四色目 憂鬱なシロ
「ねぇ、ねぇ。ももちゃん?」
「なーに?」
もうすっかり彼女とは普通に話せている。
昔から一人でいることが好きだった私に初めての友達ができた。
「春、来てほしいよね〜。寒いのはもう、うんざりだよ…」
「そうだね〜。春になったら桜を観たいね。あと、近所の桃の木も!」
「ももちゃんの家の近くに桃の木あるんだ〜。今度、連れて行ってよ〜」
「いいよー」
春になったら楽しみが増えた。桜を見に行く約束やぽぽじろうのいるあの公園で桜ちゃんと桃の木をみることができる。
帰り道、真っ先に近所の公園へ向かった。雪の降る勢いは昨日ほどではなく寧ろ、昨日よりも弱まっていた。
「ももちゃんー。おかえりー」
「ただいま、ぽぽじろう。今日ね、学校で初めて人と話したよ」
「それは良かったー」
「でね、その人と約束したんだ。この公園の木を一緒にみる約束」
「ももちゃんが人と話せるようになって良かったよ」
「ぽぽじろうのおかげかなっ」
今の私は心の栓が吹き飛んで新しい自分になったみたいに不思議な感じがした。
今まで蕾だった花が咲いたような
暖かい春を知らせる風が吹いてきたかのような感じがした。
「じゃあね、ぽぽじろう。また、明日」
「ももちゃん、バイバイ」
私はぽぽじろうに挨拶をすませ、家へ帰った。
その夜、私はクローゼットの奥深くにしまい込んであるアルバムが一瞬、目に入った。
小さい私の隣に幼稚園の年中ぐらいの兄がいた。
「私、この人見たことがない……」
一人っ子だと思っていた私に兄がいたことを知ってしまった。
「お母さん!私にはお兄さんいたの?」
急いで、階段をかけ下がり母の所と行った。そしてこの質問をした。
「昔ね いたのよ……」
母は言葉を詰まらせていた。あまり話したくないようにみえた。
「あの近所の公園あるでしょ?桃の木がある公園」
「うん、あそこよく行くよ」
「あの公園でね、昔、お兄ちゃんとももでよく遊んでいたのよ…でも、ある冬の雪がたくさん降ったあの日。ももは帰ってきたのにお兄ちゃんだけが帰ってこなかったの。家族全員で探し回ったんだけど見つからなくて……」
「お兄ちゃんは見つかったの?」
「今もまだ見つかってないのよ…毎年、毎年、春になったら見つかるのかなって思っているだけどね…」
「そうだったんだね……」
私に兄妹がいたんだね…複雑な気持ちがモノクロの世界となって私を飲み込んでいく。
会いたかったな
お兄ちゃんを消した雪。私から楽しみを奪った雪。桜ちゃんとの約束を長引かせる雪。
そんな雪を私は大嫌いだ――――