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過去の罪

 彼女が立ち去り呆然と座り込む僕の名前は天川翔太。ほんの数分前までは順風満帆な生活だった。

 海東高校に通う高校2年生。成績も中の上、運動だって得意だ。友達だっているし、別にお金で苦労もしていない。なにより僕の顔はイケメンの部類にはいるみたいでモデルもやったりしてる。学校ではファンクラブもあったりする。小さい頃から女性から告白されてきた。女性関係で苦労もない。まさしく他の人より順風満帆な高校生活を謳歌していた。


 ……数分前までは。


 「何故だ……なんで僕はこんなことをしてしまったんだ。」

 女性に困っていない僕が何故?……魔がさした?少しだけの冒険だった。やってはいけないことを逆にやりたくなったりする時もあるが、それによって僕は全てを失う。あの名前もわからない女子によって今まで築き上げた物が…………崩れる。

 「い、いやだ!!ダメだ!!あってはならない!」

 なんとかしないと。でも……もうあの件を話しているかもしれない。


 「クソ!!早く戻らなければ」

 僕は自分のタオルを取り急ぎ体育館に戻る。


 「翔太!何やってたんだよ?遅いぞ。」

 体育館に戻ると僕といつも行動をともにしてる宮田亮が声をかけてくる。

 「はぁ?べ、別にこんなもんだろ」

 な、なんだよ!少し遅れたぐらいで。ま、まさか!すでに広まっているのか?

 「何焦ってるんだ?変な事してたんじゃないのか?!」

 こいつ!!僕を試してるのか?じ、上等じゃん!後頭部にボールをぶつけて記憶を消すしか……。

 「タオルを取りにいって、トイレに行ったんだよ」

 「ふーん。大きい方だな!恥ずかしがるなよ。……まぁ、いいけど。早くバスケしようぜ」

 はぁはぁ。くそ!疑心暗鬼になる。

 バスケ?あぁ、今日はバスケだったな。うん。そんなことはどうでもいい。俺は同じ体育間でバスケをやっている女子を見渡す。

 

 「あ、いた!!」

 見つけた。僕の癌細胞!!女子達が固まりワイワイしてる中一人離れ座っていた。

 「宮田!あの子の名前はなんていうんだ?」

 ボールをダムダムついている宮田を呼び尋ねる。

 「な、なんだよ?珍しいな。お前が女子を気にかけるなんて」

 「いや、なんか一人で座ってるのが気になってな。深い意味はないんだ」

 深い意味しかない。一秒でも早く教えてくれ。じゃなければ夜も寝れないんだよ。

 「あーー。蓮見さんだったかな?」

 「蓮見?」

 2年になって日も浅いので宮田もうる覚えらしい。僕に関してはまったくわからない。

 「なんか、いつも一人でいるよな。あんまりしゃべってるの見てないし」

 そうなんだ。日が浅いとはいえ、印象のある子は頭に残る。

 「顔は可愛いんだけどな。俺はタイプだな」

 知らねぇ~よ!心底どうでもいいわ。うーん。たしかによく見ると小柄で顔なんかも整っている。髪なんかはツインテールで可愛らしい。普通にモテそうではあるな。

 「蓮見さん。以外に胸も大きいしな」

 「!!!」

 この変態が!!宮田こそ変態だ。最低だよ。いや……僕もでした。

 「なんだよ!蓮見さんが気になるなら声をかけにいけよ」

 別の意味で気になってるだけだ。ただ、周りの様子をみてるとまだ誰かに言いふらしてはいないな。

 「違うよ。ありがとな。」

 グイグイくる宮田を追い返し、僕はボールを持ち不自然に写らないように練習中のミスとして彼女の方にボールを転がす。

 「悪い。とってくるよ」

 僕が女子の方にいくと固まって騒いでいた女子がさらに盛り上がる。

 「天川君だー!!」

 「やばい!!かっこいい!!」

 「ミスしても絵になるよねー!!」

 どうやら僕を見ているようだな。クソ。やりにくい。とにかく蓮見と話せる機会をもうけないと。

 転がるボールを追い、蓮見の前に立つ。蓮見はチラリと僕を見ると目線をそらす。

 

 「……体育の授業が終わったら話がある」

 どう切り出すか迷ったが、あまりこの場にいるとおかしい。ボールを拾うと同時にコソッと伝える。

 「…………」

 無言のままだったが、コクリと小さく頷く。

 よし!!うまくいった。

 「なら、校舎裏にきて」

 伝えると足早に蓮見から離れ男子の元に戻る。

 あれ?意外に大丈夫なのか?僕の人生はまだ間に合うのか?



