壱拾久歳 異世界をUニモグ(キャンピングカー)に乗って
「やっぱ目立ちすぎですよね」
「そうか?」
向こうと違い、こちらには馬もなく走る車はありません。剣と魔法のファンタジーと言いますが少なくとも私たちの認識ではこちらこそが現実です。
婚約者は車を買ったからドライブに行きたいと言い、私も同調しましたよ? それでもです。
「いや、最高のクルマに乗りたいっていったらニーホリが『ウ2モグしかあり得ないな。1000万で最新機種を大サービス提供してやらあ』というのだ」
「私のお給料……」
ただ、その剣と魔法の現実世界にウニモGが走っていたらこれはファンタジーではないでしょうか。
さっき村に入ったら魔物と思われましたし。これ防弾仕様ですが。
「まあそこはそれだ」
私はあっちの世界でのガチャ事件でカミラさんと接触当面禁止を谷口さんに命令されたため二人には向こうでは最近『さん』呼びです。
しかし婚約者はクルマにはまってしまいました。元々乗馬はそれなりにこなしますがクルマの拡張感覚が好きで好きでたまらないらしいです。雑誌を電子書籍で買い込んでコソコソ公務の合間に残り電池を気にしつつ見ています。
「だいたいこのクルマ、でかいのに二人のりで使いにくくないですか」
「ほかに誰を乗せろと。そんなに要らないだろ」
ぼんっ!
頰が爆発するというか、この幸せさがマッハで爆裂しそうで何でしょう。頰が熱いし鼓動マッハで死にそうだし幸せだし!
後ろはキャンピングカーになっているのでかなり快適な旅ができます。
「アタッチメント交換」
「サウナ!」
綺麗な川が見えてきたのでサウナを出しました。
ギリギリまで待って川に飛び込むのです。
うっひゃー。つめたーい!
かような姿仕草から誰も私たちが未来の国母や国王とわかる人はいません。
春の氷水を髪にかけられてやり返します。
「冷てえ!」
「やーい!」
というより常日頃から近しい方々は「全然王妃や王になる人に見えない」と申しており。
「倍返しだ!」
「あ。卑怯です。桶を使わないで!」
王は民に支えられての王なのです。社交の場に出ればしっかりやりますよ。
その辺。向こうのジョーキューコクミンに指導教育するのはちょっと疲れてきたのでいい休暇です。
問題はお城の方で王太子とその婚約者がたまっている公務ほっぽいて逃げたという事実ですが。先に国王と宰相を説得しましたので親公認デートですが。
ある程度進むと道路が土砂崩れと丸太でふさがれています。よくあります。
「アタッチメント交換!」
「ショベル」
こちらのアイテム袋と召喚技術の応用です。次々とアタッチメントを口頭コマンドのみで交換できます。
ショベル(※正しくは婚約者曰くグラップルという鉤爪ですが私にはパワーショベルの細かな違いにすぎません)で除去。盛土になっているところは「ブルドーザー!」アタッチメント交換で対応可能です。
ぐいぐいすすみます。
「コンドル!」
鳥の名前がついているのに飛ばないのはこれが人を大量に運ぶためのアタッチメントだからです。水陸両用なので川だってぐいぐいいけます。
「多分先日の大雨によるものだろう。近くに村があるから救助に向かう」
「了解しました。シロ! 竜王様!」
ばっさばっさと翼の音。
白いもふもふドラゴンが空を舞い、私達は悪路を駆けて並走します。
窓から頬を出すと風が気持ちいです。
「危険だぞ。辞めろ」
「はい」
シロに手を振ると彼はわたしたちの車を空輸で運んでくれます。この車はヘリコプター空輸だってできますがさすがにヘリコプターまではこっちに持ち込めていません。あっちでは何台か購入済みですが。
土砂をかき分け岩をどかし壊れた家を破砕しついでにコンクリートミキサーで養生までします。
この車は内部の油圧を利用してアタッチメント交換のみで多目的行動が可能です。
山の中だからか雪がたくさん残っているので除雪車アタッチメント交換で対応です。
ある程度は人員輸送も可能ですが、被災者対応には『線路』が必要です。
「王たる我が命ず。我が街より伸びいでよ線路!」
なお、王都に隠されていたダンジョンも無事に攻略できました。
これを車輪アタッチメント交換で線路に乗って、列車を牽引することで大規模輸送が可能です。
行きは避難民、帰りは物資。
「凄いものを手に入れてしまった。もはや我が国に発展あるのみ」
「やりすぎると竜族を敵に回しますよ」
豊かさも竜族であるため竜の群れの襲撃は回避できません。
だからこの世界の人間は経済を回すのですが。
「了解している。王になったらこんな『ちいと』は使わせてもらえないだろう? 子供のやることと見逃してもらえるうちだ」
そうですよね。
「ずっと子供でいたいです」
何も背負わず好きなことをして、それが他人にとって迷惑でも親切でやったのだから許せと言い張れるそんな存在で。
でもそれは無理ですよね。
わたしたち。来年は王と王妃になります。




