謎スキル『イヤボーン』で俺は異世界を救ってみせる!
私が知らなかった用語を教えてくださったアホリアSSさんに感謝を。
「この程度か、勇者とその愉快な仲間達よ!?」
「くっ……その呼び方、実際に聞くとマジでムカつくな!」
俺の名前はガイ。
現在いる異世界『バルジニース』に転生した異世界転生者だ。
ちなみに前世における俺はいわゆる日本出身の社畜で、それで二桁クラスの連勤による疲労のあまり、注意力が散漫になり交通事故に遭ってしまい……それからは当時流行っていた異世界モノのテンプレ通りである。
そんな俺を不憫に思ったと言う神様が、俺に『魔王討伐』の使命を課すのと引き換えに、二度目の人生における魔王討伐の旅や、その後の生活で必要になるだろうチートスキルやら何やらを授けてくれて今がある。
だがしかし、そんな俺は二度目の人生における最大のピンチに見舞われていた。
長い長い冒険の果てに、神様が言うところの魔王のもとまで、これまでの旅の中で増えた仲間達と一緒にようやく辿り着き、戦いを仕掛けたのだが……なんと俺達の如何なる技も戦術も、魔王に一切通用しなかったのだ。
まさかこれほど魔王が強いとは……正直ムリゲーだ。
まさか魔王も俺と同じ異世界転生者で、でもって、俺の保有するチートスキルを超えるチートスキルを持っているんじゃないかと疑ってしまうほどに。
「まったくもう魔王様~」
「私達も出番が欲しいっすよぉ」
「フフ、でも私達を想ってそんな気遣いができるあなた様も……好き♡」
魔王の傍らに控えていた、俺の仲間以上に際どい服装をした女性幹部の三人が、魔王に対し甘えた声を出す。魔王も俺と同じ転生者じゃないか、と思う理由の一つになるほどの甘い声だ。
「おっと、すまんすまん」
女性幹部達の意見を聞き、魔王は苦笑した。
「勇者が異世界転生者だと聞いておったのでな。念には念を入れて、最初から本気を出したのだが……少しは足掻いてくれて楽しめたが、まさか本気の私に敵わないとは思わなんだ」
ッ!? 魔王は魔王で、俺の力を警戒して最初から本気を出したのか。
その点については、最初にナメられ手加減をされるよりもショックは小さいが、それにしても……聞いていた?
――いったい誰から?
「つ、強過ぎる……ッ!」
「くっ! 私達は……魔王に勝てないの!?」
「ああ、我らが神メロワール様! 私達に、今こそ力をお貸しください!」
魔王とのあまりの実力差に、魔王のいる玉座の間まで一緒に来た、俺の魔王討伐の旅の初期メンバーこと、騎士のロイヤと、魔術師のリース、修道女のヘレンが、目からハイライトを失いつつ叫ぶ。
ちなみに他にも仲間はいるが、彼女らは別の部屋で魔族軍と交戦中だ。
正直に言うと、俺も絶望のあまり叫びたい。
だがそんな事すれば、一気に仲間がパニック状態になり……皆殺しにされるかもしれない。みんなを率いる勇者として、そんな結末だけは絶対避けなければ。
「…………くそっ、こうなったら」
そして俺は、一か八かの賭けに出る決断をした。
それは、神様から貰った究極最終手段。
今までにも何度か……ピンチの度に使おうとは思ったが、神様から授かった時に『たった一度しか使えない』と知らされ『可能であれば魔王と相対した時に使ってほしい』と言われ、さらには『あまりにも強く、リスクがあり過ぎる力』とも忠告された、俺にとっては謎なスキル――『イヤボーン』を使うという選択だ。
その詳細は、残念ながら神様は教えてくれなかったけど。
授ける時、悲しそうな表情を俺に向けていた事、そして、その名前からして……個人的には、相応の対価と引き換えに……俺の全スペックを、一時的に全開にするスキルではないかと思っている。
ちなみにイヤボーンとは、俺の世界に存在する単語だ。
正式名称は『イヤボーンの法則』と言い、主人公(主に女性)が「いやぁー!」と叫ぶと、その主人公の隠された能力が覚醒する事から名付けられた……らしい。
そしてこのスキルは、それを再現するモノだろう。
神様はスキルについて詳しく教えてくれなかったので、正直怖いが、俺どころか仲間達も殺されかけている今の状況から逆転するには……もう、これしかない!!
