拾歳 作者が飽きる(エター)のもお約束だぜ!
「ところで」
婚約者がまたも無茶を言います。
「クロがいる」
「ブラックです。殿下」
「わたし、ノワールって呼んでいる」
「シロがいる」
「竜王陛下になんという……」
さしものブラックでもさすがに王族に直言してしまうほどの問題発言。
「で、『ああああ』、そのヒロインとやらに会いにいかね?」
「はい?!」
いや、俺めっちゃムカついてたんだよな。とお茶の入ったカップを優雅に回した彼はその香りを楽しむが早いが音を立ててそれを置きました。確かにムカついていなければそんなことはしませんが。
「ルシア! お前はオンナとしてどう思うよ!」
「ひぇ!」
ルシアもブラックも元々奴隷ですので直言はできませんが今回は言えと言われています。ルシアには迷惑でしょう。
「俺、初対面の婚約者に『王族の責務を果たさず、皇后教育を受けている婚約者をほっぽって愛に狂ってNAISEIしかできないアホを嫁に貰うって言われたんだぞ!」
「そこまでいってないです! あと『人糞や犬の糞を発酵せずに作物にぶっかけたら国単位で大豊作』とか数々の大規模魔法が使えるらしいですよ。ヒロインさんって」
「えーと……自分は庶民というか、奴隷ですのであまり……」
「正直に頼む!」
ルシアは頬を赤らめると『獣人は実力主義ですので、強いものが多くのメスを得ます』と参考にならないことを抜かしており。
「人間貴族との違いはαが最大の権力を得ているわけではなくその行動に皆が追従するだけだということです。またΩはどのような能力を持とうが虐げられます。αやΩが排除された場合適当にその地位が決まりますし多くの群れではこの順位は永続的ではなく常に変動し場合によっては上下関係が循環することすらあります。基本繁殖はαカップルのみが可能でそれ以外は子供たちを守ることになります。文字通り我々の群れは『家族』なのですよ。あ、一応α以外でも子作りはしますが多くは生き残れませんので排除されます。
この原則の他、亜種によりますが複数の雄や雌と繁殖を行うものがいますが、これは親族で血筋が近いことが多いです。雌はそのまま群れに残り、人間社会に進出する者は多くは雄になります」
「うーむ」
「やくにたちませんね。それ」
人間が繁栄したのはやむなしです。
「俺、教会に感謝するわ。あいつらうっとおしいけど」
「いつも調子こいていますが、人類が大きな社会を維持できるのは神の存在やその教えという大ウソを前提に社会を構築できるからですからね殿下。前世でサピエ〇ス全史という本で読みました」
神はいますけど。魔法のエネルギーの元としてメイアが利用します。
でも教義は『こんな人間は神様の力を得られません』という経験則を基に人間が作ったものです。
神は死んだ。われ思う故に我あり。(※本来の用法ではありません)
「幸運神や知識神の教えは少し共感する」
「王子が主教を学ばなくてどうするのですか……まぁあれは『人間の幸せの本質』や『知ることの喜びと苦痛』を徹底して追及している学派ですから仕方ないですが」
基本あそこは神の奇跡も使えないクサレ坊主しかいませんが、なかにはまともな奴もいます。
彼らは喜びも悲しみも憎しみすら同じものだとして、それに振り回される事が不幸だと説きます。
ただ、色々考え、悩み苦しみ喜び、そして歩む。人生はよせては返す水盆の中の水と説きます。
「で、どこまで話したっけ」
「ボケましたか殿下」
「ヒロインに会いに行くぞ」
「何故に」
彼はちちちと指をふって言います。
「我々の仲が盤石としればちょっかいはかけないし、異端審問にその女がかかることもあるまい。余計なことを我が国でしないように監視もできてラッキーだ」
「あえません……ってそれで竜王様やノワールが役立つのですね」
ノワール、人間の姿でも私達を抱えて城壁ジャンプできますし隠密にはうってつけです。
ルシアもアンジェお母さまほどではありませんがなかなかの使い手に育ちつつあります。
止めても無駄そうなのでついていきます。ええ。
そしてやってきました下町に。私の言う特徴と合致する少女はあっさり見つかりました。
「えええええええええ!? 王子様と悪役令嬢がいる!」
なんか水桶ひっくり返す少女に我が婚約者は。
「無礼だぞ。我が婚約者に。打ち首にされたいか」
「ひゃうううううう?!」
協議の結果彼女も転生してきたらしく、異世界NAISEIをしてのし上がるつもりだったと白状しました。
「だって水も電気もないし、シャワーとお風呂に毎日はいれないしみんなフケだらけでシラミだらけのノミだらけで臭いしごはん美味しくないし調理時間が夜明け前から準備しないと駄目だしオンナの仕事が多すぎてマッハだしそうするでしょ普通!」
確かに貴族よりずっと苦労してそうです。特に風呂とか女性に対するマナーとか。
「10歳児を襲うか普通! しかも私が誘ったことになっている!」
「わかる! この世界の男どもマジおかしい!」
「すぐ殴り合うし」
「日本や監視カメラが山ほどあってポイント制の現代中国じゃないですから」
「臭いし汚いし順法意識がないし!」
「わかる!」
「だれが好き好んで転生するかああああああ! 日本に帰せwwwwwwwwww」
「超わかる!」
「コミケ! BL本! アニメ! CD! 寄越せぇええええ!」
私達の女の会話についていけない王子様を脇に、我々は意気投合していました。




