二五歳(クリスマス) ヒロインのゆううつ
「王妃様にお目にかかりまことに」
「いいからリズ、表をあげてよ。ここは社交の場じゃないのよ」
リズが久しぶりに遊びに来てくれました。
あちらでは弟が遂に次期領主を継ぐとして頼りがいのある若者に育っています。
弟はすごく生意気に育ってくれました。今では『王妃様、私は小さくとも次期領主です。子供の頃のように泣きついたりは致しません……うっひゃああ! 毛虫!』とかやっています。
彼は『兄』の影響を強く受けていたので彼の記憶が欠けた後一年ほど虚脱状態になっていましたが、逆に気が抜けていい領主になりそうです。
「弟君は元気です。いや、元気というべきか」
「どうしたの」
ぼつぼつとリズが話すに、姉弟にしては近づきすぎではないかと。
そういえばあの子も成人男子です。どんな若い娘の姿似より美しい姉というのは別の意味で教育によろしくないでしょう。
「あの子だって婚約者をないがしろにする子ではないでしょう」
「そうですが、あの子も二十歳ですよ。そろそろ婚姻となってもおかしくないのですがなんだかんだと避けている感があります」
「リズはどうなの」
「うーん。これだけ殿方の関心を買い過ぎると、殿方の『若い子全てが自分の欲望の対象で結婚で縛られたくない』というのとは別な気がします」
アレはあくまでモテないオヤジがありとあらゆる若い娘を視姦してまわるもので、リズのように逆に何度も危険な目にあってヒロイン力でなんとか助かっている子は別……。
「あれ!? ヒロインの能力ってまだ有効なの!!?」
「それでお伺いしたのです」
ちなみに、私にはそういった能力や強制力を最近感じていません。
あの魔王モードは多分素です。たぶん。
つまり、リズを中心として国が荒れるのはありうるのです。
いえ、一応リズを結婚させようと努力はしましたよ。隣の国の妾腹の第三王子とか諸々の浮名をリズも流して……アレ?!
「これ、原作再現でしょう」
「いや、いやいやいや! 確かにリズは外交でものすごく頼りになったけど!」
絶世の美女が一人いるだけであらゆる男はチョロインでございます。
褥を共にすると能力喪失だろうからいいところまでしか行きませんがそれでも絶大な切り札になってくれます。
「で、二五歳です」
「本当ごめんなさい」
「分家のフェリクスさまがより大きなおなかを揺らして憤っていまして」
あそこの次男坊は有能ですが素直さがありません。
長男がバカでしかないのでこちらから廃嫡させましたが、次男坊も色々苦労しています。
「だってあのオヤジ、長男もそうだけどあなたに手を出す気満々だったのよ」
「存じていますわ」
「王弟陛下は」
「男性として待ちきれなくて高級な……ごほん」
あ、それは盲点。
どうりで最近怪しげな可愛い女の子を何人もとっかえているのか。
そういえばあの子も遂に婚約者とうまく行かずに向こうから断ってきてました。王族との婚姻を破棄するとはと話題になりましたが経緯からいって無視できなかったとは夫の言動です。
「というわけでですね。私も前世のお父さんたちと相談したのです。まぁ一〇年以上前に結婚もせずにアニメキャラの格好で死んでいる汚点はありますが」
「あ、私も久しぶりに前世の父上にも会いたいな」
貴族の特権ですが親が何人もいるのはある意味楽しいものです。あくまでお互いの親が仲がいい時のみですが。
「というわけで、私は前世の父とあうために渋谷に立っていました」
うん?
「そこにスカウトマンが登場して私は芸能界行きと騙されえっちなビデオに出演する羽目になりかけましたが例によって強制力で助かりました。前世の父が転生勇者だったのです」
おい。また意外な人材発掘だな。
「というわけでですね。私もカミラちゃんみたいに向こうで過ごそうかなと」
「……」
フェリクスさんの次男坊が万難を排してついてきてくれるそうです。敏腕マネージャーとして。
「あの子なにやっているの~~~!!?」
「親や兄、私に袖にされた腹いせにフリーの芸能マネージャーやっていたようです」
「年齢を一七歳と偽ります」
「ちょ」
一応リズは魔法使いですから齢を取る速度は通常の半分です。なのでおかしくは見えないでしょう。
芸能プロダクションも一応うちは持っています。
なんせ今までの芸能界の干すだの枕だのの悪習をすべて断ち切れたのは大物たちが相次いでお隠れになったからと私達の軍資金力によります。私達には遊びでも日本の芸能界には一大勢力ですから。
「というわけで、マジカルプリンセス(笑)としてデビュー決まりました(棒読み)」
「ちょ、ちょ、誰か頭痛薬を持ってきて……」
確かにリズは王妃の妹で公爵家令嬢なのでプリンセスといっても差し支えないですが、フェリクスさんの次男坊なにしているの~~!
「あ、王弟陛下ですが」
「こんどはなに!? あの子最近公務しないけど!」
「傲慢王子様系アイドルとしてデビューが決まりましたのでたぶんその影響かと」
そういってリズがぱちんと指を鳴らすと「失礼します」「お邪魔する」。薬を持って入ってきた王弟陛下、フェリクスさんちの次男坊、リズがそろってムーンウォーク始めだします。
「急激に具合が悪くなりました。もう寝ます」
「王妃の許可もとったぞ! 芸能界の頂点をとる! 資金力でももう国内最大だ! いけるぞ!」
確かに生まれながらに王になるべく育てられていますからある意味適職ですが。ええ。
あとリズはどんなことがあっても彼女の貞操を奪うことが出来ないので色々な意味で捗ります。むこうの女性芸能人待遇改善に大きな力となるでしょう。
……でも、こっちの男尊女卑も解消してくれる手伝いももっとしてほしかったなぁ。仕方ないよね。
あ、後の調査によると谷口家の扉を知っている王族や我が一族の一部の手引きにより、向こうではエルフと獣人とロリドワーフの地下アイドルたちがこっそりメジャーデビューしていたそうです。確かに人気出ますよね。
怪奇の事件は妹たちの仕業。
取敢えず後日彼女の部屋を捜索してジャ〇ーズのブロマイドとか押収しておきますね。