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~ファンタジー異世界旅館探訪~  作者: 奈良沢 和海
【第1章】迷いの森と広瀬村
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第13話「若旦那とプレイルーム」

 優希の一声で晩餐(ばんさん)の準備ためにゲンさんは追加の料理のために厨房へ行き、恵子はお客様をお部屋に案内するため動き出そうとしたが、アルヴァーはそれを(さえぎ)ると、ある提案をした。


「ここの和風という建築様式の部屋も気になるが、宿泊料も定まっていないのなら、上質の部屋をあてがわれるのも(はばか)られる。あと私は――優希(・・)から、こちらの世界との調整役を頼まれている。なので、そちらが納得するならば、館の方に私が長期滞在可能な部屋を確保しておきたい。勿論(もちろん)、従業員用のもので構わないし、滞在費(たいざいひ)も支払う。――可能だろうか?」


 恵子はアルヴァーの提案に少し驚きながらも、優希に視線を移し、大旦那である信憲(のぶのり)ならどうするだろうか考えた。――そして、多分、希望通りになるだろうという結論に達した。


「おそらく大丈夫だとは思いますが、大旦那様は生憎(あいにく)と不在にしております。――ですが」


 そして優希に視線を移すと、二人に語りかけた。


優希(・・)さんが頼んだ事ならば、優希さんがお決めになっても良いと思いますよ」


 恵子の言葉に優希は驚いて考え込んでしまった。始めは軽い気持ちで手伝いに来たはずだが、話がどんどん大きくなってきていた。


『仲居の恵子さんが普通に魔力の話をしたり、あっちの世界とか、広瀬村の事もそうだし、自分自身の事もか。昨日まで通行人Aの役だったのに次の日には主役に抜擢(ばってき)されていたような――って、あれっ?』


「えっ? お爺ちゃん居ないの?」


「はい。何でも数日留守にすると言って。……少し出てくるからと」


 急かすように呼んでおいて本人が居ない事に優希は思わず脱力した。


「はあ、人手不足が深刻で自分が何故必要なのも大体分かったけど、まさか丸投げとは……」


 広瀬館(こうらいかん)の従業員は皆、勤続年数(きんぞくねんすう)が長く頼りになるのだが、お手伝いバイトとして来た優希と、経営者一族としての立場とでは全く違う。優希は思わず溜め息を漏らすのだった。


「じゃあ、恵子さんはアルヴァーさんの部屋の準備をお願いします。今日の所は洋館の客室を使って貰って、滞在部屋の振り分けは後日改めてという事で。アルヴァーさんもそれで良いですか?」


「すまない。感謝する」


「それでは、お先に失礼してお部屋の方を整えて参ります。優希さ――若旦那様は、お客様をご案内して下さい。――では」


 綺麗(きれい)なお辞儀(じぎ)をすると、恵子は(わず)かに早足で通路の奥に消えた。そして、二人の視界に入らなくなった所で、急ぎ洋館に向かうのだった。

 坊ちゃんから若旦那呼びになって流石に困惑した優希だったが、アルヴァーの案内を思い出し気を取り直した。


「それじゃあ、洋館の方に移動しましょうか。外に出ないでも直接行ける連絡通路があります。旅館の設備を説明するのにも便利なので、そちらを利用しましょう」


 新館を経由して洋館に向かう途中、アルヴァーは見事に整備された中庭を堪能(たんのう)していた。準平庭式枯山水(かれさんすい)の庭園はライトアップされ、白砂と綺麗(きれい)に整えられた植木の鮮やかな緑が見事なコントラストを(かな)でていた。また建物自体も華美(かび)さを抑えつつも直線を基調とした仕上がりは、人の手の入った人工的な物をして自然をも感じさせるという優美(ゆうび)さがあった。


「この通路を真っ直ぐ行くと洋館の地下に繋がっています。途中、露天風呂へ通じる通路になっていますので、夕食後にでも案内しますね」


 連絡通路入り口で優希が施設の説明していると、静かに眼を閉じていたアルヴァーが口を開いた。


「なるほど。この通路の向こうから強い魔力の流れを感じるのはそのせいか。熱も感じるという事は温水が湧き出ているのか」


「そうです。温泉といって、ここのはボーリング掘削(くっさく)で地下から湧出(ゆうしゅつ)しています。なので、火山性の温泉とは違って匂いはほぼありませんね」


 通路を進むとT字路になっていたが、分岐点に差し掛かっても匂いや湿気といったものは感じられなかった。

 そのまま進むと、やがて、統一感がありつつも雰囲気が若干違う通路との接続部が見えて来た。階段で下るようになっているが通路天井の高さは同じため、上空間に余裕が出来て、小ぶりのシャンデリアが設置されている。

 通路の最奥(さいおう)が見えると、そこには、金属製の螺旋階段(らせんかいだん)が設置されていた。

 その手前には、豪華だが落ち着いた雰囲気のクラシックな扉があり大きめのステンドグラスから中の様子が(うかが)えるようになっていた。


「ここはもう屋敷の地下になっていて、奥の螺旋階段(らせんかいだん)を使って上がってもいいんですけど、この扉の向こうにある、この屋敷自慢のプレイルームを通って貰った方が何かと便利です」


