第48話「虚飾の救助者」
※短いですが……
アルヴァーとノーチェが優希と合流した時、周囲は凄惨な光景を見せていた。
首の無い魔獣が地面に横たわり、そこから血溜まりが広がっていた。周囲にはむせるような血の匂いが充満し、飛び散った血液が周囲を斑に染め上げている。
その中で呆然と佇む血塗れの三人と、腰を抜かし唖然とした女性。そして、慌てふためく優希――……。
ノーチェは、大きく目を見開き、アルヴァーは、魔獣を一瞥した後、血濡れの三人に視線を移した。
「隠されし守護者、君達が来たのか。……見た所、怪我は、――ないようだな」
そこで言葉を区切ると改めて三人を、頭の天辺から足の爪先まで見つめた。
「――先ず返り血を落とす事が先決のようだ。幸い周囲に魔獣の気配はない。近くに川が流れているのは幸運だったな」
アルヴァーは、懐から乾燥した細長い葉の束を取り出すとマティアスに投げた。
「匂い消しの香草だ。水で戻して、そのまま擦り付けてくれ」
「あ、ああ、分かった」
マティアスは、曖昧な返事を返すと香草の束を、そのままリリーに渡した。
「ルシエンは我々が見ているから、君達は体を清めた後、上流に来てくれ。我々の荷物が置いてある。そこで合流して詳しい話を聞きたい」
アルヴァーは、三人が川の方へ向かうのを横目で確認すると、未だ立ち上がらないルーシェに近づいて耳元で囁いた。
「……力を使ったようだな。君の魔力が弱まり不安定になっているのを感じる」
「すいません、先生……」
「いや、命の危険もあった。判断は間違ってはいないだろう。――これを」
満身創痍といった様子のルーシェに、アルヴァーは労いの言葉を掛けると、革製の水袋を渡した。
「後で中の水を飲むと良い。――それにしても優希……」
「何でしょう、アルヴァーさん」
優希は二人が合流した事で落ち着きを取り戻したようだ。凄惨な現場だが幾分かリラックスした様子を見せていてた。
アルヴァーは何か言いたそうだったが、結局それを言葉にする事はなかった。
「……いや、良くやってくれた。正直な所、間に合わないと思った」
「危うくルシエンさん?に魔法攻撃される所でしたけどね」
優希には場を和ませるための軽口だったが、ルーシェは予想以上に重く受け止めていたようだった。
「うう、すいません。――てっきり新手の魔獣かと思ったので……」
この発言に優希は少しショックを受けたが、良く分からない気配が近づけば勘違いもするだろうと安易に考えていた。
だが、アルヴァーは別の懸念があるのか難しい顔で考え込んだ。
「ルシエン、君には、そこのジャウードと、ここにいる優希の魔力が同じだと感じたんだな?」
「――あの時は必死だったので、間違いという事もあるかも知れませんが、……はい」
アルヴァーの質問にルーシェは迷いながらも答えた。
命の恩人に対して魔獣の魔力と同一だと言うのは酷く躊躇われたが、その答えに対し、アルヴァーは納得した様子で頷いた。
「状況が味方したとはいえ、上手く他のメンバーとは別行動させる事が出来た――」
アルヴァーは一歩距離を取ると、ルーシェに魔力探知するよう促した。
ルーシェは、突然の提案に混乱しながらも、アルヴァーの求めに応じて魔力探知を行った。
「ッツ!!!」
次の瞬間、ルーシェは、まだ倦怠感と痛みが残る体を無理やり動かし戦闘姿勢を取った。
「貴方達は……――誰!!!」
アルヴァーは、その様子を見て静かに微笑んだ。





