陸歳 前々前世から君のことなど探しても気にもかけてもいねえから声かけてくんなだぜ!
「『ああああ』お前との婚約(GSOMIA)を破棄する!」
一方的に婚約破棄を宣言する我が婚約者ですが実のところ私は未だに彼との面識はありません。
つまりこれは未来視でしょうか。唐突にこの世界はアニメの世界らしいと気づいた私は気絶していた模様で兄のヒロシがかなり狼狽えていました。
「おにいちゃん大変です。この世界はアニメの世界のようです」
「また『めが~! 腕の眼があああ!』って叫ぶあれ?」
違います。
「うーん。電脳知性で象られたごっこ遊びみたいなものかな」
「さすがですお兄様!」
兄の理解の早さは相変わらずのようです。
この世界は前々世の私が視聴していたアニメの世界であり、その世界での私は主人公をねちねちいたぶるグループのリーダーでした。
「あのさ」
「はいお兄ちゃん」
「一ついっていいかな? 身分程度でせこいいじめを主導する奴って他人の教育の機会を奪っているよね? それはクラス全員その被害者を除いて関与している者は退学、見て見ぬふりをするものは停学処分になるようちの国」
マジですか。
「あったりまえだろ。学校に行きたい奴は身分を問わずアホホドいるし別に貴族だからって自分の名前しかかけない奴はそれなりにいるんだぞ。それだったらクラスそっくり入れ替えたほうがマシだ。王立学院なめんな。タダで学べるってことは速攻退学停学あるいはその調査が入るってことだぞ」
「えっと」
「疑いがあった時点で全員に事情聴取だね。教職員だと免職もありえるけど免職を避けるために集団隠蔽するバカが後を絶たないから厳しくやっているぞ」
本当に厳しいようです。
「だって平民や下級貴族や没落貴族を入れている理由って査察や諜報の訓練も兼ねているからね」
聞きたくない内部事情も暴露する兄です。
「アンジェもあそこの出身だぞ」
「……そういえばアンジェお母さま、一時期学園に通ってました。通信科目があるということで週一回でしたけど」
「通信科目は一〇年単位で卒業を目指すが、アンジェは普通四年かかる125単位を一年で終わらせたからね。マジで優秀だよ」
一応アンジェは没落貴族出身で人狩りにさらわれて暗殺者の訓練を受けたという経緯があり実は身分だけなら子爵家相当らしいのです。一応うちに勤める以上暗殺者出身だと不味いので色々身分工作をしようと画策した父はアンジェの身分がそれなりに良いものと調べをつけて本人に問いただしてそうなったようで。いや、そのせいで『身分的に妾として問題なし』と手を出したわけですけど。
そんなことよりあの神様、破滅フラグのあるキャラクターにしやがって!
「で、その子、アニメとかいう自動板芝居の悪役はどうなるの『ああああ』ちゃん」
「主人公をいじめ倒した揚げ句、主人公と秘密の仲良しだったちいさな宇宙人……妖精の女の子の存在を知り、秘密を共有していく中で改心して最終回では主人公と仲直りではなかったかな」
よく覚えていないのですよね。ひょっとしたらいじめを婚約者に指摘されて破滅しているかもです。
「あのさ……それうちの家の存亡にかかわるぞ」
兄の指摘は至極まっとうなものです。うちは実質国政や軍を担っていますが国が割れかねません。
「ですね!」
「いやいやいや。マジでヤバいからね。その話今僕にしかしてないよね。よしよしヾ(・ω・`)」
兄はポンポンと私の頭を撫でてくれます。
微妙に背丈はわたしが追い抜いていますが。
「速攻で対策をとろう。まず先に来年婚約をする予定だからそれを推し進める」
はい?
「お兄ちゃん。それは家と妹の将来を考えて『王家との婚姻は取りやめる』じゃないの」
「アホ言うな。この婚姻を成立させるために我が家の何人もの優秀な人材が死んでいると思っているのだ」
選択の余地はないようです。
「事情を早速公爵に話すぞ。そしてことあらば王家を脅したり滅ぼすことも視野に入れて10箇年単位で考えねばならん。お前は婚約者の心を離さないようにちゃんとやれ」
「えっと! こういう時は好きな男と結婚できるとか?!」
兄は『こいつばかだなぁ』という顔をしてこう抜かします。
「あのな、公爵……ちちうえ? が二人も妾や愛人囲っているけど、まず婚約者を夢中にしないとそれ無理だからな。基本領内は母上が取り仕切っているんだぞ」
ですね。
「メイアとシンジュの仲がいいのはアレ昔からだからだぞ。メイアなら良しってシンジュが認めたから八方丸く収まったんだ。メイアは優秀だけど身分が平民だったし、公爵は身分を捨てようとしていたけどシンジュがその必要は無いってね。てか僕が殴って止めた。『てめえ貴族でありながら恋に狂って領民を見捨てて逃げるならぬっ殺すぞ』って。メイアもシンジュもマジギレしていたけどね。『お前以外にまともに公爵家継げる教育受けてないだろざっけんな殺すぞ』と三人で脅して」
うん? いつの話?! 私が産まれるまえですよね?!
「元々公爵、冒険者やっていたからなぁ。三代前はうちは辺境男爵家だったけれども不世出の大英雄が出て一気に侯爵になり王家の娘を娶って今の地位にあるからね。伝統的に学園に通う場合冒険者登録も必要だもん。それで卒業後も一年くらい放蕩していたのだけどその時あいつメイアと逢ってねぇ」
あれ? それって学園出身である母も元冒険者ってこと?
「だって、キミの炎魔法適正ってシンジュ譲りだぞ。あの脳筋……公爵がまともに魔法を使えるとでも思ったのかね」
ええええ?! だって薔薇園を自分で管理するって言ってきかずに虫で気絶する母ですよ?!
「そりゃそーだ。ワームに頭からがっぽり食われかけたことあるもん」
想像以上だったです。私の虫嫌いに根拠はありませんが母には根拠があるようで。
「というわけで」
兄は言います。
「全面的にバックアップするからこの婚約を成立させろ。国が揺れたらたまらん」
貴族の婚姻に選択肢はないようです。