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~ファンタジー異世界旅館探訪~  作者: 奈良沢 和海
【第1章】迷いの森と広瀬村
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第26話「郊外型ショッピング街」

「本当だ。簡単に外に出られた……」


 優希は今、鳥居ダムの側にあるお土産物屋の中にいるので、正確にはまだ店内なのだが、あれだけ手間取った広瀬村との行き来がこれ程、簡単だったのは驚きだった。


 では、何故、村の外に居るのかというと、大まかに異世界で売る商品リストを作成すると、手の空いている優希だけが、必然的に買い出し係という事になったからだった。

 今の広瀬館はお客さんこそ入っていないが、数人で維持(いじ)するには広すぎるため、恵子やゲンさんに買い出しを手伝って貰うのを遠慮した結果だ。


 買い出しに行くに当たり、広瀬村に入る時に苦労した話をした所、ゲンさんから不思議そうな顔をされた。詳しく話を聞くと、どうやら優希が入ってきた通路は長い間、閉鎖されていたらしい。らしいというのは、通り抜け出来る通路があるというのは知られていたが、広瀬村とダムとの境界(きょうかい)には村の住人はそもそも近付かないらしく、確認のしようがなかったからという事だった。


 昨日、優希から娘の優香の話を聞いていた恵子は大きな溜め息をつくと、住人が普段使っている行き来の仕方を教えてくれた。最終的に、建物の中に出たのは驚いたが、広瀬館からでも20分程で来れるので、これからも利用する機会は多いだろうと思われる。


 優希は買い出しの際に、地理に(うと)いのが不安だったが、丁度、郊外型の商業施設が集中している場所が、駅と鳥居ダム間の路線バスの運行経路上にあり、そこに行けば殆どの物は(そろ)うらしいと教えられた。逆に駅前は微妙に(さび)れている辺り典型的な地方都市の悲哀を感じさせる。

 そんな事を考えていると、不意に後ろから声を掛けられた。


「おや、誰かと思ったら優希ちゃんじゃないかい?」


 声の方に振り返ると、恰幅(かっぷく)の良い女性が人懐っこい笑みを浮かべていた。優希も見覚えがある顔だったので、こちらも自然と笑みを浮かべた。


「こんにちは。宇津木(うつぎ)のおばちゃん。ご無沙汰しています」


 優希に声をかけて来た女性は宇津木加代(うつぎかよ)。名前の通り広瀬村にある宇津木(うつぎ)商店の経営をしている人物で、優希も、幼い頃はお菓子目的で宇津木(うつぎ)商店をよく利用していたため、店番をしていた彼女とは顔馴染(かおなじ)みだった。


「はい、こんにちは。――しかし相変わらずべっぴんさんだねぇ~」


「……はははっ。って、あれ? ここにいるって事は、お店の方は休みなんですか?」


 加代おばさんのからかいはスルーする事にする。優希の記憶では定休日などは特になかったはずだが、宇津木(うつぎ)商店が閉まっているなら、食料の買い出し組は無駄足になってしまう。出来れば今日中に買出しは終わらせたいため、優希は加代おばさんに尋ねてみた。


「村の方の店かい? 午前中は娘に店番を頼んでいるよ。こっちの店の開店準備もしなくちゃならないからね」


「そうだったんですか。――ここも宇津木(うつぎ)さん(とこ)の店だったんですね」


「ああ。ここで扱ってるお土産物は広瀬館にも卸してるよ。ちなみに隣の食堂もウチの店だよ」


「へえ、手広くやってるんですね」


「今は、お土産はさっぱりだけど、自衛隊の隊員さんとダムの職員さんもよく食堂を利用してくれるんで、まあ、何とかやっていけてるよ」


 加代おばさんは、村の現状も理解しているため、話の流れで、猫妖精(ケットシー)隊商(キャラバン)に、明日にでも商品を売りに行く事。将来的には宇津木(うつぎ)商店に仕入れから販売まで任せたいと思っているが、とりあえずは安値で商品を売って欲しい事などを伝えた。


「面白そうだね。まとまった数を定期的に買ってくれるならこちらとしても助かるよ。それで、優希ちゃんはこれから買い出しかい?」


「はい。バスに乗れば郊外に店舗が集中している所に行けるらしいので、そこで色々物色しようかと」


「ああ、あそこかい。ここからでも割と近いから村のみんなは良く利用してるね。出来れば、ウチの商店をもっと利用して欲しいけど、こればっかりはねぇ」


 やはり小さな店舗では値段や品揃えにも限界があるのだろう。様々な苦労が(しの)ばれたが、それを感じさせない笑みを加代おばさんは浮かべていた。


「それじゃあ、おばちゃんがこれから、そこまで送って行ってあげるよ。次のバスが来るまでは少し時間もあるからねぇ。――後、仕入れの件は少し待っておくれ。問屋に確認しておくよ」


