弱味を握られた日
人生はいつどうなるかわからない。順風満帆に日々が過ぎていても1つの過ちで全てがくるう。歯車はすぐに外れてしまう。僕に関しても同じだ。何故なら……。
今まさに過ちをおかしてしまったのだから。
「…………」
あぁ……やっぱりやるんじゃなかった。どうしてこうなったんだ。
「…………」
本当に出来心だったんだ。そんなことを心で思っているが、僕の手にセーラー服が握られている事実と、それを静かに凝視している彼女。身体中から汗がとまらない。頭も真っ白だ。
何故こうなったんだ。
体育の授業中だった。タオルを教室に取りに戻った。教室に女子が着替えた制服があった。女子は教室で着替えるからだ。
……出来心だった。どんな匂いがするのか気になった。誰でもよかった。一瞬だけ……バレるわけがないと。
僕は一応周囲を確認し制服を自分の鼻に近づける。その姿は変態。いろんな所を嗅ぎまわす。一瞬が少し長くなった。
女性は不思議だ。何故こんなにい匂いがするのだろう。
「イチゴのいい匂いだな」
ボディソープはイチゴの匂いのを使ってるのか?まぁいい。俺は満足感に包まれる。今はそれだけでいい!
「これが誰かに見られたら終わるな」
僕は自分自身に呆れながら教室のドアを見る。
「…………」
フリーズした。誰も見ていないからと油断した自分を殴りたい。いやタオルを忘れた自分に殺意すらわく。怖い。逃げたい。そんな気持ちばかりが頭によぎる。
僕は教室のドアの隙間から静かに覗く彼女と目があってしまったのだ。
数分の時間が流れる。すると彼女は静かに教室のドアを開ける。
心拍数が上がる。冷汗がとまらない。意識がとおくなる。
彼女は無言のまま僕に近づいてくる。
「いや、違うんだ。たまたま落ちていたのを拾ったんだ」
近づいてくる彼女にとっさに言葉がでる。一体どこから見ていたんだ。最初から?いや、まずは誤解をとかなければ。……誤解じゃないけども。いや、誤解にするんだ!!
「タオルを取りにきたら制服が落ちてたもんだからさ。拾うよね!あ、名前も一応確認しないといけないから、制服を見てたけど。あ、なんか誤解をしてる?」
必死すぎるか?いやこの状況なら必死になる。
「…………」
彼女は無言のまま僕の前にたつ。なんだよ?頼むから無言はやめてくれ。
彼女は僕が持つ制服を見る。表情は無だ。何を考えている?わからない。
二人の間に沈黙が流れる。すると彼女が口をひらく。
「私の制服ですね」
「え?」
悪いときはとことん悪い事が起きる。クラスの女子は15名いる。僕は15分の1を引き当てていた。
「とりあえず返して下さい」
彼女は手を差し出し制服返還を求める。
「あぁ!!君の制服だったんだ?!うん。ゴミとか払っといたから大丈夫だよ」
僕は震える手を抑え制服を彼女に渡す。すると彼女は自分の机に置いてある鞄に制服をいれ、タオルを取り出す。
クソーー!タオルを取りにきたのか!!忘れるなよ。タオルなんて!
まぁ、見事に僕にもあてはまっていた。……クソッタレ。
「あ、あのさ?勘違いとかしてないよね?」
恐る恐る聞いて見る。はっきりいって僕と彼女は加害者と被害者ねの立場だ。彼女次第では退学だってありえる事案だ。学校全体にバレようなら僕は終わりだ。
「…………」
彼女は無言のまま教室から出ようと歩き始める。
「ち、ちょっと待って下さいよ。は、話せばわかると思います。お、お願いですから!」
彼女を必死に追いかけ懇願する。やばい。やばい。やばいーー。
「お願いです。言わないで下さい!なんでもしますから」
僕は自然と彼女の前で土下座をしていた。なりふりかまってはいられない。プライドは今は捨てる。いや、プライドなんて数分前にはなくなっている。たぶん、制服の匂いを嗅いでいたのを見られていたのだから。なんなら足でも舐めてでも許しをこいたい。あ、それはさらに変態だ。違う方向に目覚めるな俺!!
「じゃあ、私の制服に何をしていたんですか?悪いと思うなら正直に答えてください。まぁ、知ってますけどね。」
「…………に、に、匂いを嗅いでました」
綺麗な土下座をキープしながら苦渋の決断で正直に話す。
「…………そうですか」
「本当に出来心だったんです。反省してます。本当に申し訳ありませんでした」
「…………」
僕は全身全霊で謝った。たしかに全部僕が悪い。彼女からしたら不快をとおりこし殺意すらあるだろう。でも人間は過ちを繰り返し壁を乗り越え成長する。彼女も人間だ。伝わるはずだ。きっとチャンスをくれる。そんな淡い期待を抱きゆっくり顔をあげる。
「あ、終わった」
自然と言葉が出た。確信した。全てが終わった。だって彼女は携帯で僕の土下座を撮影し、録音していた。さっきまで会話が教室内に響き渡る。
なにより彼女の表情は本当に満面の笑みだった。
「これからが楽しみですね!では……さようなら。変態さん」
彼女は楽しそうに笑い教室から立ち去ったのだった。
立ち去る彼女を力が抜けて動けなくなっている僕は後悔だけを残し見送る事しかできなかった。