男子高校生の夢想
ちなみに女子はどんなこと考えるんだろう?
同じようなこと考えてたら面白いな
妄想は頭の中でちょうどいい
日本人の中高生とは多感な時期である。
男子諸君よ。だからこそ、こんなことは考えたことはないだろうか?
「授業中にテロリストの襲撃」
いつも通りに学校に行き、いつも通りに友人と馬鹿話をし、いつも通りに授業を受け、いつも通りに部活をし、いつも通りに帰路につく。
退屈な日常。よく、学校に行けない子たちの分も……、なんて言葉を聞くが、退屈なものは退屈である。
誰がなんと言おうともつまらないのだ。
だから俺たちくだらない男どもは頭の中で想像する。退屈な日常を破壊するスパイスを、楽しい非日常を。
その一番手っ取り早いストーリーが、偶発的に起こる暴力事件だ。例えば、「友人と学食を食べに行こうとする最中に、何故か見ず知らずの悪漢が突っ込んできて、自分を殴る。だが自分はそれを寸前でかわし、『チッ、しつこい奴だ』的な言葉を発して戦闘開始」のようなものや、「授業中に『すいません、ちょっと保健室行きます。』という言葉を置いて学校の人目につかない場所へ行き、『俺の学び舎に何の用だ』的な言動で侵入者鉢合わせ」だったり、「一見何もしていないように見せつつ、『クソ、馬鹿力が!』的な感じで少し離れたところにいる敵と、クラスメイトにバレないように戦っている」だったり、他にも様々なシチュエーションが頭に浮かぶ。
たが、もっとも人気が高いのはおそらくこれではないだろうか?
「動くな!手をあげろ!!この学校は、俺たちが占拠した!」
いや、普通に考えればありえないんだよ!?そんな事は分かっている。でも考えずにはいられない。何故なら、俺たちは男の子なのだから。
まぁ、そういうわけで暇な授業ほど僕らは考えてしまうのさ。普段は大した成果を生み出さないこの脳みそも、こういう時は何故か嬉々として働く。
そんなある日、実際にテロリストのような団体が学校に来るか真剣に考えてみた。その正直すぎる想像に思わず吹き出してしまったが。
まずテロリストが来るためには目的がいる。
なぁ、考えてもみてほしい。日本全国にたくさんある学校。しかも小中高大とある。そもそもテロリストが襲うのは、学校じゃなく病院や企業でもいいわけだ。その中から、自分の学校に来てくれるなんて、まるで宝くじだろう。
そもそも普通の学校にテロリストが来るほどの理由はない。
まずお嬢様や御曹司、お偉いさんの子供やスパイなんてまずいない。
いるよって子は、ごく少数派だからね!!羨ましいよ!
いや、それ以前の話をしよう。
なぜ日本にテロリストがいる?
アメリカでも中国でヨーロッパでもなく、なぜ日本に??
世界で一番平和ボケしてるといっても過言じゃないこの国に?
そういう訳で、長々と書き綴り、ここまで読んでもらって申し訳ないのだが、テロリストが日本にいて、しかも君のいる学校を襲うなんて事は、億が一もないから安心してくれたまえ。
「ウルセェ!騒ぐな!!てめえら撃ち殺されテェのか!」
なんて思っていました。
周りの男子も、頭の中の自分がかっこよく行動しているシーンを思い浮かべるだけで、皆一様に震えて下を向いている。
えっ?俺はどうしているかって。
見てわかるだろ。現実逃避だよ。
こんな風にくだらない事でも考えていないと恐怖で失禁どころか発狂しそうだ。
全力で下を向いています。
180センチを優に超える身長に、大柄な体格。まさに巨漢である。
見えるだけでも複数の重火器に、ナイフなどの近接格闘武器、実戦でも使われているであろうボディーアーマー。
だが、それらもこの男を表す付属品に過ぎない。
アーマーからのぞく真っ黒に焼けた肌に、火傷、切り傷、銃創。さらに、つり上がったいあつてきな目に、今にも人を喰い千切りそうな口。そして光り輝くスキンヘッド。
こんな奴に何か物申す気なんて全く起きない。ただただ怖いです。
だが馬鹿はどこにでもいるものだ。