「うおおおおお!! 今こそ発動しろ!! スキル『イヤボーン』!!」
仲間のために、この世界のために俺は……叫んだ。
するとその直後、なぜかヘレンが血相を変えて――。
※
俺の名前はゲント。
神様に頼まれ異世界転生をし魔王となった者。
神様に魔王に転生させられるのも変な話だが、その神様曰く、その世界での種族間のパワーバランスを調整――数が増え過ぎ、さらには軍事力を無駄に大きくした人族を減らすために、今すぐチートスペックな魔王の存在が必要なんだとか。
そう言われて、俺は納得した。
ようは、俺のいた世界におけるホモサピエンス以外の種族が、ホモサピエンスの手によって滅ぼされる寸前だとか、そんなギリギリの状況なんだろう。
そう言われては、協力しないワケにはいかない。
前世では悪役令嬢の汚名を着せられた令嬢を貰い、彼女を俺にできる範囲で幸せにした上で、彼女を悪役令嬢だとして貶め、婚約破棄した令息とその愛人をざまぁし、その果てにその令息に逆恨みされた、我が最愛の令嬢を庇い死んだ身としては……前世と変わらず、困ってる存在がいるのであれば放っておけない。
なので俺は魔王に転生し、魔族を人族から護る道を選んだ。
ついでに言えば、我が最愛の令嬢であるビアンカが望めば……彼女の死後、彼女を俺と同じ魔族として転生させてくれるよう神様に頼んだ上でだ。
そして後に、彼女は天寿を全うし……現在俺の部下の一人にして婚約者たるエルディネスとなっている。
さらには、彼女が部下となってから初めてにして、今年に入ってからは三度目になる……神様曰く、この世界のパワーバランスを崩さんとする邪神の策略で、この世界に異世界転生したという勇者による、我が魔王城への強襲の時も、俺をそばで支えてくれて、いるのだが……。
「ッ!? ゲント様! 今すぐお逃げください!」
そのエルディネスは血相を変え……勇者のステータスを覗く魔術を発動しながら叫んだ。
いったい彼女は何を視たのか。
少々気になったので、俺も魔術で勇者のステータスを視ようとして、
「い、いやあああ!! ゆ、勇者様ぁああああああああ!!」
俺は勇者陣営の一人たる、俺達と同じく勇者のステータスを覗く魔術を発動していた修道女が、叫び声を上げつつ、珍妙な名前のスキルを発動せんとしている勇者に近付くのを目撃し、
「…………なん、だアレは……?」
そしてその直後。
俺は勇者のステータスに表記されていた【只今ヨリ、勇者爆弾発動シ〼】の文字を視て……。
そして、世界は――。
「やったぞ! 『勇者爆弾』はちゃんと発動したぞ!」
神々が集う高次次元にて。
異世界『バルジニース』を覗いていた神々が声を上げる。
「魔王と、ヤツの背後にいる『世界を喰らう邪神』だけでなく、ヤツが喰らわんとして、現在そのほとんどを掌握されていた次元をも爆破する事ができたぞ!」
「油断するな! 爆破した次元中にヤツが伸ばしていた根っこの一部が、別の次元へと吹っ飛んだぞ!?」
「急いでその根っこの除去に取り掛かるんだ!」
「その根っこを基にして新たなる『世界を喰らう邪神』が生まれる前に!」
「ッ!? 待て、崩壊した次元から『世界を喰らう邪神』が出てきたぞ!」
「まさか、ヤツは不死身か!?」
「いやよく見ろ! ヤツは深手を負っている!」
「だがこのまま手をこまねいていてはすぐに回復される! 今すぐ追跡しろ!」
「ダメです! 『世界を喰らう邪神』ロストしました!」
「くそったれがぁ!」
「ロストした座標の近くにある次元に、今すぐ勇者を……我々が開発した時空崩壊スキル『イヤボーン』を付与した『勇者爆弾』を送り込むんだ!」
「早くしなければ他の次元にまで被害が広がるぞ! 急げ!」
「今回の実験で時空崩壊スキル『イヤボーン』がヤツに有効だという事が判明したのだ。ヤツが『勇者爆弾』対策を立てる前に仕留めるんだ!」
「我々が創り出した次元にまで『世界を喰らう邪神』が来る前に!」
「早く……早く『勇者爆弾』とする……異世界転生に耐えられる、死んだ人間の魂を見つけ出せ!」
異世界転生・転移した方々に問いたい。
あなたは自分に付与されたチートスキルをどうお思いか。
特に、ヒトの枠を超えるほど強い、神や天使経由の異世界転生者・転移者に問いたい。
神々は本当にあなた方のために異世界へと送りましたか?
作中に登場した邪神だけじゃない。
某虚無った作品に登場するような、デタラメな存在を最終仮想敵として見据えた神々が、あなたを神々クラスの力を得た傀儡とするためだけに……何度も異世界に送り込んだ可能性を否定できますか?
転生した先で死ぬ度に、その転生先の世界での記憶を消去し、また別の世界へと転生させ、それを繰り返し……そして、知らず知らずの内に精神を摩耗し尽くした果てに、あなたが最終仮想敵のもとへと送られる可能性を……否定できますか?
ふむ、なんていう、人によっては上から目線な事を思ったり口にしたりする……前世で学生だった異世界転生者・転移者に問いたい。
あなた方のその言葉が、何度も何度も異世界へと送られ、そしてその度にその間の記憶を消された結果のモノである可能性を否定できますか?
邪神は拙作『転生系勇者は異世界ライフを満喫中?』や『愛する幼馴染を永遠に失った勇者は、幼馴染を求めて世界を彷徨う。』でも暗躍して〼(ぇ