雨とお誘い③
急なお誘いだったからお店で待つと思いきや、帰宅中に予約を入れていたらしい。この世界の男性はスマートだな。
「「お疲れ様でした。」」
昼間は乾杯しなかったなと考えながら本道さんとグラスを合わせる。来る途中でウコン飲んだから多少調子に乗っても大丈夫なはずだ。
「本道さんってもしかしてお酒弱いですか?」
「え、どうしてです?」
「この前もでしたけど、ずっとハイボールちびちび飲んでるんで。」
どうも自分の周りにはお酒が強い人が集まるようで、本道さんみたいに飲むのを見るのは初めてだった。正解だったのかは分からないが、彼は持っていたグラスを置いた。
「弱くはないんですけど、酔うと面倒くさくなるからほどほどにしろって亮君に…。」
「船橋さんに?」
「亮君は俺の三番目の姉ちゃんの旦那さんなんです。」
先日の彼を思い出しているとそんなことを言われた。三人もお姉さんがいるとか凄いな。末っ子長男、さぞかし溺愛されていたんだろう。
義兄となる船橋さんとの付き合いも長いらしく、遠慮がないらしい。
そのまま本道さんの家族構成で盛り上がっていると、何かを決心したような顔になった。
「あの!」
「ん?どうしました?」
「なっ…ちゃんって呼んでもいいですか…?」
「っ。」
壺きゅうりに伸ばしていた箸が一瞬止まったのを、彼は気付いてしまっただろうか。そう思って視線を向けたが、強張った顔をしているだけでアタシの動きを気にしている素振りはなかった。
それに安心してきゅうりをつまみ、一口。
「…駄目でした?」
「…いや、そう呼ばれるの久しぶりでちょっと驚いただけです。構いませんよ。敬語とかも必要ないんで。」
「っありがとうございます!俺のことは優ちゃんって呼んでください!」
「君じゃなくて、ちゃんなんだ。」
とても嬉しそうにしている本道さん、もとい優ちゃんに許可して良かったと素直に思えた。
自分をそう呼んだ元彼の姿と被って見えたことは絶対言えないし、知られたくもない。全然似ていないのに何故そう見えたんだろう。
「なっちゃんはいつこっちに引っ越してきたの?」
「ゴールデンウィークだよ。片付けだけで休日が終わっちゃって全然遊べなかったんだよね。優ちゃんはずっとお仕事だったの?」
「うん。俺達に長期休暇なんて無いに等しいから…。」
キラキラした瞳を向けてきたり、しょんぼりしたり。
感情がくるくる変化して、やっぱり全然似てない。




