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編入初日 その三

 大鉄とぶつかる直前、彼は確かに笑顔だった。

 普通では到底受けきれるはずの無い、速度でぶつかりにくる俺を見て笑っていた。

 それを見て、俺は自分の負けをイメージしてしまった。

 負けをイメージした次の瞬間、何かが破裂し、俺は吹き飛ばされた。

 こうして落ち着いてさっきの勝負を思い出すと、俺は負けて当然だったんだと理解できる。

 向こうは勝ちをイメージし、俺は負けをイメージした。

 これが、イメージするってことか。

 決して折れないために魔法を磨き、心を鍛えているんだ。


「大声で笑っていたが、頭でも打ったか?」


「負けて当然だったんだなって思ったら笑いが止まらなかった」


 様子を見に来てくれた大鉄の手を掴み、俺は立ち上がった。

 ごつごつと硬い手の平、ここまでなるのにどれだけの鍛錬を積んだのだろうか?

 自分は負けないと自身が付くまで、どれほどの時間がかかったのだろか?


「お前も強かったぞ。魔法初心者とは思えないほどだ」


「ところで、なんで名字が嫌いなんだ?」


「小さい岩って名前からして弱いじゃないか。それよりも大きい鉄と呼ばれたほうが強そうだろ?」


「あはは! 大鉄は見た目通り脳筋だな」


「そう褒めるな。俺は最強の魔法使いだからな」


 こういう所がこいつの強さなんだな。

 自分が最強だと信じて疑わないこと、それが魔法使いにとって最も大事なことなんだ。



「さて、それでは大牧さん。折角なので、あなたの魔法も見せてあげてください」


 大鉄と共に工場に戻ると、草部先生が抗議の続きだと大牧にそう言った。


「先生がそういうならいいですよ。僕は、大鉄と違ってあんまり見せびらかしたくないんですけど」


 そう言いながら大牧は、大鉄によじ登る。

 そのことが気になるが、集中し始めた大牧の邪魔はできないので、疑問のまま胸に留めて置く。


「【人形:創造二】《パペット・クリエイト・ドー》」


 俺の前に二体の人形が現れる。

 一体はメイドの様なエプロンドレスを着た女性型、もう一体は執事風の燕尾服を着た男性型。

 見た目は完璧な人間の様で関節部のおかげで人ではないと認識できる。


 これは確かマクロって言ってたっけ?

 複雑な造形を言葉と紐づけし、その言葉を発することで自分の中でイメージを作り上げるだったはずだ。

 主に創造系の魔法を使う人が使用するらしく、猿弥も昨日使っていた。


「これが、創造の魔法。どこからどう見ても本物の人形だな」


「それが私の売りだからね。もういいでしょ?」


「大牧さん、その人形をお借りしても良いですか? このまま操作の魔法も見せたいので」


「いいですよ。その子達には何の命令もしてないので」


 そう言えば、千歳さんは操作の魔法の使い手だったっけ。

 猿弥の銃弾を止めてくれてた。


「じゃあ、小石ちゃんの人形借りるね」


 ふと何かが変わったのがわかった。

 そして二体の人形は顔を上げ、それぞれお辞儀をする。

 メイドはスカート軽く持ち上げ、執事は頭を深く下げる。

 元々精巧な人形たちが、操られることでより人間らしく見える。


「これが操作かな。小石ちゃんの人形は精巧にできてるから、動かすのが凄く楽しいよ」


「創造とか操作って書換と違って色々できそうだよな。ドラゴンとか作れそうだし、人間も操れそうで魔法っぽい」


 それに引き換え、書換の魔法は偶然なのか脳筋なイメージになってしまっている。


「操作の魔法で生物を操るのはちょっと難しいかな。軽い誘導くらいならできるけど、手足を自由自在にってなると難しいんだよ」


「創造の魔法も同じかな。ドラゴンの張りぼてなら簡単だけど、生物を生み出すのは難しい」


「ドラゴンとかなら有名だしイメージもしやすいんじゃないのか?」


 デカいトカゲにデカい翼があって、火を吐き出すってイメージだし、人形がここまで精巧に作れるなら簡単な気がするんだけどな。


「編入生はドラゴンを見たことある? 鱗の形、大きさ、翼の可動域、火の吐き出し方なんてのも全部しっかりとイメージできる?」


「できないかな」


「そんなのがわからないと、創造の魔法を使っても空っぽの置物ができるだけなの、それに引き換え人形は簡単、人型だから自分の体の関節を流用できるし、生きていないから食事も呼吸も不要」


 だから大牧も猿弥も無機物なのか。

 構造を理解すればそれだけで済むってことか。


「じゃあ、生物は作れないのか?」


「作れる人はいるよ。凄い人はドラゴンも作り出せる。全部本当に想像だけで創造の魔法を使いこなす鬼才もいるんだよ」


 見たことない物の具現化って、そんな奴が本当にいるんだな。


「千歳さんの操作もそんな感じで、人間を操れないの?」


「そうだね。反射神経ってあるよね。熱い物に触ったら耳たぶを触っちゃうみたいな。そういう人間が抗えない人体の構造全てを理解してイメージしないとだめかな。操作の魔法も凄い人は人間以外も操れるらしいよ」


 操る人間が反抗できない方法で操るってことか。

 言われてみれば、寝ている時ならいざ知らず、自分の体が勝手に動き出したら普通は対抗するよな。


「そうなると、書換の方が簡単な気がしてきた」


 大牧と千歳さんの講義を受けながら、自分が選んだ書換の魔法が脳筋の魔法でよかったと思えてきた。

 そこまで頭を使うような魔法は結構しんどい。


「書換に関しても同じだぞ?」


 自分の番とばかりに大鉄も講義に参加し始める。


「唯久はこの石を金に書き換えることができるか?」


 言われるがまま、俺は書換の魔法を使う。

 石の形はそのままで金をイメージする。

 石は徐々に光を跳ね返し金色に変わっていく。


「これでいいのか?」


「全然だめだな。これだとただの金色の石だ。それも表面だけの」


 大鉄が軽々と石を砕くと、確かにただ金色に塗られた石ころだった。


「書換が上手くいかない理由は簡単だ。お前が金を知らないから。書換は他の魔法と違い、書き換える前の物質がある。それもきっちりとイメージできないと書換の魔法も上手くいかないんだよ」


「結論として、魔法は何でもできる可能性はあります。見たこともない物を作り出すことも、世界を操ることも、河原の石で巨万の富を生み出すことも。この真宵学園はどうすれば自分の理想にたどり着くかを教える場所です。夜市唯久さん、あなたはここで何を目指しますか?」


 今までの話を草部先生はまとめ、俺に質問する。

 俺の目指す所か……。

 この鏡の世界に偶然迷い込み、勢い任せでここまで来た。

 そんな俺の夢は何か。


「わからないです。まだ決められません」


「そうですか。それなら当面の目標は、自分の夢を探すことになりますね」


「そうなりますね」


 紫の空を見上げ、俺は思う。

 初めて魔法に触れ、難しさを知った今、俺は本当に鏡の世界に入れた気がした。

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