捌歳 奴隷(ガイコクジンジッシュウセイハケンショーガクキンヘンサイ)を買ってみたぜ!
私たち二人は王都のはずれに歩いていきます。
いくら何でも一〇歳に満たない子供ふたりがこのようなきたない区画に踏み込んだ場合無事では済まないのでしょうがそこはそれ、ちゃんと護衛が付いてきているはずです。
付いてきているよね……?!
「一応まいちゃったけど」
「時期王位継承者とその婚約者を逃すなんてクビじゃ済まないのでまぁ多分ついてきてくれています」
私達は気になる情報を掴みました。
なんと王家が禁止している奴隷売買をやっている不届き者どもがいるというのです。
「農奴ならわかるが」
「それも本来禁止ですよね」
王家や心ある貴族の努力とげんじつはちがうのです。
「しかし王家貴族とは民なくしてあり得ない。その実態をつかむのはひつようだ」
「はい殿下」
重要調査! 未整備地区の奥地にて奴隷売買の実態を知る!
ババーンと大きな赤い文字で木板に記したものを彼が持ってきた時点でややこしい予感がビシビシしていたのですが彼曰く区画整理から漏れた地域にてそういった売買が行われていると。
「小遣いも持っていく」
「どうするのですか」
「気に入った奴を平和的に買い取る」
「それ、敵対貴族にとって格好の攻撃材料ですよ。王家や公爵家が奴隷を買ったなんて」
それを聞いて幼い我がこんやくしゃはフンと鼻を鳴らしました。
「それはそれだ。王家や貴族が奴隷などかうわけがない奴隷を売買しているという事実を認めたということでぶっ潰せる」
「リスクの割にはリターンが小さいですよ。それって我々が捕まったら貴族を名乗れませんよね」
「なにより!」
ビシィ! と音がする勢いで彼はつぶやきます。
「なんか人間以外にもふもふする珍しい生き物とか獣人族とかがいるらしい!」
「それですか! 言っておきますけど獣人族の妾とかゆるしませんからね!」
一応種が違うので子供はできないらしいのですが愛情を育んだり物理的に致したりはできなくはありません。彼らは成長が早く老化が遅く忠誠を誓った相手に忠実なためなかなか需要があるのです。
私達子供が奴隷を買うというので奴隷商人は不審な顔をしましたが唸る金貨で黙らせました。
「ど、どこかの貴族のぼっちゃん嬢ちゃんですか」
「おまえ、自分のとりひきさきの子弟も覚えていないのか」
それを聞いて彼の表情が目まぐるしくかわります。
「えっと、タッケーナクァ家ですか。それともへインン家ですか」
「言わねばならんとは実に嘆かわしい。当然」
「わかりました! カムラ家!」
「違う!」
「その家は聞いたこともないですが」
「新興商人だ。お前も勉強しろ。貴族が奴隷を買ったらとんでもないことになる。平民ならまだお互いの合意があったというはんけつがあるらしいが」
聞き出せる家をすべて聞き出す我が婚約者怖いです。
そして彼が名のったその家はめっちゃ王家と同じ名前なので本当に彼らは勉強すべきです。
「これが我らの誇る商品です」
うん。長身かつ筋肉質ではありますがボンキュボン。男性もしなやかながらよく締った機敏そうな体つき。流石獣人ですね。
「こちらの子供は」
「ああ。そいつらは仕方なく手元に置いているのです。あたしらは本来子供は扱わないので。国外の奴らはしりませんよ。獣人の子供は変態にそこそこ需要がありますがそんな悪趣味を私らが認めるはずもなく」
曰く、子供を扱うのは奴隷商人としても下だという。
悪党にも心アリですか。少し減刑してやらねばなりません。
「まぁ非合法だしね」
「いやですねえ。子供は法律も知らずに適当に善悪を決めちまう。本人たちの希望でやっている事ですよ」
曰く、マジックアイテムである奴隷の首輪は本人や本人の家族の同意がなくば発動しないそうです。
「(最低すぎないか)」
「(前世でもそんな制度ありました)」
オヤコジュウタクローンとショウガクキンという呪いはサンゼンマンエンもの強力な呪いを持って親子二代に渡って時間と若さとお金を奪い取る凄まじい呪いです。
「奨学制度は我が国にあるが返済制度などない」
「誰もが学校に行く場合学校に行っていて当然になるのです。それがたとえ単純労働者でも」
「めっちゃ無駄」
「いえ、勉強は大事ですよ。単純労働すら取り合いなじだいもあったのです」
あ。婚約者は私に前世や前々世の記憶があることに不審を全く抱いていません。この国にはそういう聖人はいないわけではないのです。多くはインチキですけど。なお、ヒロインさんと恋仲になることについては彼曰く「平民と? 愛人でもありえない」とのこと。デスヨネー。
「で、そんな優秀な人材に単純労働させていたのかその世界」
「人余っていますから……余っていないけどいい仕事は取り合いなのは変わりません」
ボソボソと相談しながら私たちはその子たちの前に立ちます。
毛並みのいい大きな黒い犬。本来はその長毛は艶やかなのでしょうが今は酷いありさまです。
その子供は本当は見目麗しいのでしょうが今は『うー!』と私を威嚇しています。
「お前こいつに恨み買ったのか」
「しょたいめんですが」
「かおがきにくわない!」
それは確かに悪人顔かもですが私の意思と無関係です。
というか公爵家令嬢にその態度気に入りました。
私達は彼らを引き取り、奴隷商人の組織を潰すにあたって最低限の仁義を通していたことから商人たちの助命を行いました。
私達はもふもふした背中に乗れる可愛いいきものと忠実な猫耳の女の子を手に入れました。
今ではお茶会にてアンジェお母さまの代わりとして重宝しています。