白可笑しく話したらしい)から、特に驚きもせず、ただ俺の発言には少し引かれていた。


「可愛い弟の為に協力してくれないかな?」

「優紀さんの頼みなら仕方ないですけど…。でも那智、今は彼氏作らないって。」


姉ちゃんナイスだ!なんて上がったテンションも、田沼妹の言葉ですぐに下降する。


「優佑のスマホ見る感じ、別にモテないわけでもないだろうに。」

「お願い田沼さん!俺運命感じちゃったんだよ!」

「運命って…。」

「おい、近いぞ。」


前のめりに頼み込めば田沼兄が彼女の顔を隠した。なんだこの人ホントにムカつくな!

その手を心底うざったいと払い除けて田沼妹は店員が持ってきたばかりのハイボールを飲み干す。


「まぁいいけど。」


承諾してくれてそのまま連絡先を交換する。嬉しすぎて田沼兄が騒いでいる声は完全に無視した。

ほれ、と兄のお酒を奪って飲み始めた彼女がさっそく何かを送ってきてくれたのでトーク画面を開くと、先日あったと聞いていた会社の食事会でのなっちゃんとの自撮りだった。

可愛すぎて新しい待ち受けにしたのは言うまでもない。

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