雨とお誘い①
「用は済んだだろうからアタシはもう帰るけど、彩子はどうする?」
「私はこの後予定あるから、このまま此処で時間潰すつもり。」
お腹も満たされたのでそろそろと思い立ち上がる。隣の彩子はまだ居座るようで、メニューとにらめっこしていた。
伝票を手に入口へ向かうと、外が何やら騒がしい。
「なんか五月蝿いですね。」
「少し前から降ってたみたいで。今は土砂降りだよ。」
槙さんの言葉に耳を澄ませれば、確かに雨音だった。急いでいたせいで天気予報を確認せずに来たものだから、傘など持ち合わせていない。
「だいぶやばいですね…。コンビニで傘買わないとかな…。」
「俺の折り畳み傘で良ければ使う?」
「え、そしたら槙さんどうするんですか。」
この建物の一階にコンビニあったよなぁと考えていると、素敵な提案をしてくれる彼。一度奥に引っ込んで、戻ってきたその手にはシンプルな黒い折り畳み傘。
「夜までは流石に降らないだろうから使って。もし降ってたら卓斗呼ぶから。」
「…ありがとうございます。」
男物だからそこそこ大きいだろうし、この雨でもそこまで濡れなそうだ。会計後にもう一度お礼を言ってエレベーターに乗り込む。
連絡先聞くの忘れたけどお店に返しに来ればいいかなんて思いつつ袋から取り出そうとすると、一緒に小さい紙が。
(お店の名刺…?…あっ)
よくある宣伝用の名刺の裏には数字の羅列。きっと槙さんの番号だ。
あの一瞬で用意するとか凄いな。イケメンだ。石井さんが外側イケメンで、槙さんは内側イケメン。いや、決して顔はイマイチというわけではないが、石井さんの顔面偏差値が高過ぎるせいで普通に見えてしまうのだ。
(家に着いたらすぐに連絡しよう)
ポケットだと濡れて駄目になってしまいそうだったのでしっかりとお財布にしまう。目の前に広がる土砂降りな景色に覚悟を決めた時、スマホが震えてるのに気付いた。
どうやら着信らしい。
「もしもし?」
『もしもし!本道です!』
「わ、どうしました?今日も仕事ですよね?」
『そうだったんですけど、急に雨凄くなって仕事進められなくなったんです。そっちも結構降ってるみたいですね。』
声の主は本道さんだった。広い範囲で土砂降りらしい。確かにこっちのものではない雨音が聞こえてくる。
「だいぶ降ってますね。お疲れ様です。」
『ありがとうございます!それで、今から帰宅するんですけど、良かったら夜ご飯しませんか?』
「え。アタシは大丈夫ですけど、本道さん疲れてるんじゃ?」
急なお誘いにビックリする。折角早く帰れて明日休みならゆっくりするべきだと思うが。
『大丈夫です!…雨の中こっちまで来てもらうの申し訳ないんで、そっちに行こうかと思うんですけど…。』
「アタシはそっちでも大丈夫ですよ。何時頃向かえばいいですか?」
元気な声から一転、本当に申し訳無さそうに言ってくるが、昼から飲んだくれてる女にそんな気遣いは不要である。それに、調べたら夕方くらいには止むようだし。
『…じゃぁ、17時半でもいいですか?』
「了解です。駅に着いたらまた連絡しますね。」
そう告げて一度通話を切る。
現在の時刻は14時。一回家に帰っても余裕はありそうだ。
先程より強くなった気がする雨の中、水溜りも気にせず急いで駅に向かった。




