プロローグ
今日もいつもと変わらぬように部屋に引き篭もり魔道具や魔石と呼ばれるこの世界に存在するなんとも不可思議な物、もしくはそれについての書物などを並べては特性を仮説・実験・考察・反復によって解き明かしていく。
「ふむ、やはり魔法陣の第二象限のちょうど四分の一円の中央に位置できるこの文字列は絶対温度……いや、正確には違う。確かに絶対零度は0を意味するが別に1気圧での水の沸点が273.15ではない。あーいや待てよ、ここが一気圧という確証はない。だが文字列の解読から273.15、水も沸点が373.15とは大きくかけ離れている。だから――」
「イニウス、いるか?」
ドアのノックする音と共に俺の名前を父親が呼んだ。この天才である俺の研究を止めるとはなんたることか。
だが無視すると後々めんどくさい。「はい、いますよ。」と答えてドアを開ける。
そして少々上を見上げていくつか俺と同じ特徴の顔と目を合わせる。その表情はとてもセロトニンが分泌されている状態とは思えない。
「イニウス、お前はまた経営術も学ばず研究か?」
「ええ、そうです」
「……いつになったらお前はそれをするんだ?」
「お言葉ですがお父様、十分経営術は学びました」
その程度、もう既に知っていた内容だがな。しかしこの世界ならではのこともあり学ぶ必要があったことも事実だ。
だが父親はその言葉を信じた様子もなく怒鳴り始める。
「信じられるか! 幼いころから毎日部屋に篭って、機会を与えてやろうと思った時も――」
そしてまた長ったらしい説教が始まる。うんざりだ、まだ俺が放っておいても金の卵を生む鳥ということがわからないのか。
「……ですが私には兄がいます。よって私はより多くの経営術よりも――」
俺の部屋の中にある台を腕を伸ばして示しす。その台にはいくつか俺が作って販売してある魔道具が置いてある。
「この才能を活かして魔法陣の解読による商品開発に専念した方が確実に――」
「そんなもの、研究者がやるものだ、お前はそこに行くことを選ばなかった。既存の魔法陣で多くの魔道具を作る方がよっぽど利益が出る」
「ですから、何度も言うように商会にも商品開発のための基礎研究者が――」
「黙れ!」
父親に発言を止められる。この商会長はディベートもできない程アホなのか。
「もうお前には愛想尽きた」
突然肩を掴まれ部屋の外に連れ出される。
「!? 何を……?」
抗議するが反応はない。抵抗はしようと思えばできるが体格差がある為おそらくこちらも怪我をする。そのまま連れて行かれると玄関まで連れられそのまま外に放り出される。
さらに彼は玄関に置いてあったバッグを俺の元に放り投げる。それからはジャラジャラと音がなった。おそらく硬貨が入っているのだろう。わざわざ用意していたのか――
「一度世間を見てこい、考えを改めるまで帰ってくるな」
突然のことに何もできず呆然とする。扉が閉められようやく状況が把握できた。前のことのようにまた追い出されたのか――
また……またなのか! 俺の上につく者は目先の利益、精々三歩先の利益しか見えていない愚か者ばかり……!
怒りで頭がいっぱいになる、がこれはただの感情だ。ホルモンによるただの精神の変化だ。ノルアドレナリンの放出を抑えるため一度深呼吸する。
冷静になれ、客観的になれ、感じるな考えろ。これからどうするか頭を回して最も合理的な方法を導きだせ……
これでいくか。
そう考えるとドアをノックした。するとすぐ父親が出てくる。
「なんだ? もう根を上げたか?」
「いいえ、私の部屋にある物を持って行きたいのですが」
そう言うと父親は多少顔に怒りを表したが目を閉じて口を開いた。
「勝手にしろ、ただそれが終わったらすぐに出て行け!」
「えぇ、もちろんです」
感情的な父親に対して淡々とそう答え部屋に向かっていく。
部屋に向かっていく途中壁の向こうから二人の声が聞こえた。
「――だからってそんなことする必要は……」
「ここまでしないと動かないほど我儘なのはお前も知っているだろ!!」
母親と父親の声だ。どうやらこのことで喧嘩しているようだ。
部屋に入ってバッグに必要な物を詰めていく。部屋の中に置いてある自分のバッグも持つ。……少々重くなるが仕方ない。こんな奴らに研究が盗られるなどあってはならないことだ。
荷物を持ち玄関へ向かう途中横には兄がいた。無視して進んでいくと通り過ぎたあたりで鼻で笑われた。
俺のプライドが感情を動かす。無論ホルモンの分泌であることは百も承知だ。
絶対に、なんと言われようともこの家には戻ってやらん。俺を追い出したことを後悔させてやろう。
そもそも誰かのもとにつくというのが間違いだったのだ。
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