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朝顔畑の長石さん  作者: 傘霧千夏
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夏みかんと朝顔

■■県●●郡。

人が住んでいるとは到底思えないような山奥に、ある集落があった。

集落といっても、人口密度が低すぎて集落内に環状線が走っているほど。

人口100人ちょっとの大きめな集落。

その集落の名前を、長月村という。




2019年、夏。

やばい。

なんてことだ。俺としたことが。

電車で寝過ごしてしまった。


羽渡誠は焦っていた。

学校から家までのたった二駅の間で寝てしまい、環状線をぐるぐると回り続けた挙句、どこなのか見当もつかないような駅についてしまったのだ。

この電車は環状線なのだからそのまま乗れば家に帰れるはず。

いや、でもなぁ。

せっかく来てみたんだし降りてみようかな。


そこは『朝顔畑』という名前の駅だった。

文字通り駅の目の前からずっと朝顔畑が続いており、入道雲、夕日、朝顔の花の色の調和がなんとも美しい。


畑の中に一本道があった。

といっても幅の広めな畦道だが。

道がある→人がいる→家があるという簡単脳内連想ゲームで、羽渡は道を歩いてみることにした。


意外と田んぼもあった。

そりゃ田んぼないと食えないよな。

基本、長月村は自給自足で成り立っている。

現代日本では考えられないが、豊かな栄養素を含む土と上質な湧き水、そして広大な土地のおかげで自給自足が可能になっているのだ。


一本道をずっと歩くと、民家が現れた。

藁ぶきで、平屋で、こぢんまりとしたthe,民家という感じの民家。

表札は……出てない。

ここで住民に声をかけてみるべきか?

来た道を引き返しさっさと家に帰るべきか?

そもそも人住んでるのか?

とりあえず、親から心配のメールが来ていたので大丈夫だと返信しておく。

こんな山奥だってネットは普及しているのだ。

時刻は夕方4時ごろ。日が延びてきたとはいえ、そろそろ暗くなってしまう。

また明日来てみよう。

そう思って羽渡は来た道を戻ろうとした。

「おーい、そこの君。」

「はっ、はいっ!」

いきなり名前を呼ばれてびっくりした。

声が変になってないだろうか。絶対変だった。

若めでちょっと頼りなさそうなひょろっとした男の人の声。耳にやさしい良い声だ。

背中側から声をかけられたため顔は見えないが、おそらく20代前半ぐらいだろう。

「道に迷った?」

うーん。迷ったかはちょっと微妙だ。

テキトーに下車して一本道を歩いただけだから迷ってはいないし。

ただ迷ってないとも言い切れないのも事実。

「迷いました。たぶん。」

最強にして最高のはぐらかし言葉、『たぶん』。

これ使っときゃなんとかなる。

「朝顔畑の駅から?」

「あっ、はい。」

くるっと振り返って声の主を見てみた。

見立て通り、若い。襟足が長い黒髪で、半袖の白無地のシャツに、ジーパンという出で立ち。どこにでも居そうだ。

「ちょうど夏みかん取ってきたんだ。よかったらあげるよ。」

都会では知らない人と喋ってはいけないらしい。が、ここはド田舎。人と人の距離が近いので知らない人に声をかけられるなんて普通だ。

それに、夏みかんは欲しい。

「あ、貰います。」

「良かった!これ美味しいんだよ。君、名前は?」

「羽渡誠です。艾原の方に住んでます。」

このぐらいの個人情報ならバラしても構わない。

「艾原か。遠くから来たね。」

艾原と朝顔畑は環状線のちょうど反対側にある。電車で30分ほどだ。

「お兄さんはなんて名前ですか?」

おじさんという年齢ではないし、お兄さんと呼ぶくらいの常識は持ち合わせている。

「俺はね、長月夏芽だよ。ここに住んでる。」


そう言ってこの人は、つやつやの夏みかんを俺にくれた。

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