 体育の授業が終わり僕は皆が教室に戻る所を見届けると急いで校舎裏に行く。

 「蓮見はまだ来てないな?」

 まぁ、いいや。とりあえずは写真と音声だけでも消す。よくよく考えればあれさえなければ証拠はない。後は口八丁でなんとでもなる。蓮見はあまり人望がないみたいだし。よし!見えてきた。希望の光が。


 しばし待っているとゆっくりとした足取りで蓮見が現れる。

 「お待たせしました。で……なんですか?」

 この女!!とぼけやがって!!まぁ、俺が悪いしな。謝るしかないだろう。

 「蓮見さん?でいいよね?」

 「はい」

 「あの……本当にさっきは悪かったよ。蓮見さんからしたら本当に気持ち悪い思いをさせた。許してください」

 「たしかに気持ち悪いですね」

 クゥゥ~!きくぜ!!イケメンランキング1位「女子主催のランキング」の僕が!……でも僕が悪い。

 「ごめん。むしがいいのはわかってる。どうしたら許してもらえるかな?」

 「許すですか?」

 「あぁ!!なんでもする。だから写真や録音は消してもらいたい!!お願いします!」

 「…………」

 蓮見は何かを考えるように僕を見る。

 時間にすれば数秒だった。短い時間だった。でも僕からすると永遠の時にすら感じる。


 「わかりました。なら……私にキスしてください」

 

 「はぁ?!」

 正直、驚いた。開いた口がふさがらない。き、聞き違いか?

 「あの?キスするの?いや、他のなにかないの?」

 「ないです!キスしてくれたら許します」

 「…………」

 考えろ。考えるんだ。天川翔太。何故にキス?もしかして僕の事が好きなのか?いや、だったら付き合ってくださいだろ!キス?意味がわからない。でも…………!!

 「わかった。キスしたら写真と録音は消してくれるんだよね?」

 「もちろんです。携帯に保管した先程の記録を消せばいいんですよね。いいですよ」

 「…………わかった」


 はっきり言って好きでもない女とキスはしたくない。でも覚悟を決めないといけない。未来の為に!!


 「じゃ……するからね」

 蓮見は瞳を閉じ顔を僕の方に向ける。なんでこんな大胆な子が一人寂しくいたんだ?まぁ、今は考えるな!

 蓮見の肩を優しく引き寄せ、蓮見の唇に僕の唇が触れる。柔らかい感触とフルーツのような甘味がそこにはあった。

 

 「これでいいんだよね?!」

 蓮見からゆっくりと離れる。これで僕は自由だ。なんか釈然としないけど、もういいんだ!

 「フフ……」

 「は、蓮見さん?」

 蓮見は肩を震わせ顔はうつむいたまま声をあげる。

 「ハハハハ」

 な、なんだよ?

 「本当にバカですね!!」

 蓮見は笑いながら俺を見る。

 「許すわけないじゃないですか!!」

 はぁ?今なんて?

 「え?約束が違うだろ!!」

 「あぁー!!」

 蓮見は校舎裏ある一本の木に向かい、木にセットした自分の携帯を回収する。

 「お、お前!まさか?」

 ニヤリと微笑む蓮見。

 「記録しました。動画でバッチリです」

 「き、きたないぞ!!消せよ!!」

 蓮見に詰めより声をあらげる。

 「いいんですか?人が来ますよ?」

 「……クソ」

 なんだ!このクソ女は!!最悪だ。温厚な僕がはち切れそうだ。

 「約束は守りますよ。……ほら」

 蓮見は教室の一件の記録を僕に見せるように消去する。

 「…………キス動画は消してくれないのかよ?」

 「約束してませんしね」

 最悪だ。付き合ってもいない相手とキス動画?見られたらただのチャラ男だ。クソッタレ。

 「最悪だ」

 うん?待てよ!!抜かったな!蓮見!