 そう言って優希は、プレイルームへの扉を押し開いた。


「ほぅ、これは面白い空間だな」


 アルヴァーは今日、何度目かの感嘆(かんたん)の言葉を発していた。そこには様々な遊具と思しき品と、落ち着いた雰囲気の皮製のソファーが、各所にバランスよく配置されていた。天井には豪華だが派手になり過ぎないシャンデリアが配置されていたが、明るさは(ひか)えめで、壁に配置されたランプ状の照明で部屋全体の明るさを補完(ほかん)していた。


「先程も思ったのだが、この建物や集落の明かりは、魔力灯(マギアルーモ)ではないようだ。かといって灯油(ルーモオレオ)とも違うようだ。何より、光に()らぎがなく周囲が非常に見やすい。どのような原理なのだろうか?」


「えっと電力で、――あ~、何ていったらいいのかな? 魔力の替わりに電気をエネルギーを変換して……電圧とか――」


 普段から身近にある分、説明は難しい。優希は苦労してアルヴァーに解説した。


「なるほど、電気(エレクトロ)を金属線に流す事で伝達(でんたつ)していたのか。電気(エレクトロ)継続的(けいぞくてき)に供給出来る技術力は驚くべきものだ」


「自分からすると、魔力を操る方がよっぽど驚くべき事ですけどね」


「ふむ。そちらから見るとそうなるのか……ところで」


 アルヴァーは、幾つかある遊具のうちの一つに注目していた。電飾(でんしょく)明滅(めいめつ)が、ここにある様々な遊具の中でも一際目を引いたのだ。電気(エレクトロ)を使った技術品という事までは分かったが、どのような品かは分からなかった。

 優希は、視線でアルヴァーの興味を引いた物を理解した。


「ああ、それは、ピンボール・マシンです。結構古い筐体(きょうたい)ですけど十分現役ですよ。――プレイしてみます?」


「面白そうだ。遊び方の解説を頼む」


 その後、アルヴァーはピンポールを心行(こころゆ)くまで十分に堪能(たんのう)した。ただ、どうしてもフリッパーの届かない位置にボールが来るのが気になったので、その事を優希に(たず)ねた。


「すいません。言ってませんでしたね。――筐体(きょうたい)()らしてもいいんですよ。ただ()らしすぎるとTILT(ティルト)ランプが点灯して操作不能になっちゃいますけど。上級者向けテクニックですね」


 話を聞き(しばら)く考え込んでいるアルヴァーに、遊びとはいえルールを伝え忘れた事を不快に感じているのではと優希は考えたが、その後、意外にもスッキリとした表情になると心情を語った。


「ボールの反射やフリッパーを動かすタイミングばかりに気を取られて、――筐体(きょうたい)だったか、そのものを動かすという発想が出て来なかった……。(わず)かな力を加える事で結果そのものを変える。大変、勉強になる」


 気に入ったのだろうか、アルヴァーは名残惜しそうにピンボール・マシンを見ていたが、優希が「食後にでもどうぞ」と言うと納得(なっとく)したように楽しげな表情をした。

 プレイルームの天井は途中から一階への吹き抜け構造になっており、広い踊り場を中心に左右に階段が設置されていた。踊り場まで上がりプレイルームを見下ろすと、床面の木製で美しい模様と深い(つや)が見て取れた。


「ここは元々、ダンスホールだったんですよ。床やこの広い踊り場はその頃の名残(なごり)です。ただプレイルームにするには広すぎたんで、壁で幾つかの部屋に仕切ったみたいです。まあ殆どは物置になっていますが」


 プレイルームから視線を背後に移すと、バーカウンターが設置されていて、壁一面に及ぶ程のお酒の瓶が所狭しと陳列されていた。アルヴァーはその光景に圧倒されながらも、美しい意匠(いしょう)のガラス瓶が多い事に興味を抱いた。


「ここには非常に高価な品が惜しげもなく陳列(ちんれつ)されているのだな」


「まあ、それなりにお高い値段のお酒もありますが、特別高価なのは別の所に保管してありますよ」


 すぐに、アルヴァーは優希の答えの別の可能性に思い至った。つまり、中身のお酒の方がより高価で、見事な出来映えのガラス瓶はあちらの世界では一般的な品なのではないかと。道すがら見てきた(ゆが)みのない窓ガラスの多さも信憑性(しんぴょうせい)の高さを示していた。


「私が言ったのはガラス瓶の方だったのだがな」


 アルヴァーがそう苦笑して答えると、優希も理解したようだった。


「こちらの世界のガラス製品はそれほど高価でもありませんよ。まあ物によってはそれなりの値段はしますけど」


「ふむ。その辺りも早めに話し合った方が良いかも知れない」


「そうですね。それじゃあ、一階に上がって大食堂に向かいましょうか。そろそろ準備も終わっているはずです」


 二人は階段を上がると食堂への扉を開いた。

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