拾壱歳 魔王なんて序盤の雑魚だぜ!
さて、ヒロインさんと無事合流した我々は嫌がる彼女を実家から引きずってメイドとして迎え入れることにしました。異世界改革とかやらせませんよ。どんな悪影響が出るやら。
幸い相手は平民。貴族家への就職は彼女の今世の両親には僥倖そのもの。二つ返事で彼らは娘の幸せを願って送り出してくれました。怪しげな研究や改革は潰しておきます。
のちに聞くところによると人糞や犬糞をそのまま作物にかけていた村が滅びかけてお父様の援助を受けたとか。これは一生働かないと忠義を尽くせませんよね。
「というわけでポチ」
「違います」
貴族に許可も取らずに口答えとはいい度胸ですが許してあげます。
「どうして悪役令嬢が王子連れて自分から来た挙句、ヒロインを身請けしちゃうの〜!?」
自分がその立場ならどうしたか考えましょう。
「うちの婚約者に無礼だぞ」
「いや、王子様昔会いましたよね? それでイベント通してそれを思い出してラブラブが始まるはずですよね!?」
だって私もそれの視聴者でしたし。予定がわかっているならあなたが自由な恋愛を楽しめる平民の立場を利用し大人たちをたぶらかせて必要以上に財力と名声を集めゆくゆくは後継者のいない男爵家の養女になろうとするルートを潰すに決まっています。
「記憶ににぃ」
「そうですかその記憶力すごいですね!」
「それほどでもないです。えっとリーズナブルですかね」
「リズです!」
平民のままで異世界改革を続けさせるなど下策も下策。その現代知識の数々を我が領のために使ってもらいます。
うちの弟(※最近慣れました)の調査力を侮らないでくださいまし。
「いや、うちで預かる」
「あの、それ曲がりなりにも運命の強制力で結ばれる予定の相手に対して危険では」
彼はふふんと鼻を鳴らします。
「王たるもの、運命をしょうめんからうけとめて叩き潰すのがカッコいいのだ!」
「すてき」
なんかヒロインさん、マジボレしました。うちの婚約者はマジボレすると面倒ですよ。この私がいうのだから間違いない。
さて、数ヶ月にも及ぶヒロインさんの事情聴取が終わりました。平民は読み書きその他でハンデがありすぎるので曖昧な記憶や後から追加した妄想であると判明した知識も予想通りに多く、放置せずに済んで良かったです。本来なら彼女が学園に出てくるまでは私たちは彼女の存在を知らないのでしたっけ? 男爵家の養子に迎えられるような人材とか、それだけ目立てばうちのスカウトに引っかからないはずないし、うちのおにいちゃん、もとい弟の注意をひかないわけがないのです。
「さて。残る懸念は魔王ですね」
「そうですね『ああああ』(※いいかげんどなたか命名してあげてください)様でいいのかしら」
「ダメだろ。メイドとして徹底して礼儀その他鍛えさせるから覚悟しろ。それより二人とも魔王とはなんだ」
我が婚約者にホの字になったリズはあっさりと。
「魔王です」
それじゃ私でもわからないから説明しろといいますよ。
「えっと魔力の王、魔界の王、魔物の王などの意味合い、神の一種、あるいは悪魔の王ですね」
私の説明に婚約者はたいそう憤慨し。
「王族の僭称は死刑なるぞ」
「憤慨するところそこですか」
リズ、直接話しかけないでください。
まあプライベートは友達でもいいですよこの際。
「その者の名はカミラです。『あの』伯爵家の娘ですね」
その『伯爵家』は大変有名なのですがあまり社交の場には出てこれません。地元では絶対的支持と事実上の独立権まで持っています。
「うん? あの家は全く問題ないぞ。反乱など10000パーセントない」
「リズ。殿下に数学補助教師としても仕えてください。言っときますけど手を出されたら死んでくださいね」
私はシンジュお母さまほど嫉妬に強くないのです。ええ。
「あの家が反乱などあり得ない」
「原作ではうちが滅ぼしていましたから。自治権がある狂信者どもをとなりにおいておかないという感じだったと記憶しています」
先にお父様に裏目に出ないように進言した結果、双方の領にて積極的に交流して相互理解を深めています。住民の皆さまのキスはご勘弁ですけど。
「では来年会いに行こう!! 魔王とやらに!」
あの子、王子に会ったら萎縮してしまうと思うのですがまあそれはそれで。