「お お前!何をひているんだ!こんな事は許されないだー」
可哀想になるくらいに声が震えているのに、頑張って声を出している。
現実と妄想の区別がつかない馬鹿である。
バンッ!という、衝撃が響く。
映画とかで聞くかわいい音ではないし、音なんてものじゃない。衝撃だ。
そして、聞くに耐えない悲鳴が聞こえた。
こんな風に言ってはいるが、俺は情けなくも悲鳴をあげたよ。もちろん俺だけじゃない。教員もクラスメイトも男も女も、みんな悲鳴をあげた。人間の声というものはあんな声が出せるのかと思ってしまう。
締め付けられた喉を無理やり開いて、さらに無理やり声を出したような、大きな汚い悲鳴だった。
「おいおい、ちょっと当てただけだろうが?そんな痛がんなよ」
なんでそんなに楽しそうなのだろうか。彼の方を見てみると、太ももからかなりの流血が、見られた。
当たったのは足なのだろう。
男子高校生はくだらない知識を持っている。
だから彼の持っている銃が大口径でないのも分かってしまったし、大口径じゃないって事は打ち出され当たった弾丸は、貫通せずに体内をぐちゃくちゃに掻き回し、無駄に傷口を広げるのだろうと想像がついてしまった。
悲しいことに、想像は間違っていないと思ったし、事実間違っていなかった。
皆を苛んだ悲鳴は、唐突にやむ。
再びの衝撃は、遅れてやってきたように感じた。まるで白昼夢でも見ているようだ。いやに現実感がない。
「あー、ピーピーうるさかった。ア〜ハハハハハ!人を殺しすぎると人質減るからやめとけって言われたが、5.6人なら大丈夫だろ」
少しぐらい殺した方が緊張感あっていいな!と大笑いしながら話している様が視界の端に映る。
いかれてる……。こいつは5.6人は殺してもいいと思ってる。つまり、あと数人は平気で殺されるという事だ。
想像と同じように、かっこよく皆を助ける?バカいうな。
仮に、まぁあくまでも仮にだが、俺がこの男を倒せたとしよう。
では、その後どうする?
敵の人数も目的も不明。交渉が出来るだけの手札もなければ、その気概もない。というか交渉の仕方なんて知らん!
いや、そもそも倒した際に生じる音で他の誰かが救援に来ないなんて言えるか?
じゃあ、全員を倒すとしよう。
………………。
…………………………。
……………………………………。
いや、あいつを倒せるイメージすらも浮かばないのに他のやつ倒すとか無理でしょ。
はい乙ー。
現実逃避の妄想の中でさえ勝利を掴めませんでした。
あー、トイレ行きたい。
でもトイレ行くなんて言い出せる雰囲気じゃない。言ったら殺されそうだ。
ずっと下を向いていて首が痛い。
皆放心して、静かな時間が永遠と続いていく。彼が死んだ時、悲鳴、失禁、嘔吐。この教室の現状は中々に酷いものだろう。そんな事が起きている中、ただひたすらに自己保身を考えている俺はおかしいのだろうか?
あれからどれだけ時間が経ったのか分からない。が、教壇に座っているおとこは暇そうにしながらもこちらを監視する目は緩めなかった。
「あー、かったりぃ〜。早く終わんねぇかな?怠いわ……」
なんだろう?決して分かり合える事のないこいつと、通じ合えた気がするよ。
あー、早く終わんねぇかな。
チラリと窓の外を見ると、ようやく違和感を持ったのか、少しずつ野次馬が。続いて警察機関が校門に寄っている。
あぁ、俺は今からどうなるのだろうか?
人数も目的も戦力も不明。
いつまで拘束されるのか……、何をさせられるのか……、どんな展開に動いていくのか。
俺には全くわからない。
こんなクソ生意気なこと言ってるクソみたいな俺は、結局勇気も実力も何一つない。
現実は無双するなんてことは絶対に出来ない。
いつも騒いでるウェイも、オタクの妄想たくましい奴らも、突っ張ることがカッコいいと思ってる勘違い野郎も、俺みたいな捻くれ捩くれた奴も、皆下を向いて震えている。
本当に、妄想は頭の中でちょうどいい。
ありがとうございましす