 思いがけず物事が順調に進み、優希は加代おばさんにお礼を言うと目的地まで送ってもらった。そこは、大型駐車場をシェアする形で複数の大型店舗が軒を連ねている場所が複数あり、テナントとして小店舗が入っているモールもあるといった、まさに郊外型といったショッピング街だった。


 優希のスマホは壊れていて便利なマップ機能が使えなかったが、幸いにも、周辺の案内板を見つける事が出来た。早速、同じキャリアの携帯ショップを探し出すと、まずはそこから(たず)ねる事にした。

 流石に、スマホ本体は破損具合から諦めていたが、データの方は問題なくサルベージ出来ると思っていた。しかし、ショップ店員から聞かされた言葉は意外なものだった。


「申し訳ありません。お客様の端末は、ご本人様とID番号の一致で確認は出来ましたが、本体とmicroSDカードのデータは復旧出来ませんでした。他にSIMカードも使用出来なくなっています」


 詳しい説明を聞いても、何らかの要因でデータが全て消えた以外の情報は得られなかったが、他のスタッフが「おい、またかよ。今月に入って6件目だぞ。メーカーのリコール案件じゃないのか?」「バカ。どれもメーカー違うだろ。ウチのSIMかアプリが原因じゃないのか?」「……ここだけの話なんですけどココの地区だけらしいですよ」「他のショップで働いてる友達も同じ事言ってました」といった声が聞こえてきて、対応した店員さんの笑顔が固まっていた。

 データ復旧は諦めて補償サービスの範囲を聞いた後、夕方には新しい端末を用意出来るというので、先に買い物を済ませる事にした。


 まず優希は、予定通り100円ショップに向かった。流石に郊外型だけあってかなり広いスペースが確保されており、大型のプラスチック製品も数多く並んでいた。しかし、今の所、プラスチックだけで出来た製品を異世界に持ち込む事は考えていないため、これらはスルーして当初の予定通りカトラリーを中心に物色する事にする。

 予想外だったのは思いのほか種類が多いことだった。プラスチック製は除外するにしても、バラエティ(あふ)れるラインナップで中には3本セットで100円という格安のものもあった。

 優希は見栄えの良い物を中心にカゴに入れると、食器のコーナーに移った。


 陶器製の物は割れ安い上にかさ張るので、最悪、明日は持って行かないという事も考えた結果、柄の綺麗な物を中心にサンプル目的で一枚、多くて三枚程度に押さえて数を揃える事にした。その時、裏側にエンボス加工が施された綺麗なガラス皿を見つけたので、これは可能な限り買い込む事にした。

 その時点でカゴは一杯になっていたので、新たなカゴとカートを持ってきて、さらに買い込む事にする。

 アルヴァーが言っていたが、綺麗なガラス製品は貴重品らしいので、この選択に間違いはないだろう。今、買いこんでも次に来た時には補充されているという期待もあり、目ぼしいものは粗方買い占めてしまっていた。ガラスのコップもあったが、こちらはかさ張りそうなので、サンプル程度にしておく事にした。


 次にベルトコーナーに行こうとした所、同じベルトでもナイロン製の荷物用ベルトが売っていたので、これも買う事にした。肝心のベルトコーナーは、所謂(いわゆる)ガチャベルトの他にも合成皮革製の物、本皮で500円の値段など色々な種類あったが、品質の差が激しく、この手の品は、本職の洋服屋の方が良い物が安く買えたりする事もあるため、結局は安いガチャベルトを中心に見栄えの良い物だけをカゴに入れていく。


 とりあえず当初の目的達成の目処は立ったので、優希はここで一旦(いったん)考えをリセットして改めてかさ張らず、なおかつお金になりそうな商品を物色する事にした。

 すると、女性用の乳液などの化粧品。マッサージオイルや香水。アトマイザーと呼ばれる香水用のスプレーケースなどが目に入った。異世界の美容事情は推測するしかないが、こちらの世界より進んではいないはずだと思われたので、これもサンプル用に数点づつ購入していった。


 この時点で一人で運べる量を超過(ちょうか)していたが、とりあえず会計を済ませる事にした。流石に、大量に購入しただけあって100円ショップで一万円札を使う事になったが、逆に考えるとこれだけ買い込んでも、その程度の出費で済んでいるのは凄い事なのだろうと思われた。

 ただ、困った事に優希はマイカーで来た訳ではないので、大量の荷物を持ち運ぶ必要があった。そこで、一先ず100円ショップの店員さんに少しの間、荷物を預かって欲しいとお願いしてみた。すると、あっさりOKが出て、商品を入れるダンボールまで分けてくれた。

 ダンボールに入れれば、買い物袋の手提(てさ)げで多くの荷物を持つ事は出来なくなるが、ホームセンターでカートなり台車を手に入れれば、大量の荷物でも持ち運びが出来るようになるだろう。


 優希は早速、ホームセンターへ向かう事にした。

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