転生後
その後、気を取り戻した。
『我思うゆえに我あり』という有名な哲学の言葉がある。意識はあったので俺は存在していることを確信した。それがつまり脳がはたらいているということで生きているということは確かである。
が、目はあまり見えなかった。
これは目、もしくはその神経、あるいは視床下部にダメージを受けたと考えた。更に人影が見えたが何を言っているのかわからなかった、それにうまく喋れない。これは本格的に視床下部をやったと感じていた。
だが、俺は生きてはいなかった。正確には一度死んでなぜか別の人間として生きていた。
いわゆる転生というやつだ。これで魂の存在を身をもって、いや魂をもって確かめられた。どうやら記憶というものは何も海馬やニューロンによってされるものではないらしい。
そんなことを最初はのんきに考えていた。
で、この世界は間違いなく俺の生きていた地球とは確実に違う、少し前に流行った異世界転生とかいうやつだ。まあ俺が死んだ後地球が何かしらあって大規模な異変があったという可能性も無いわけではないが……
で、そう言い切る理由が魔法や魔物の存在である。これについては後々考えてもいい。
そして何故か中世ヨーロッパ風の街並みなのである。理由はわからんがこじつけるとしたら偶然その時代に生まれてしまったくらいか、あと日光が弱いのか金髪や茶髪が多い。それはわかるがなぜか青や赤、緑や紫など訳のわからない色をしている者がいる。そして見てきた人全てが白人だ。かく言う俺も白い肌に金髪青目で最初は違和感が大きかったかったが。
その時代にジルコニア商会の次男として俺は生まれ育った。で、義務教育を受け直したり、歴史や魔法などくらいしか新しく知ることはなかったが。(それでもほとんどは学校などに通う前から本で知ることはできた)
この世界でも教育に関して前世と本質的には同じような感じだが。
……それで、学校卒業後生活は家族に任せて研究に集中していたらこうなったと。どこもかしこも金の卵を生む鶏を、ただの鶏としか見ていない、それどころか世話が面倒だとすぐ見放す。今回はどちらかというと金の卵を生むのをせかそうというのだが、絶対に帰ってやらない。どいつもこいつも目先の利益しか見えていないのだ。
さて、これからどうするか考えねばならない。まず身分を証明できるものはある、これは大きな武器だ、親の権威を借りるという侮辱的なことをしなければいけないが使えるものは使っていかなければならない。それが合理的だ。
で、父親を見返すためにまず必要なのは……土地だな。
誰の土地でもない場所がない、というのは前世の日本だと有名な話だがこれからすることに限ってはそうだ。正確には誰も行かないようなところとなると勝手に使っても良いのだが、目的にそぐわない上に危険も多い。別にサバイバルしたいわけではない。
よし、行動は早いほうがいい、一日宿で泊まるかで出費は大きく変わる。土地、そして家を入手できる場所へ向かう。
足を赴いたのはとある館、の隣にある建物。ここは不動産を主に扱う商会の応接専用の建物だ。
受付に身分証明できるものを渡す。これは幼い頃に渡された魔道具で値は少々張るがちょろまかされたりすることがとても減る、なぜかというと俺がジルコニア商会の身内であることを示すからだ。
さて、今回は商会長自ら来てくれた。彼は俺の父親と同級生で学校も同じだったと、だから何度か面識はある。ほぼ無理矢理会わされていたのだが、まあこうして役に立ったのだ。
「イニウス君、よく来てくれました。それにずいぶんと大きくなりましたね」
「前会ったのが一年前なのでそこまで変わってないと思いますが……」
なにせ寝る時間が少ないから成長ホルモンがあまり分泌されず周りに比べて身長は低いのだ。
「いいや、君はすごい変わったよ。いろいろな人を見てきたからわかるんだ、何か決意した目をしているよ」
「そうですか……」
適当に流しておく。そんな瞳孔やまぶたの開き方に差が出るものか…… いや、先入観が強いな。別に観測結果があるわけでもない。仮にあるとして彼は感覚的にわかっていたのだろう。
「それじゃあ、無駄話するのも悪いからね。早速用件を聞こうか」
「はい。色々とあって家を出ることとなりまして、家と土地を購入したいなと」
「貸借ではなく購入だね?」
その問いに「はい」と答える。その後どのような家が目的か伝えていく。要求は大まかにはこうだ、住んでいるこの街の端は避ける。まあ王都なのでだだっ広く端と言ってもそこまで心配する必要もない。
それで次に二階が居住スペースに、一階には店として活用できるスペースにもう一部屋があるような。
あと勿論だがスラムはなし。王都なのでそんなとこ無いが比較的治安の悪いところは存在する。俺は人の生命活動を簡単に断つ方法はわかるが対して俺の技術、筋力が足らない。
と、言うわけでちょうどあった物件のなかで最も良いものを選択。
「ってなると……500万ビリアルが相場だろうね」
ビリアル、それは円やドルなどと同じような金の単位である。
――まあそれくらいが妥当だろうな。それくらいなら問題無い、これだけ元手がある。天才である俺なら数年で返せるだろう。
「だけど、君のお父さんとは仲良くやれているし、息子も君のことを可愛がっていた。だから……450万ビリアルでどうだい?」
ほう、恩を売りにきたな。あるいは元からその値段で少々誇張して言っていたのを戻しただけか……まあいい、知らぬことに口出してもどうにもならん。この知識だったら確実に相手が上だ。
「良いのですか? でしたらそれでお願いします」
すると、彼は笑顔で了承する。
「それで……ルーヴルさんは?」
なんとか彼の息子の名前を思い出せた、興味がないのだから仕方がない。だが話に出たのだから触れておかないといけない。これから関わっていくのだ。
「ああ、元気にやっているよ。跡を継ぐために努力しているよ。」
「それは、私とは大違いで……」
「いや、努力したのは君がすごい学業で優秀だったから負けないようにってわけだ。それに跡を継ぐためかは置いといて努力していることは君のお父さんから聞いているよ」
ただの子供自慢だろ……
「……何があったかは聞かないけど、君は優秀だからなんでもきっと上手くやれるよ」
当たり前だ。人生やり直している上に天才なのだから。
だが適当に謙遜しておく。
その後、色々サインしたりして、その建物に連れて行ってもらい住むことに決定。二十年以内で返済すれば良いのだが数年で終わるだろう。
だがしばらくは忙しくなる。今日はもう遅い、栄養分、エネルギーを補給して明日からだ。
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