全滅どんまい①
食事会の修羅場は翌日には全社員が知るところとなった。居心地の悪さを感じながらも自分以上に注目されている存在がいるからか、石井さんは自分にこれ以上視線が向かないようにひっそり仕事をしてるらしい。今がチャンスとばかりに接触をしようとする女性社員が完全スルーされていたのを見たと言っていたのは誰だったか。
石井さん以上に注目されている狩野さんは、会場で一緒だった男性から距離をとられてイライラしているそうだ。取引先に今回のことが知られるのも時間の問題だろう。そうなるとまたルートが一つ潰れるわけで、彼女も必死に挽回してるがまぁ無理だと思う。
(カフェの店員しかもう残ってないからそっちに必死になるしかないだろうなと思ってたんだけど…)
「お決まりでしたらどうぞー!」
見た感じは大学生と言っても違和感はない。促してくれたシルバーのインナーカラーが特徴的なイケメンを目に入れた瞬間、最後の一人だとすぐに分かった。
仕事帰りにコーヒーが飲みたくなって適当に寄った店なのに。確かに職場の近くって彩子が調べたけど、エンカウント率よ。
受け取ったマキアート片手に店内が見渡せる席に座って人間観察を試みる。狩野さんの姿はなかった。仕事を押し付ける男性社員がいっきに離れていったことによって毎日残業をしていると誰かが言っていたな。ざまぁとしか言えない。
(見た目めちゃめちゃチャラいけど、実際はどうなんだか)
彼の隣で作業しているこの子方が個人的には好みだ。見た目が。
これ以上ガン見するのもバレた時に恥ずかしいので、バッグからスマホを取り出してメッセージの確認をする。いまだに次の約束が確定しない優ちゃんはここ最近連絡する回数が少ない。結構大きい現場にいるらしく、毎日疲労困憊だとか。暑い日が続くし体調崩さないか心配である。
彩子は船橋さん夫婦と会うらしい。お兄さんが有休を取ってこっちに居るから久しぶりに集まってご飯に行くってげんなりしてた。この前の男性の話が出たらまたうるさくなるから口止めしないとって仕事中にブツブツ言っていたのは確認済み。
(とりあえず優ちゃんに当面の予定を伝えておいて、最悪この前みたいに急でも構わないってしとくか)
そうでもしないと多分今年はもう会えない気がする。別にそれはそれで問題ないけど、せっかく出来た新しい友達だし、なんなら彼のお姉さん達と仲良くなりたい。
「………ぁ。」
カップの半分を飲み切ったところでレジ前が騒がしいことに気付く。視線を持っていって激しく後悔した。
恐らくあのイケメンとお喋りしていて隣の子に窘められたのだろう。
不機嫌を隠そうともしない顔が自分を見つけて更に酷くなり、こちらに向かってくる狩野さんに溜息しか出ない。




