二色目 氷の下に魔法使い
次の日の朝、タンポポの言うとおり通学する前にあの公園へ向かった。
昨日も今日も雪は止まず降り積もっているのであった。このまま心も街もシロに染まってしまうのではないか…
公園に入ると鉄棒の下に微かながらギザギザの葉っぱと蕾の間から黄色が見えた。
「来てくれてありがとうー。昨日は本当に助かったよ」
「こちらこそ、役にたてて良かったよ」
「ところで、君の名前を聞いていなかったね。何ていう名前なんだい?」
「わたしはももっていうの」
「いい名前だね。僕はももを見たことがないからどんなものかは分からないけど……」
「わたしはあるよ。春になるとねーたっくさんのピンクの花を咲かせるんだよ」
「いいな。見てみたいな…僕はここから動くことができないから見れっこないよね…」
「丁度、あの木が桃の木だから春になったら見えるよ」
「物知りだね。教えてくれてありがとう……」
「ところで、わたしは名前を君に言ったけど、君の名前を聞いてなかったね」
「僕の名前は……ついてないや」
「だったら、わたしがつけてあげるよ」
「本当!?嬉しいなー」
「タンポポだからぽぽじろう!」
「ぽぽじろうかーいい名だねーなんでぽぽじろうなの?」
「だって、タンポポって綿毛でフワフワって飛ぶでしょ?だったら兄弟も沢山いるかなって。ぽぽじろうは二番目のお兄さんって感じかな?」
「僕に、兄弟か……」
「ぽぽじろうは兄弟たくさんいたんでしょ?」
「小さい頃だったからあまり覚えてないけど、春の暖かい風に揺られて大勢で飛ばされた感じだったかな…」
「わたしも 」
なんだか、ぽぽじろうとは普通に話せる。今まで、こんなに話す人だったのだろうか?
「話が反れちゃってごめんね」
「全然、大丈夫だよ、ぽぽじろう」
「昨日、助けてくれたお礼に君のお願いをひとつだけ聞くよ」
「えー!ほんとに?」
「本当だよ、ぽぽじろうが叶えるさ!」
「じゃあーわたし、学校に行きなくない!」
学校、学校。この単語が反芻される。あんなところになんか行きたくない。嫌い。大嫌い。
心がモノクロになって凍りついてしまうから。色づいていた心もすぐに汚されてしまうから。
「そうか…なんで行きたくないのかな?」
「それは 」
何故かって聞かれると上手く答えが出てこない。何かがつっかえていてそれが抑えこんでいるような…
ドン、ドン、ドン、ポン、ポン、ポン
突然、心の中の太鼓の音?音楽の授業で聞いたような音がした。昔の楽器の…あれなんだろう?
「今、太鼓の音が聞こえたでしょ?」
「うん。聞こえた。不思議な音だわ」
「この音でももの心につっかえているものを弾き飛ばしてあげる」
「わたしの中につっかえているもの?」
「そう、これはももの心の中の憂鬱な記憶の塊 」
ドン、ドン、ドン、ポン、ポン、ポン
音が大きくなり、心に振動が伝わってきた。心に栓をしていたものがすっと取れていった。
「よし、これで大丈夫だ!」
「本当にこれで学校に行っても大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。僕はここにいるからまた、困ったことがあったら教えてね」
「ありがとう ぽぽじろうって魔法使いみたいだね」
私はそういって学校へ行った。通学路は真っ白な雪雲の間から弱く、小さく太陽が照らしていた。それは地面を照らし、キラキラと反射させて輝いていた。