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編入初日 その一

 俺がD組からA組に編入することになった最初の日、俺はいつもより少し早めに家を出た。

 理由は単純で、千歳さんとの待ち合わせ。

 待ちきれず急いできてしまったため、千歳さんはまだ来ていない。


「唯久くん早いね、もしかして私遅れちゃった?」


「俺が早く着いただけで、時間にはピッタリ」


「それじゃあ行こうか」


 待ち合わせをしていれば至極真っ当なやり取りだが、俺は心の中でガッツポーズをした。

 こんな可愛い人と毎日登校できるなんて、去年までの俺には想像もしていない。

 ほとんどエスカレーター式で進学をするため、基本的に顔見知りしかいないあのクラスでは、こんなことはまずありえない。

 同じ学年の女子も男子も仲が良かったため、いじめやらはない平和な学年だったが、仲が良すぎて男女の仲にはなりにくい環境だった。

 気になる女子が居ても、友達ってだけでいいよね。と関係性を変えることのできない俺みたいな根性無しでは、高校生活に華は添えられない。

 何が言いたいかと言えば、俺も彼女が欲しい!

 大丈夫千歳さんとの仲は良好だし、今年の校外学習までには付き合って見せる。


「唯久くん、大丈夫? さっきから顔がコロコロと面白いことになってたけど」


「え、うん、大丈夫です」


 現実に戻ると目の前に千歳さんが居た。

 大きな空色の目が俺の顔を見つめていた。


「聞いていいか、わからないけど、千歳さんの目って綺麗な空色だよね。もしかしてハーフ?」


「ああ、違うよ。生まれも育ちも日本生まれの日本育ち。ひいひいおばあちゃん、だったかそのおばあちゃんだったかが、外国の人なんだって。それから昔のおばあちゃんの血を引いてる女の人はみんな同じ目をしてるよ」


「そんなことってあるんだ」


 隔世遺伝でってのは聞いたことあるけど、女の人が全員ってのは初めて聞いた気がするな。

 もしかして魔法使いだからとかあるのか?


「魔法使いとしてはこの目は結構嬉しいんだ」


「目の色で魔法の強さが変わるとかあるの?」


「変わらないよ。魔法はイメージが全てだから。嬉しいのは、同じ空色の目をした偉大な魔法使いがいるの。昨日唯久くんが迷い込んだ鏡の世界を作った人だよ」


「えっ? あの世界って作られたの? てっきり最初から存在してるんだと思ってた」


 魔法すげえ、あんな世界も作れるのか……。

 イメージで魔法の強さが変わるって話だし、あれを想像できた人がいたってことだよな。

 呆れるを通り越して凄いとしか言いようがない。


「そうだったね、唯久くんは魔法については何も知らなかったんだっけ。今教えても中途半端だし、たぶん先生が教えてくれるよ」


「そうしてもらわないと俺には何もわからないな」


 千歳さんに必ず必要になる単語をいくつか教えてもらいながら、俺達は一年A組の教室に向かう。



「それでは、夜市さんへの自己紹介も済みましたので、授業に移ります。皆さんには聞きなれた話ですが、復習と思って聞いてください。まず、魔法についてですが――」


 草部先生の説明はわかりやすかった。

 魔法は俺が想像していた様な呪文やMPなんて概念はなく、想像を具現化することを魔法と呼ぶらしい。

 そして具現化するための条件は信じること。

 人は無意識に常識という箱に囚われているらしく、魔法使いはその箱を壊せた人なのだという。


 例えば手の平に炎を出そうとするとき、実際にその炎が手の平にあることをイメージしたとして、一般的には手の平から炎が出るはずない。

 そう思ってしまった段階で、魔法は失敗するらしい。

 そしてもう一つ教えられたのが、昨日俺が迷い込んだ鏡の世界だ。

 千年以上前に一人の偉大な魔法使いが、あの世界を作ったのだという。

 すでに他界していると噂されている偉大な魔法使いの名前は不明。

 伝えられているのは、千歳さんと同じ空色の瞳で、何者にも囚われない生き様から世界の代行者と呼ばれていたことだけらしい。


 それで、鏡の世界は、その人が派手な魔法を考えるために作りだした世界らしい。

 生物は生まれず、現実の世界をコピーしているらしく、鏡の世界の無機物は破壊しても現実の世界と同じになる様に時間経過で修復する。

 そんな鏡の世界と現実の世界を結ぶ場所は各国に一か所ずつ存在しているが、いまだに見つかっていない国もある。

 なんでこの真宵学園にその扉があるのかと言えば、そこの扉がある場所に真宵学園の芸術クラスを建てたかららしい。


「――扉の開け方についてですが、鍵を作ります。ここにはすでに扉は存在しているので、鍵で扉が開くイメージをしてください」


 目を瞑り俺は言われるがまま鍵をイメージする。

 昔の鍵ってごつごつしているイメージだな。

 俺は映画で盗賊が持っている様な鍵をしっかりとイメージする。

 やがて手の平にずっしりとした重みが生まれる。

 目を開けると巨大な細長い鍵が手の平にあり、他のクラスメイトはすでに向こう側に行ってしまったらしい。


「夜市さん、大きすぎます。しばらくは私と一緒に鏡の世界に入りましょう」


「はい」


 天井に届きそうな馬鹿でかい鍵を消し、草部先生の作った鍵で俺は鏡の世界に入った。


「今日はちゃんと教室だ」


「今回は私のイメージで扉を開けました。扉の先は開けた人のイメージで決まります。一人で入る場合もしばらくの間は教室をイメージするようにしてください。イメージが滅茶苦茶だと扉は潜れませんので注意してください」


「わかりました」


 行先もイメージでってことになると、昨日のは銃の男もとい、猪川のイメージなのか? 一番近くに居たのは猪川だったし。


「それでは、町の説明はいらないでしょうから魔法の講義に移りましょうか」


「先生! わ、私も聞いていいですか?」


 自分の席に着こうとすると、千歳さんが疲れた様子で教室に飛び込んできた。


「胡ノ宮さん、あなたは別に聞く必要はないでしょう?」


「ふぅ、実際にやって見せるのも必要ですよね?」


「わかりました。あなたも早く席に座りなさい」


 額の汗を拭いながら千歳さんは俺の隣に座る。


「ありがとう。一人で座学は正直辛いなって思ってたんだ」


「急いで来たかいがあったよ」


 やっぱり俺を一人にしないために急いで来てくれたらしい。


「教室に扉を開けば、走る必要なかったんじゃないの?」


 俺がそう聞くと千歳さんはわかりやすく目を反らす。

 これはあんまり突っ込んじゃいけない所らしい。

 来てくれたのは素直に嬉しいし、あんまり突っ込まないようにしよう。


「夜市さん、これがイメージを失敗した場合です。胡ノ宮さんは、おそらく教室をイメージしようとして学校をイメージしてしまったのでしょう。その結果、学校のどこかに出てしまった」


「なるほど。そうなると、広い場所をイメージすればその広い場所のどこかに扉が開いて、より鮮明に一つの場所をイメージすればその場所に扉が開くってことですか?」


「その通りです。例として私は普段立っているこの教壇をイメージしました。胡ノ宮さんのおかげで失敗の場合を教えられました。ありがとうございます」


「そんなの嬉しくないです!」


 こんな成功例と失敗例を聞きながらA組で最初の授業は進んで行った。

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