恋愛とは……
あれから数日のとある朝、フレーネが店に荷物を持ってやってくる。
「おはようフレーネ、昨日の内に魔道具の作業を進められたから今日はいつもより多少は俺のシフトを増やせる」
「わかったわ。……その、イニウス、話があるんだけど……」
「なんだ? 話してみろ」
彼女は視線を合わせず口を開く。
「お、お父様が婚約者だから、その……一緒に住んだ方が、いいって――」
「なるほど住み込みか」
「……物は言いようね……」
腕を組みフレーネの頼みについて考える。
「部屋は置いてある物は多くないから俺の部屋に入れればいいとして……家具なんかは用意できないぞ」
「それは私の家が工面してくれるって」
「ならいいだろう、別に今日というわけでもあるまい」
「ありがとう」
彼女はそう言った。
「ま、十中八九お前の家だったらいち早く家から追い出したかったのだろう」
「さっきの礼は取り消すことにするわ……」
……………………
店の奥でメモを出し、これからのことを考える。
利益を出すにはやはり店を大きくする、あるいは増やすかだな。しかしその前に顧客を増やす必要がある、そのためには宣伝だな。ニコラ・テスラのように放電ショーも考えるべきか、他に集客するためには……
「イニウスー、相談のお客様よー」
フレーネの言葉で一旦その思考を止め、店の方へ向かう。すると前回の相談の客よりも少し年上に見える少年がいた。
「先払い分はもうご支払いいただいたわ」
「わかった。ではお客様、そちらにお座りください」
すると彼は了承してカウンターの内側へ入り、椅子に座る。それを確認すると俺は向き合うように座る、フレーネは俺の方の斜めから座って見ている。
「では早速、ご相談の内容をお教えいただけますか?」
「はい、自分は今年で学校生活が最後でして。それで卒業までに……」
彼は口を止め俯いた。一体どうしたのかと考えると彼は息を吸って声を出した。
「彼女が欲しいんです! 憧れの子と付き合いたいんです!!」
そう彼は言い切った。なるほど、普通ならある程度の年齢なら当たり前の欲求である。
すると横からフレーネが小声で話すかけてきた。
(ちょっと、大丈夫なの? いくらイニウスでも難しいんじゃないの?)
(何も問題はない、まあ見とけ)
「わかりました、ではご相談の内容を詰めていきましょう。まずお客様が憧れている女性というのは交際相手、もしくは婚約者はいますか?」
「いません! 好きな人がいるかも多くの人に聞きましたが誰も知りませんでした!」
「わかりました。でしたらやり方は多くあるでしょう、まず一番手っ取り早い方法として考えられるのは……金です」
そう言うとフレーネが口を挟んできた。
「ちょっと、あんたねえ、ここでもカネカネって……」
「何を言っているんだ? 合理的判断ができる女ならイチコロだぞ」
「あの……そこまでお金はないんです……」
「そうですか。でしたら別の方法を考えましょう」
横でフレーネが「ほら〜」などと声を出すが無視する。
人間の恋愛でカネ以外だったらこれらだろう。
「そうですね、ではこんな話をいたしましょう」
フレーネと客は興味ありげに話を聞く態勢になる。
「人間というのは実に……実に……実にバカな生き物なんですよ!!!」
それを聞くと二人とも驚く。少しするとフレーネが俺に向かって口を開いた。
「ちょっとあんた!? いきなり話が突拍子すぎるでしょ!!」
「まあ話を聞きたまえ。バカというのはここでは誤解しやすい生き物、という意味です。例えば、吊り橋効果と言って恐怖による鼓動の増加を誰かといることによって起きている、つまり好意があるんじゃないか、と頭の中で錯覚するのです。他にもミラーリングと言って自分と同じ行動を取られると味方と判断するように錯覚を起こす」
彼は少しずつ理解できているようだ。
「これを応用して要は心拍数が増えるタイミングで二人になれば良いのです。別に心拍数だけではありません、幸福感でも構いません、あるいは物でも。つまりは彼女にあなたに好意があるのではと錯覚させるのです!」
フレーネは目を点にしている、まあ彼女は聞いていなくとも問題ないが。
「あと強く精神に訴えるのは、承認欲求です! とにかく褒めるのです、存在意義を。バレなければ嘘でも構いません」
それを聞くと彼は「とにかく褒めればいいんですね!」と目を輝かせて言った。
「基本は、です。しばらく、だいたい数日ほどでしょうか。それくらい褒めたら、同じことで褒める回数を減らします」
するとフレーネと客が同時に「なんで!?」と口走る。
「人というのは欲深い生き物でして。例えば、ある日突然食事の量が減ってしまうとします。多くの人――いえ、生き物はなんとかして元に戻そうとするはずです。あなたに対して努力し始めるのです。それで努力されたと感じたらもう一度褒めちぎれば良いでしょう。それを繰り返してください」
言葉を失う客に対して指を立て「さらに」と言う。
「繰り返すことによって【サンクコスト効果】というものが始まります。こちらはどうせここまでやったのだから止めるのが勿体ない、と感じることです。何かしらの列に並んでて、途中でそこまで今すぐ必要でないと気付くのに勿体ないから並びきろう、と感じることはあるでしょう。そこにつけ込んで彼女をそのサンクコスト効果を引き起こさせます」
少し口角を上げてからしてから話を続ける。
「つまり依存させるのです」
そこまで話をすると彼は硬直してしまった。
「いかがでしょうお客様、わからない点がございましたら一つひとつお答えしますよ?」
「え、え、えっとー……つまり何をすればいいんですか?」
「まずは二人きりになるタイミングを作り――」
「あの、そこから難しいです……」
ふむ、そうか。だったら多少無理矢理になるが……
「でしたらあと二人くらいと一緒にちょっと遊びにでも誘ってなんとか彼女と二人だけの場面になるように打ち合わせしましょう。なに、顔見知り程度でも昼食でも奢ってやればそれくらいの言うこと聞きますよ。鍵は『みんなで』『ちょっと』です」
「わかりました、それで?」
「その場面で、なんとか裏の彼彼女に手伝ってもらい心拍数が上がるような場面に誘いましょう、最初から褒めるのは怪しがられます。
例としては……まあふざける程度に彼彼女に驚かしてもらうのが自然でしょうか。それを何回も繰り返しましょう。また、美味しいものを共に食べるのもいいかもしれませんね」
「わかりました!」
「そうそう、たまに同じ動作をするのを忘れずに。それで、数回ほど繰り返していけば褒め始めていきましょう。そして、褒められるように努力すると最初に感じたら、ほんの少し褒める回数を減らします。そこで努力の回数が増えたと思ったら回数を戻しましょう。それを何度も繰り返していけば、後はお客様からアプローチすれば成功間違いなしでしょう」
「はい!」
その言葉を聞いて、説明しながら書いていた紙を渡す。
「これは……?」
「先程の説明をメモしたものです、サービスです」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ」
だがな……
「ここまで説明しておいてなんですが、最強の方法がございます」
「最強の、方法……」
「ちょっと、危ないことじゃないでしょうね?」
口角を上げ目を閉じて返答する。
「なに、確認する」
「するって何よするって!?」
「一週間後にお越しください、多少のお金を持って。ご安心ください、商品の紹介をするだけです」
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星一評価、辛辣、一言感想でも構いません、ちょっとした事でも支えになります。世界観や登場人物の質問もネタバレにならない程度に回答します。(ガバあったらすいません)
科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが)