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~ファンタジー異世界旅館探訪~  作者: 奈良沢 和海
【第1章】迷いの森と広瀬村
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第25話「商品選定と補助金」

第二交易文字ドゥエコメルソテクストという共通点があるのは(さいわ)いという他ない。言葉が通じても、文字での意思疎通は重要だ。――それに、第二交易文字ドゥエコメルソテクストが記載された商品なら猫妖精(ケットシー)が持ち込んだものという信憑性も増すだろう。――付加価値もな」


「――結果、こちらが目立たなくなる……と?」


「そういう事だな。まさか、それらの品が、これ程近くから運び込まれているとは想像出来ないはずだ」


「にゃ! 確かに、こんな森深くからなんて想像も出来ないはずにゃ。……でも、ピアンタや隊商(キャラバノ)の皆には余計に怪しまれそうにゃ~……」


 その言葉で皆が一斉にノーチェに注目した。皆の視線は一様に交渉の成否を左右する人物に注がれており……、そのプレッシャーにノーチェの耳は思わずペタンとするのだった。


 その様なやり取りを挟みつつも、その後は、お互いの世界の共通点や逆に違う点などを話し合いつつ、猫妖精(ケットシー)隊商(キャラバン)に売る品物の選定(せんてい)を進めていった。


「えーと、カトラリー類は、スプーンとナイフが多めでフォークは様子見で少な目。箸もかさ張らないから多め。お皿はサンプル用で数点、お茶碗は綺麗な柄の物を。調理用具は種類を多めに。後は、アルヴァーさんのベルト類……」


 優希は街に買出しに行くメモを取っていた。その後の話し合いで、アルヴァー、ノーチェ、優希の三人で、明日、交易都市ミラーレに向かう事になったのだが、その時、撫子(なでしこ)も一度は参加すると宣言したものの、榛名(はるな)ちゃんが心配そうにしていた事と、万が一に備えて広瀬村に残ってもらう事になった。

 撫子(なでしこ)は若干気落ちしたような様子で、久しぶりに向こうの世界に帰りたいのかとも思ったが、その前に見せた好戦的な雰囲気から、ひょっとしたら魔獣(デモナビースト)相手に暴れたかっただけなのかもしれない。


「後は――、お酒は広瀬館ある在庫から良さそうなのを数点。食料品は、村の宇津木(うつぎ)商店で売っている物を、この後、ノーチェやアルヴァーさんが選ぶ……と」


「にゃにゃ! おさかな、おさかな楽しみにゃ!」


 ノーチェは、不思議なテンションで歌う辺り余程楽しみなのだろう。

 宇津木(うつぎ)商店は広瀬村唯一の住人向けの店舗で、コンビニ程の大きさのミニスーパーといった感じの個人商店だ。

 かつては市町村毎に、この手の商店が点在していたが、やがて大型スーパーの出店で数を減らしていった。そのスーパーも郊外型の大型店舗に押されていって、その隙間(すきま)を埋めるようにコンビニが増えていったという経緯(けいい)がある。

 そんな異世界人には新鮮だが、こちらの住人には懐かしい商店に優希も興味があったが、一旦(いったん)村の外に出るとなると時間が足りなくなる事もあり、買出しは手分けをして行う事となった。


「ファノさん。ここからミラーレまでは半日程度らしいですが、念のためブロックとゼリータイプの栄養食とチョコバーなどを幾つか買っておいて下さい。あっ、ブロックタイプのはフルーツ味でお願いします」


「分かった。人数分用意しておくよ。――まあ、あそこで買うより外で買って来た方が安いだろうけど、たまには売り上げに貢献(こうけん)しないとね。後、水は、川沿いに下るようだから大丈夫だろうが、水筒の他にもペットボトルで一本持って行くといいよ」


「ははは。まあ、そうですね。……でも、そうか! 宇津木(うつぎ)さんの所で卸値(おろしね)に少し色を付けた値段で売って貰えれば、安く仕入れられるかもしれませんね」


 この意見には、広瀬村の面々は(おおむ)ね賛成だった。将来的には宇津木(うつぎ)商店で仕入れられる分に関しては、全面的に譲渡(じょうと)なり委託(いたく)なりしてもいいだろう。ただ、実現したとして支払いをどうするかという問題は残ったままだった。


「とにかく、異世界の物でこっちの世界で売っても問題ないものを見つけないと、資金繰りが苦しくなっちゃいますね」


 優希の言葉にゲンさんは『う~ん』と(うな)った後、意外な事を(つぶや)いた。


「正直、お金の心配は要らないんだが。――まあ、こっちの物や金が一方的に出て行くのは健全(けんぜん)じゃないしな……」


 ゲンさんに聞き返そうとした優希だったが、恵子がゲンさんを親の(かたき)のような形相(ぎょうそう)(にら)んでいたので、思わず躊躇(ちゅうちょ)してしまった。

 しかし、そんな様子を見られたのか、恵子は一つ大きな()め息をつくと(あきら)めたように説明を始めた。


「ゲンさんの言う通り、資金に関しては心配はいりません。……国から補助金の名目で資金提供があり、村を維持する程度なら問題なく運営出来るのです」


「えっ、国から補助金が出てるんですか? ん? でも広瀬村って表向きダムの底だよね。ならダムの補助金とか、実は広瀬村は別の所にある事になっているとか?」


「いえ、ダムの補助金とは別会計です。――正確には、国が直接出している訳ではなく、宗教法人を迂回(うかい)するという形を取っています。なので政府内でも極一部の人間にしか、ここの存在や資金の流れを知りません。とはいえ、この資金に頼り過ぎると、後で無理な要求を突きつけられたとき、拒否し難くなるかもしれません」


 何か重大な話を聞かされて混乱気味の優希だったが、考えてみれば、ダムを使った隠蔽工作(いんぺいこうさく)は国家規模でなければ実現不可能だ。自衛隊派遣といい、明治政府の件といい、古くから権力者とは何らかの繋がりがあったのだろうと思われた。


「とりあえずは分かりました。ただ、お金はなるべく使わないように注意しますが、アルヴァーさんの話にもあったように、あちらの世界の通貨を集めるのも急がないといけないようなので、売買が軌道(きどう)に乗るまでは大目に見て下さい」


 恵子は「分かりました」と(うなず)くと、具体的にどの程度、自由になる資金があるのかを説明した。優希は、その金額に驚愕(きょうがく)したが、広瀬館や広瀬村全体の予算として振り込まれる金額は比較的常識的だった事もあり、意味もなく胸を()で下ろした。

 ただ、仮にも一つの村の予算なだけあってそれなりに高額で、いきなり自由に使ってみろと言われても躊躇(ちゅうちょ)する金額ではあった。


 優希は、一先ず多すぎる資金の事は忘れ、実に庶民的(しょみんてき)な場所である100円ショップに思いを巡らせる事にした。

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