ポイントカード
開店時間前、店の奥で二人で机の上で黙々と作業する。この調子なら今日中に始められそうだ。
しばらくするとフレーネが手を止めて言い始めた。
「ああもう! 本当にこんなことする必要ある? 役に立つなんて到底思えないわよ!」
「口を動かしてる暇があるなら手を動かせ。役に立つかどうかは安心するがいい、役に立つ時はくる。この天才が言うのだから絶対だ」
「こんな板に数字書くだけの作業が?」
「ああそうだ。それに契約しただろ、つべこべ言わず働け」
そう話すと彼女は多少文句を言いながらも手を動かす。よく喋るが働きぶりは悪くない、筆記計算も十分にできる。思わぬところで人財を手に入れることができて幸運だったな。
……おや、もうそろそろ時間か。
「もう店開けるぞ、作業はもういいから受付に出ろ。あとは俺がやっておく」
そう伝えると彼女は店の方へ向かう。それを見ると俺は羽ペンを持ち木の板に黙々と十桁の数字を書き込む。
……ここ最近ずっとこれや魔法陣で書き込み作業が多くて右手が痛い……少し手を休めるか。
棚から茶葉を取り出し紅茶を淹れる。カップで喉を潤して、右手開いたり閉じたりしてからを温めることによって疲れを癒す。ずっと手自体は硬直させていて血行が悪かったからな。
飲み干し作業に戻ろうとしたところで、店の方からフレーネの声が聞こえた。
「イニウスー、交代の時間よー」
「わかった、今行く」
店の方へ向う、客は丁度いなかった。そこで彼女が裏へ向かう前に話しかける。
「茶を淹れたが余った、冷める前に飲み切っておいてくれ」
「あんた人をペットに残飯を与えるみたいに……飲むけど」
飲むなら文句など言わなくてもいいではないか。
そう考えるとふと店内の時計が目に入った。そうそう、なぜか前の世界と同じく一日を二十四時間として、一時間を60分、1分を60秒なのだ。やはり60、そして12、24という数字は美しいからだろう。もちろんこの星の自転速度が地球と同じという保証もないのだがな。
今後大きく展開していくとして規格を設定する必要がある。やはり同じm、g、がいい。
mは光が1秒で進む距離の299,792,458分の1……いやその1秒が合ってるのか怪しいのだ。ならば別の基準であるこの星の大きさが地球と同じと仮定して北極から赤道までの一千万分の一が1mである、それを三角関数を用いて調べるまで。
そんなことを考えていたが現時点においてそれよりも重要な情報が時計からわかった。
フレーネめ、三分ほど誤魔化したな……
「ま、いいか」
独り言をを呟き、客が来るまで思考を巡らせる。
…………
時間が経ち、机の上で向かい合い食事をする。彼女が料理を知ると言い始めてから食べる物がうまくなった。味覚に快楽を与えることはストレスを緩和する。
「それで、なんで普通の平民なんかにヘコヘコしなきゃいけないわけよ?」
「簡単な話だ。金を店相応の量持っていなさそうと思われて高慢な態度をとる店と、一応は丁寧に接客する店。どちらが客から人気があるかは明白だ」
そう言うと「そりゃそうだけど」と言って食事に手をつける。
「客に対しての態度は重要だ。それだけで次回から来なくなってしまう客は一定数いるのだ。そもそも客の数が利益に直結する、客が利益を生んで俺が食っていけるようになるのだから店よりも客の方が立場が上なのだよ」
話は聞いているが多少不満そうな顔をして食器を動かすだけだ。
「話は変わるが、あれをこれから出すぞ。どういうものかは説明はしたがわかっているか?」
「もう聞いたわよ。ポイントカード、購入に100ビリアル、明日以降から使えて100ビリアル毎に1ポイント。1ポイントあたり1ビリアルとして使える。でもこんなことして大丈夫なの?」
「安心したまえ、原価と売値の差が最小ものでポイントを貯め、その差が最大のもので使ったとしても利益は出るようになっている」
そう伝えると納得したような表情を見せる。
「確かに客足は増えるかもしれないけど利益減らしてまでするなら、別のやり方があったんじゃないの?」
「ハッ、これだから目先のことしか見えていない凡人は!」
そう口にすると彼女は「どういうことよそれ」と少しの怒りを見せる。
「そう焦るな。そうだな……一年後には結果は目に見えるようになる。」
彼女はそれを聞いてから食器を片付ける、どうやら半信半疑のような反応であった。まあ見てるがいい、確実にそれは俺たちに膨大な利益をもたらす。
正直なところもっとコンパクトにできたらよかったのだが魔道具にする関係で前世でいうところのケータイほどの大きさになってしまったが存在自体が斬新なのでこの程度のサイズなら問題ないだろう。
………………
結局それは今日の客の八割がポイントカードを買っていった。前世ではポイントカードが有料など考えられないが通い続ければ元が取れるということは当たり前だが理解している。
ま、リピーターを増やし購入者を情報を提供してもらえる。最終的に最も利益を得るのはこちらだ。
「イニウス……」
店を閉めた後にいつもなら掃除をするのだがフレーネが声をかけてきた。
「どうした?」
「……ねえ、あんなに表書かなきゃいけないのは聞いてなかったわよ! なんであんな売る直前で言ったのよ!?」
「そういう風に文句があると思ったからな。口うるさく文句を言われる前に伝えればとりあえずやると考えてだな。結局正解だったわけだ」
「いやちょっと待ちなさいよ! 混乱してできなかったらどうするつもりだったのよ!?」
「最悪俺がずっと出ても良かったが、できたのなら問題ないだろう。明日からもよろしくな」
「ああもう! こうなったらやってやるわよ!」
彼女のやる気の火をつけられたなら好都合だったな。彼女は頼りになる、それに扱いやすい。
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