エピローグ 三十路 前作主人公がちょっと出てきたりすると興ざめだったりするぜ! もしくは胡蝶の夢、神々の戯れだぜ!
獣人はあの頭蓋骨の形からいって生物としてあり得ない。
谷口くんことヨーイチの発言を私は思い出します。
あれは、あれこそは人が『神』を生み出す前に世界にただ存在していた荒ぶる神々の末裔ではないかと。
夢の彼方に存在し、傲慢なる人の作りし神に迫害されて消えた存在の末裔ではないかと。
だからルシアやノワールはあの空間でも戦えたのではと。
……。
……。
「不思議な夢を見ました」
草を枕に石を背に。
貴族産まれ貴族育ちの私がこのような生活をするようになって思えば長いですね。
朝露に湿った自動車の窓ガラスを拭って外を見ると早くも陽が登りつつあります。
仲間の茂宮様曰くこれは車内の湿度差によるもので朝露ではないそうですが。
私は寒いと嘘をつき抱き着いていた愛しの方の頬にそっと唇を落とします。
彼女はわたしの想いに気付いていながら他の殿方を愛していますけど。
彼女は身をくねらし悩まし気な声を出します。すこし私の芯が疼きました。
ごきげんよう皆様。
私の名前はインヴィディアと申します。『彼女』の故郷の死語、ラテン語では『嫉妬』という意味だそうですが私の世界では『究極の他者愛』という意味もあります。短い間ですがよろしくお願いします。
窓ガラス越しに見えるのは翼竜と呼ばれる生き物でドラゴンではなく恐竜とかいう古代の生き物だそうです。これはかつて仲間だった組長さんという方が教えてくれました。
私の愛車のコペンは少し離れたところに。眼をやると茂宮さんと物部さんが火を起こして朝餉の準備をしていますね。私も参加しないといけませんが。
今日はもう少し眠っていたい。
かつて八神博美と呼ばれた私の好きな方はまだ眠っています。
その隣で歯ぎしりしてうめく朝倉市子さんにそっと毛布を掛け直します。
明晰夢という夢があるそうです。
夢とわかってみる夢は鮮明かつ思い通りになり訓練で一回の夢で何十年分の体験ができたりするそうです。
また、夢を見ている間はおかしな矛盾や自分が異性などになっていてもそれはそれで矛盾に思わず、目覚めた時に激しい違和感を感じることもある。私は短い人生経験でそのような事を存じ上げています。
博美さんは『やんでれおとめげいむ』という世界の住人で、こんたくとれんずなる宝玉を瞳に出し入れすることで様々な世界を往復する力をお持ちです。宝玉の瞳と私は呼びます。
その瞳がゆっくりと開かれていきます。
私はいつものように寝たふりをしつつ、細い身体を味わうように彼女の肩を抱きます。
「おはよ~。……インヴィディアまた寝ぼけている」
「おはようございます。ひぃちゃん」
あ、口元によだれがついていますね。恥ずかしい。
「……恐竜の世界に行きたいって言ったのは誰だっけ」
草食恐竜の背に乗ってひぃちゃんの義兄さんがぼやきます。
「あんただあんた。義兄様」
ぼやく彼女にくすくす笑う市子さん。
この場に『おばちゃん』がいたらもっと楽しかったかも。
「次はどんな世界にいこう」
「うーん。ネタが尽きてきたから一回元の世界に戻らない?」
仲間たちは自動車を動かしつつ好きな事を話しています。
博美さんは今日も茂宮さんのバイクの後ろで彼に抱き着いていますね。
時々みんな殺したくなるのですけど、私としては自然な愛情だと思っています。
「へぇ。そんな世界があるのか~」
「それ、姫の夢でしょ」
誰かの見た夢は等しくいつか誰かの観る未来で、物語ですよ。
多分、私の見た夢の人々もきっと私たちが夢見て、物語として思い出す限り。あるいは飽きて捨ててしまってもきっと存続しています。
あの女性たちは、ある意味私でアナタで誰かなのです。
何重もの道が分かれ集いまた集まる。ユアストーリーにしてマイストーリー。
「よっし」
「うん? いくの? そんなあるかどうかもわからない世界に」
いく行くと軽く答えるわたしの想い人はこう告げます。
「幸せがあふれる世界なら、どこにでも。
幸せが無い世界なら。なおよし」
たとえ行く手に『神』を名乗る愚か者がいようと私たちはくじけずに立ち向かうでしょう。
物語を行きかう人の心に罪はありません。それを弄ぶものがいれば。
私は細い指をそっとふたつの太陽に向けて伸ばします。
わたしの魔導士としての力は取るに足りませんが、それでも。
『先生』今も通信高校の教壇に立たれているのでしょうか。
わたしたちは元気にやっています。『組長』さんはおかわりありませんか。
もし運命が交わる時、物語が交差するときがあればまた。
私はインターネットにつなぎます。
私はわたしの物語を紡ぎます。
わたしの読んだ物語。私の出会った物語。私がこれから紡ぐ物語。
そっと投稿のボタンを押します。
反応を見るのは、また明日。
髪を芋虫のバレッタで留め、胸に胡蝶のブローチを。
旅装には向かないヒールを進めて私は愛車に向かって歩みだしました。
~Look next story!~
「幸せがあふれる世界なら、どこにでも。
幸せが無い世界なら。なおよし」
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