人生が終わったようだ③
「驚かないのですね。」
「驚きというか…。一応ヲタクと言われる人間なんで、ラノベみたいな展開だなと。」
逆にイケ女の方が驚いているようだ。
「本来死ぬはずのない人間が多数死んでしまう…。前代未聞の不祥事に私の上司は大層お怒りになりまして。対象の方にお詫びしている所なのです。」
「神様に上司とか…。お詫びってやっぱり転生とかですか?」
こくりと頷いたイケ女にほんの少しだけテンションが上がる。正確な人数は分からないが乗っていたのは満員電車だったし、相当な人が亡くなってしまったんだろう。
他の人の転生先を聞いてみたが、個人情報扱いになる為公表できないとのこと。
「皆好きな二次元の世界に転生したのか…。」
「皆が皆ヲタクだと思わないでください…。二次元の世界へ旅立った人は勿論いましたが、ほとんどの人は元の世界で新しく生を与えられるのを待つことにしていますよ。同じ人間で戻ることは不可能ですが、新しい人間として同じ世界に転生することは可能ですから。ちなみに、今持っている記憶はそのままです。」
冒険しない人間が多いらしい。同じ世界なんて、ふとした時に元彼のことを思い出しそうで絶対嫌だな。
「さて、貴女はどうしますか?ヲタクらしく二次元の世界を希望しますか?」
「うーん…。」
正直とても魅力的だ。でも。
「ぶっちゃけこのまま消えるのもアリかと思ってるんですが。」
「さっき手が消えてビックリしていたのに何を…。というか、なんで急にそんな死んだような顔してるんですか。」
「いや、あんたのせいで死んだんだから、ようなじゃなくて死んだ顔なんですけど。」
死んでる人間の死んだような顔って意味が分からん。イケ女は気まずくなって視線を机に移した。
「イケ女さん、アタシ、彼氏にフラれてるんですよ。」
「変な名前付けないでください。……あぁ、これのことですね。」
彼女はまたバインダーを確認して何かを読み込んでいる。ホントそれどこから仕入れたの。元彼のことも書かれてるとか怖いんだけど。
ドン引きしている自分を放置して、イケ女の眉間に皺が刻まれていく。不快になるなら読まないでくれ。
「随分とまぁ…。これならそんな顔になるのも…残念な生活を送っていたのも納得というか…。」
「おい。」
「この男性のこと、本当に愛していたのですね。」
ぺらり、と。バインダーから外して渡されたのは、自分の部屋に飾ってあるはずの元彼との写真だった。
仕事でなかなか休みが取れない元彼と初めて遠出した時に、他の観光客の人に撮ってもらったやつだ。寄り添って笑う二人に胸が苦しくなる。もう戻れない関係にも、同じ世界で転生したとしても二度と会えないであろう彼にも。
机に突っ伏して泣くことしかできなかった。