あぁ、コイツ、ヒロインだな①
「那智ー、総括準備終わったー?」
「明日頼む分は終わってるー。キリが良いから、今日はここまでにするよ。」
「手伝う必要なかったかー。まぁいいや。もうすぐ定時だし、どっかでお茶して帰ろ。」
傍らに積まれたファイルを日付順に並べていると横から声を掛けられる。自分の教育係である彼女、田沼彩子とは年齢が同じということで、休憩中やプライベートは特に敬語を使わずとも話すくらいには仲が良くなった。
飛んできて2週間と少し。連休明けに出勤して、昔を思い出したのも既に懐かしい。死ぬ前は派遣で割とラクに仕事をしていたから、正社員になんて戻るつもりなかったのに。
新しいこと覚えるのは苦ではない。それが自分に合っていれば。
「明日は総括提出したら送付前準備だねー。」
「それが終われば、金曜はラクなんだよね?」
「そ!なんなら飲みに行く?」
片付いたデスクに置かれている時計が定時になり、フロアにチャイムが響く。ガタガタと席を立つ人達を見ながら少し待ち、疎らになった所で彩子と一緒に退出した。
「まだこの辺分からないから、良いお店紹介してくれると嬉しいかな。」
「いいよー。駅前にあるんだよねー。そーだ那智、今度…げ。」
「ん?」
エレベーターホールで待っていると彩子の顔が引き攣る。視線の先に嫌いな上司でもいるかと思いそちらに顔を向けると、可愛らしい女性がイケメンと共に近付いてきていた。
女性も彩子に気付いたようで、
「あっ、田沼さんお疲れ様です!」
と彼女に挨拶している。イケメンも軽く会釈しているので、とりあえずそちらには自分も会釈しておく。
「狩野さんもお疲れ様です。」
人当たりの良い彩子には珍しい返しに少し驚きつつ、イケメンには挨拶無しなのかと疑問に思う。心なしか空気が重い気もする。
「杉浦さん、二人は総務課の狩野さんと石井さん。」
「え、あ、初めまして…杉浦と申します。」
固い表情のまま紹介してくる彩子。それでも職場の人間相手だから呼び方を変えるくらいには余裕らしい。
「貴女が新しく入ってきた杉浦さんなのね!私、狩野さくらって言います!良かったら仲良くしてね!」
「…石井です。よろしくお願いします。」
総務だからアタシの書類を確認でもしていたのだろう。狩野さんはキラキラした笑顔で自己紹介して、そのまま強引に握手をしてきた。
あ、この感じ。
この子ヒロインだ。




