海水浴は勝負の時 その四
これは一体何のために作られたのか。
ここのビーチが使えているってことは先生達は危険はないって判断をしたんだよな。
それとも気づいてない?
そんなはずはないよな。
俺達が見つけられる物を先生達が見つけられないはずはない。
「唯久くん、寒くない?」
「そう言われればそうだな」
いくら温かいと言ってもそれは海中に比べればという話で、砂浜の方が温かい。
その上体は濡れてるし、体温はどんどん奪われている。
「松明でも作るか」
「木に布が巻いてある奴だよね?」
千歳はすぐに松明を創造したけど、俺は外の砂を掴んでから書換で松明を作る。
「唯久くんって創造苦手だっけ?」
「得意じゃないかな。書換の方が使い慣れてるから」
水や炎みたいな触れられない物なら創造で作れるけど、感触がある物を作るときはやっぱり何かに触れている方が作りやすい。
二つの松明に想像で生み出した火を着ける。
松明だけに集中できるように熱だけで松明に着火した。
火が点くとそれだけで温かくなったような気がする。
「ここって何なんだろうね?」
「もう少し先に行けば何かわかるんじゃないか?」
「私はもう帰りたいな」
千歳の言いたいこともわかる。
中は暗闇というわけではなく、どこかに光源があるのか松明で照らす前から薄っすら明るかった。
そこが逆に不気味だ。
人がいる気配はないが、人がいた形跡はある。
その微妙な感じが、廃墟や廃屋のような不気味さを作っている。
「流石に危ないことはないだろう。危険なら先生達が何か対策してるって」
「そうだよね」
口ではそう言ってもやはり怖い物は怖いらしく、千歳が俺の横にピタリとくっつく。
女子独特の柔らかさに、心臓が高鳴る。
「唯久くんもやっぱり怖いんだ」
「なんで?」
「すっごいドキドキしてる」
どこか勝ち誇ったように言ってくるが、俺の心臓がドキドキしているのは怖いからではありません。
「怖がりの唯久くんのために手を握ってあげよう」
スルッと千歳の指が俺の指に絡め恋人つなぎをする。
小さく柔らかい手は濡れていたせいか冷たい。
手を繋ぎぴったりと体をくっつけるために、互いの腕が互いの体に密着する。
自分の体ではありえない肌理の細かさと柔らかさ。
制服の時には感じることのない肌の感触に、嬉しさと恥ずかしさがこみあげてくる。
「とりあえず、先に行ってみよう」
「はーい」
今回は嬉しさよりも恥ずかしさが勝ち、少しでも密着度を下げるために少しだけ千歳との距離を取って歩く。
それを知ってか知らずか、千歳はより距離を詰めてくる。
欲望に負けたらダメ、負けたらダメ。
「あっちの方何か明るくない?」
俺が煩悩と戦っていると、千歳が道の先を指さす。
そこは確かに明かりが灯っている。
オレンジの松明に似た明かりが曲がり角の向こうから零れている。
「大鉄達か?」
「二人とも別の方に入ったでしょ?」
「この建物はたぶん魔法で作られてるし、変なところで繋がっててもおかしくないだろ?」
少なくとも元の世界でこんなのが作られているって話題もないし、十中八九鏡の世界にしかない建物だ。
そうなるとどんな構造をしているのかは全くの未知数だ。
「でも動いてないよ?」
「行ってみればわかるか」
曲がり角を曲がると、そこには壁一面に広がる巨大なガラスがあった。
そのガラスの向こうには大火と呼べるほどに燃え盛る炎が見える。
いっそ幻想的とも言えるほどのオレンジ色の炎。
俺の足は自然と炎の元に歩いていた。
近づけば近づくほど綺麗に燃え続ける炎に触れたいと手を伸ばす。
その欲求は一枚のガラスに遮られる。
「温かい」
炎はガラスに触れ形を変えているのに、ガラスはそこまで熱くない。
このガラスは断熱材なのか、適度な熱をこちら側に送ってくれているらしい。
「本当だ温かいね」
千歳はその温かさを肌で感じようと、ガラスにぴったりとくっついている。
緩んだ顔の千歳もいいが、向こう側から今の千歳を見たい。
体の前面をガラスにピタリと着けているおかげで、胸元が柔らかさを見せつけるように押しつぶされている。
煩悩に支配されたせいか、今まで感じていた厳かな雰囲気は一気に無くなった。
俺は視線を逸らすためにも背中をガラスに預ける。
ぽかぽかと温かい熱が冷えていた体をゆっくりと温める。
「少し温まったら探索を再開しよう」
「さんせーい」
そのまま炎の温かさを堪能し、気がつくと俺の松明は砂に戻っていた。
「結局ここってなんなの? 明らかにこの炎って変だよね?」
「さっぱりわからない」
火力発電ってわけでもなさそうだしな。
焼却炉って可能性はないこともないけど、わざわざ海底に作る必要性はない。
ここからわずかに見える向こう側にも部屋はあるみたいだし、とりあえず向かってみるか。
まずは向こう側に行ってみようとガラス沿いを進む。
少し歩くと、ドアにたどり着く。
「開けてもいいのかな?」
「開けたら海水ってこともあるから魔法を使う準備をしよう」
魔法を使える万全の状態でドアを開ける。
しかしドアの向こうも、景色はあまり変わらない。
相変わらずの殺風景で、変わった点をあげるなら、ガラス越しに見える風景の角度が変わったくらいだ。
「何にも変わらないね」
「そうみたいだな」
さてどうするか。
代わり映えのしない部屋が続いているし、このルービックキューブ内の内装は同じなんだろう。
炎に面する部分がガラス張りで他にあるのは通路だけか。
「もう少し探検してもいいか?」
「いいよ。一人は怖いだろうから一緒にいてあげるね」
また恋人つなぎをされる。
別に嫌じゃないし、寧ろずっと繋いでいたいけど、正直我慢ができるかわからない。
すっかり温まったおかげで触れ合う肌は温かく、密着している部分がじんわりと汗ばむ。
寒さからくる密着とは違い、恋人としての距離感が俺の心を乱していく。
「その前にあの影に行こう。ちょっと熱に当てられたみたいだ」
「大丈夫? 水でも出そうか?」
「うん、頼もうかな」
さっきの部屋では入口に繋がっていた角だが、この部屋では違うらしい。
一本道ではなく二手に分かれていて、両方に階段が設置されている。
ここから上の階に上がればいいのか。
でも、その前に休憩したい。
本当に頭が熱でボーっとする。
千歳が創造してくれたペットボトルの水を半分くらい飲み、残りを頭から被る。
「悪い、千歳も飲むんだったよな」
「いいよ、もう一本作ってあるから」
最初から二本作っていたらしい千歳は自分の分を飲みながら、俺の隣に座り込む。
ここまでは炎の熱も届かないらしく、ひんやりしていて涼しい。
「もう戻った方がよくないかな?」
「そうなんだけど、最上階まで行きたいなと思ってるんだ。この炎を上から見てみたい」
「それは私も見てみたいな」
「じゃあ、体も冷えてきたしそろそろ行くか」
休憩も終わり、俺達は階段を上り始める。




