全滅どんまい③
「著しく逸脱した世界の基準が分からないですねぇ…。」
動揺を悟られないようにマキアートを口に含み冷静を装う。氷が融けて少し薄くなっていてあまり美味しくない。
確かにアタシも故意にストーリーを変えることは出来ないけど、こんなペナルティではない。強制的に別の世界に飛ばされるとかそんなもんだ。
あれ?もしかして、それを利用して違う世界に飛べる?運命の相手とどちらが優先されるのだろう。
「そんなの私だって分からないけど、攻略キャラの誰かとエンディングまで行ければ大丈夫だと思うの!だから、お願い!私、まだ消えたくないの!」
「確かにそれなら消えずに済みそうですけど。それ、アタシに何もメリットないじゃないですか。」
せっかく自分の好きな世界に来たのに消えるなんてのは嫌だろうけど、何度も言うように自業自得だから当然というか。アタシが来たことによって彩子や石井さんの動きが変わった可能性はあるかもしれない。でも、彼女がヘマしなければここまで酷くならなかったはずだ。
そう続ければ彼女は俯いたまま動かなくなってしまった。
「それと、もう駄目だと思いますよ。」
「っそんなのまだ分からないじゃない!隼人君さえ攻略出来れば…!」
「あれ見てもそんな風に言えます?」
人を指差すのは失礼だけど、彼女に現状をしっかり把握してもらいたので仕方ない。アタシに促された狩野さんは泣きそうな顔で後ろを振り返った。すぐに小さく鼻を啜る音がする。
「なんで…。」
「アタシ達みたいな異物が混ざった影響なんじゃないですかね?」
アタシがこの店に入ってあの子がそうなのだとすぐに分かったと同時に、これは無理だなと思った。
ちょうど仕事が終わったのか先程の二人がスタッフ専用の扉から出てくるが、人目も憚らず手を繋いで楽しそう。仕事中も異様に距離が近かったし堂々とボディタッチしていたから、この店公認のカップルなんだろう。そういうのに寛容な世界らしい。
攻略の為に何度も此処に来ているだろうに何故彼女は今まで気付かなったのか疑問だ。
「よりによってBL…!」
「勝ち目はなさそうですよねぇ。」
「待ってよ、じゃぁもう私…。」
「…どんまいですね。」
彼女が心を入れ替えて死に物狂いで頑張れば、もしかしたら駄目になったルートを復活させることが出来るかもと思うけど。違反とみなされて消されるまでにどのくらいの時間がかかるのか分からないし、正直間に合わないのはほぼ確定でしょ。イケ女との交渉は不可能だし、彼女はこれから毎日いつ消えるか怯えながら暮らすことになる。可哀想だけどしょうがないよね。
「まぁ、最後の日まで頑張ってください。」
更に薄くなったマキアートを飲み干して立ち上がる。彼女の横を通り過ぎてカップを捨て、先に外に出ていた彼等を追い越すように駆け足で駅に向かった。
ヒロインの居ない世界って、流れ的にどうなるんだろうね。




