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婚約者

「ようやく見つけたわよ……!」


 今日見てきた人の中では綺麗な方である服を着て、赤い目を持ち、赤い髪を背中まで下ろした少女が店内に入ってきて早々に俺に向かってそう言った。

 ああもう、面倒だ……


「もう閉店時間です。お引き取りくださいお客様」

「客じゃないわよ!」

「尚更お引き取りください」


 そう彼女に言うがが帰る様子はない、本当にどうしたものか……


「あんたが家出てった所為で私は大変なのよ!」

「出てったんじゃない、追い出されたんだ」


 思わず地の口調が出てしまった。まあ客じゃないからいいか、というか早く出てってくれないか……


「そんなもの私にとって同じよ! 私がどうして貴族とじゃなくて平民と婚約してるかわかってるわけ?」

「そんなこと耳にタコができるほど聞いた」


 するとカウンターまで寄ってきて頭を近づけて話を続ける。


「じゃあどうして私がここに来たかわかるでしょ!」

「――顔が近い」

「全くもう、本当にあんたは面倒なんだから!」


 それはこっちのセリフだ。そう思うが口を挟む余裕が無いほど彼女が次の話をした。


「事情は知ってるの。お願い、家に戻って! 一緒に家族に謝ってあげるから、じゃないと私の――」


「いいや! 絶対に戻らないね!」


 そう言うと彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてようやく黙った。だが少しすると「なんで!」と声を上げる。


「なぜなら()()であるこの俺を家から追い出したことを後悔させるためだ。それにお前声が一々でかい」

「……そんな子供の反抗期みたいな馬鹿なこと言ってないで――」


「ハッハッハ。この俺に『馬鹿』と……それはさぞかし優秀なんだろうな。というか早く帰ってくれ、俺は作業しなくてはいけない。営業に支障が出る」


 すると彼女はカウンターを叩いて声を出す。更にその手にはポケットから出した小銀貨五枚があった。


「はい!! 店の前に書いてあったでしょ、私の相談受けなさいよ!」


 成人なら500ビリアルだ。


「……ふむ……まあ営業時間外だがサービスしましょう。お金を払うならお客様です」


 そう言うと彼女は「ほんと猫被るの得意よね……」と言って何故か呆れたような顔をしたが、渋々俺の指示に従ってカウンターの内側の椅子に座った。

 彼女と向き合い、話し始める。


「では一応……どのようなご相談で?」

「あんたが家から出てったから結婚相手がいなくて困ってるの」

「私以外の結婚相手を選べばいいのでは? 現に家を追い出されたので、貴族様とは()()()()、身分が遠くて私は相手には相応しくないと思いますが」

「だ・か・ら! 家に戻ってほしいって言ってるの!」


 声が大きく、身を乗り出して言ってくるので思わず耳を手で塞ぐ。


「私の家は弱小も弱小で王都に住んでいるところをのぞいたらなんにも取り柄のない家なの! だからなんとかあんたみたいな金持ってる家の平民と婚約したわけ!」


 知ってると言ったはずだがな。彼女はこちらの気も知らずマシンガントークを続ける。


「あんたと婚約破棄したらもう一生結婚できないか、体目的の腐敗おっさん貴族としか結婚できないの! そんなの嫌だわ!」

「別に結婚できなくてもよろしいじゃないですかと」

「家のお金ないから玉の輿で送らないといけないの!」


 まあ予想していた結果だがな。なら……


「でしたら……体目当てでなく、老いた男性と結婚せずに、家にお金を送る方法ですね?」


 そう聞くと彼女は「そうよ」と不貞腐れた顔でそう言った。


「でしたら簡単ですね。お客様――いや、フレーネ」


 そう彼女の名前を呼ぶと少し驚いたような顔をした。もう猫を被るのはいいだろう。


「至極単純だ、このまま俺との婚約を破棄などしなければいい」


 そう言うと彼女は「はあ……?」と間抜けな声を出す。

 腕と脚を組んでから話を続ける。


「なに、俺が家にいるよりも金を稼いでお前に貢げばいいのだろう?」

「貢ぐって……そんなの出来っこない――」

「出来ない――それは俺が最も嫌う言葉のうちの一つだ。無論世界の法則的に無理なものは無理だが今回は違う」


 そう言っても彼女はまだ信じていない。


「だって、いくらイニウスが頭良くても、絶対に商会にいた方が稼ぎやすいに決まってる――」

「何を言っているんだフレーネ?



それでは家族に利益を持っていかれてしまうではないか」


 そう言うと彼女は目を見開き何を言ったのかわからないかの様子だ。


「え……? 家庭事情をよく知るわけじゃないし、あんたがすごくお金にがめついのは知ってるけど、少なくとも愛情を持って育てられてきたわけだし――」


「なるほど。フレーネ、お前は情というものを信じているのか。ならばそんな凡人であるお前に一ついいことを教えてやろう」


 彼女は困惑してはいるが話は聞いているようだ。




「世の中は愛、情。そんなもので成り立ってきたのではない。




 世界のルールから人々は成り立ち、その上で人々は利益で成り立っている。」




 そう告げると彼女は目を見開き素っ頓狂な顔をする。少し硬直していたがすぐ我を取り戻せたのか口を開いた。


「それはあんたの持論でしょ。押し付けないで」

「これは自論ではない、事実だ。それに別に愛や情を否定しているわけじゃない」


 そう言うと彼女は疑問を顔に出す。


「ただ、その愛や情も世界のルールの上にあり、利益の上にあるのだよ。世界のルールから説明するとだな……愛だとか情だとかそんな感情、ただの脳が見せる錯覚だ!」


 そう言うと彼女は口をぽかんと開ける。だが俺はそんな彼女に構わず説明を続ける。


「利益の上の話だと、そうだな……誰か親しい人、親でも兄弟姉妹でもいい。彼、彼女に愛情表現をする、もしくはされると嬉しいだろう? どうだい、フレーネ」

「ふぇ!? それは……嬉しいに決まってるでしょ……」


 やはり人間というのは単純な生物だ。これでもまだ複雑な方なのだがな。


「そうだろう、そうだろう。他人を愛して快楽を生み、他人から居場所を認められることによって承認欲求を満たし快楽を得る、結局は人は利益を求める生き物なのだよ!」



「……あなた……狂ってるわ」

「狂っている! 天才を褒め称えるには実に素晴らしい表現だな!」


 そう返すと彼女は押し黙ってしまった。その様子を見て、俺は話を始めた。


「それで、この結果で満足いただけましたか?」

「……あんたがちゃんと私の家にお金を入れてくれるっていうなら……」

「約束――いや、契約だな。必ず守ろう」


 彼女は立ち上がってから言葉を発した。


「ええ、絶対よ! それじゃあもう遅いから私は帰るわ」

「ちょっと待て、契約の対価がないだろう」

「は?」

「ちょっと手伝え」


……………………


「ねえ」

「なんだ?」

「なんで私ここで働いてるわけ?」


 カウンターの店員用の椅子に座ったフレーネがこちらを向いて言った。


「四日前に言ったはずだがな。二年後には家に金を入れ始めてやるからそれまで手伝えと」


「いや、忘れたわけじゃないわよ――ただ……」


 そう言うと彼女は俯いて黙った。どうしたのかと聞こうとすると彼女は顔を上げて言った。


「なんでこんな小さい店でこんだけのマニュアル読み込まなきゃいけないのよお!!」

「喚くな。丁寧かつ平等な接客は店の信用を増していく。つべこべ言わず覚えろ」


 そんなわけで安上がりで人手を確保することができた。

ご閲覧ありがとうございました。

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