転生前
「――ですから社長、この物質は超酸化カリウムとおよそ200K以下で反応することによって――」
自分の研究室で訪れている社長に対して何度目かわからない説明をする。一度で覚えろよ……
「そんなもの条件とメリットが吊り合わない」
「それを吊り合わせるのは企画の役割と何度も言ってるでしょう、私は基礎研究を専門であって、お客様たちのニーズに答えるのは――」
「お前は世間をわかっているのか。確かにお前は優秀な大学院を優秀な成績で卒業した。だが、なぜか色々な企業を雇われては解雇されてを繰り返した。それを私が拾ってやった。給料もかなり与えてやった」
「……はい、そうですね。」
「世の中は利益で動いている。」
「ごもっともです。」
そんなこと言われなくとも人間が形成する社会では当たり前だろ。
「そして君の研究は利益に繋がりにくい。」
全く、決めつけの強い分別のつかない老醜が……
「いえ、何度もお伝えしましたが、先程の物質や理論上可能であるこれらの物質を使えば常温でも電気抵抗が金よりも低い――」
「そこまでが遠くコストがかかると言っているんだ。」
パソコンの画面を示しながら説明していると話を遮られる。
「ですから、その分のコストを必ず回収できるほどの――」
「世の中は利益で動いていると言っただろ。それまでに少なくとも私はこの世にいないことがわかっているのか?」
「でしたら、十年以内に必ず――」
「そんなに遅かったら社長も辞めてるぞ!」
彼は怒りをあらわにする。そして一呼吸ついてから話した。
「このままじゃ前みたいに戻ることになるぞ」
「ッ!」
前みたいというのは企業の研究員をを転々とすることだ
「それが嫌だったら研究を利益に繋がりやすいものに変えるか、写真撮られて商品の宣伝用の帯にお前の顔が載るかだ。優秀な学歴を持っているのだからそうするだけで収入があるというのに」
……そんなガセが嫌いなことはわかって言っている筈だ。すると社長は何も言わずに。帰って行ってしまった。
「……クソが!」
思わず机の脚を蹴りつける。まともに鍛えず筋繊維が少ない上に質量も少ないのでそんなにダメージはない。
が、ほんの少し机の上のものを揺らすのは十分だったようだ。机の複数の容器が倒れる。
丁度開けっ放しにしていた濃硫酸と濃硝酸が倒れてしまった。それが机を溶かしていく。
処理が面倒だ、とはいえどうにかしないと。アンモニア水でも使うか。
そう思って近くにあったフラスコを取り、鼻栓とゴーグルをしてから透明なアンモニア水を少しずつかける。
すると鼻栓が鼻を刺激したのかくしゃみが出そうになる。抑えられず「ヘックシュ」とくしゃみが出る、アンモニア水は突拍子もないところにかかってしまう、資料のないところでよかった。すると肘が棚にあたる、そして一つの薬品が落ちてきて、さらに蓋を閉めていたのが緩かったのか開いてしまった。
少しずつそれが濃硫酸と濃硝酸の混合液体、つまり混酸にゆっくりと、とろりとかかる。
気づくとそのかかった薬品は……
グリセリンであった。
まずいまずいまずい……! 混酸にグリセリンが入るととニトログリセリン、ダイナマイトに使われるほどの爆発物になる。
ゆっくりと刺激しないように建物から出てそして警察に連絡すればいい。そうしよう。
実行しようとした瞬間、また鼻を刺激が襲った。まずいと思った時は既に遅かった。さらに今度は鼻栓が飛んで行ってしまった。
ニトログリセリンの方へ。
こんな天文学的な確率が今起こるかよ……!
そして大量の光と轟音で俺は気を失った。
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが)
超酸化カリウムのところは適当です。