 「いやいや、動画に写ってるのは音声もだろ?ならお前が無理矢理させた記録でもあるわけだ」

 逆転!!あれを見たら誰でもわかる。僕は無罪だ。終わるのはお前なんだよ。

 「今の時代、音声なんてもんはいくらでも消せますよ。なんならもっと面白くしてあげましょうか?」

 「それは本当にやめてくれ!!」

 洒落にならない。刑務所案件だわ。

 「それと教室の一件もデータを移してあるので安心してください」

 どの口でそれを語る。安心できるわけないだろ。不安しかないわ。なんで……また弱味が増えただけだ。勘弁してくれよ。

 「なんで?僕に恨みでもあるのかよ?酷いだろ。たしかに僕が悪かった。そこは本当に反省してる。でも……そこまでしなくても」

 僕は泣きそうに……いや泣いてるな。だって視界がボヤけてるもん。

 

 「人気あるって大変ですね」

 「はぁ?」

 なんだよー!君のせいなんだよ!!君になんだよ!!

 「女子に騒がれ、浮かれて、本当に良いご身分ですね」

 蓮見はニッコリと笑う。

 「覚えてますか?この場所?」

 場所?いや校舎裏だろ。なんだいったい?

 「???」

 「なら少し昔話をしましょう」

 蓮見は一瞬真剣な表情で俺を見るがすぐにニッコリ笑う。

 「昔々ある所に……と言っても一年前だからそんな昔でもないです」

 こいつ!バカにしてんのか?

 「一人の純粋無垢な少女はある男性に恋をしました。その男性は入学したてにも関わらず学校ですごい人気がありました」

 「…………え?」

 「そんな彼に恋をしてしまった少女は無理だとわかっていましたが、勇気をだしラブレターを出すことに決めました」

 「ちょっと……待て」

 覚えがある。

 「ベタですが、校舎裏にきてもらうように手紙を書き下駄箱にいれました」

 「少し待ってくれ」

 覚えがあるんだ。待ってくれ。

 「少女は緊張と不安と期待をしながら心臓が壊れるんじゃないかと思うくらいドキドキしながら校舎裏で待っていました」

 

 「あ!!」

 思い出した!僕はあの時…………。


 「そう。あなたは来なかった。何時間も待ってた。でも……来てくれなかった」

 蓮見の瞳には涙がみえる。声もふるえていた。


 「いいんです。私が勝手に自己満足で出したんですからね。来てくれなくても仕方ないと思いました。あれを見るまでは」

 

 蓮見は先程とはうってかわり声をあらげる。怒りや憎しみがみてわかるほどに。

 「手紙が下駄箱近くのゴミ箱に捨ててあるのを見るまでは!!」

 

 あの日僕はたしかにラブレターをもらった。開封もした。ただ、当時の僕は誰かと付き合う気がなかったから校舎裏に行くことすらしなかった。手紙は鞄にしまったけど家に帰ったらなくなっていた。鞄にあったゴミを捨てる際に間違って一緒に捨ててしまったんだろうと思い深く考えていなかった。

 まさか……見つけたのが本人なんて。

 

 「ご、ごめん。でも……」

 いや言い訳にしか聞こえない。僕は最低だった。弁解できない。

 「あの時は泣きましたね。初めて好きなった人がこーんなにクズだったんだから。私も見る目ないですね」

 涙をふきニッコリ微笑む。

 これでわかった。僕を憎む理由が。やってしまったことをいっても始まらない。過去に戻れないのだから。

 「よくわかったよ。たしかに僕を憎んでも仕方ない。でも……蓮見さんのやり方は間違ってるよ。あの時も含めてもう一度チャンスをくれないか?」

 「チャンスですか?」

 「あぁ、蓮見さんに許してもらえるように努力する。いきなりは無理だと思う。でもいつか友達として……」

 「違いますよ」

 「な、なにが?」

 俺は今本当に悔やんでいる。あの時の自分を殺したい。だって……


 「あなたは私の玩具だから」

 教室でみた何倍もの愉快そうな表情を僕に向ける。


 「さて、戻りましょう。楽しい毎日が始まりますよ」

 蓮見は僕に背を向けゆっくりと教室に戻るのだった。


 「僕の人生は終わった」

 僕はポツリと呟き悲しく空を見上げるのだった。

 


 

 

 

 

 

 


 

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