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イブニング・エメラルド外伝 側妃リュドミラの告白

作者: 杉田 雅俊

国力の差を考えれば、正室など望むべくもない。側妃であることに不満などないし、夫との関係も良好、婚姻同盟によって得られた後ろ楯によって祖国の危機もさった。


だからこそ、夫に隠し事を続けるのはつらかった。ある日とうとう告白した。


「私は石女(うまづめ)なんです。」











『~イブニング・エメラルド外伝 側妃リュドミラの告白~』


父が他の姉妹ではなく私を皇太子へ嫁がせると聞いたときは驚きもしたし、恐ろしくも思った。子供が生まれなければ子供を足掛かりに干渉されることもないだろうが、こちらの企みに気づかれればどうなることやら。


とはいえ私の意思ではどうすることもできない。


言われるままに嫁いで3年たった、当然子供はできない。まわりからはそれとなくせっつかれるが、殿下は「こればかりは授かりものだから」と責めるようなことは一切おっしゃらない。


父は「正室産んだ息子がいるからそんなのんびりしたことが言えるのだろう。」とのたまうが、私はそんな風には思えなかった。


「貴女が産むのはどんな子供だろう、貴女のようなブラウンの髪だろうか?」などと楽しげ笑う夫を見ていると罪悪感がつのっていく。


そもそもこれ以上誤魔化し続けるのは無理だろう。在る意味、身投げのような気持ちで全てを包み隠さず伝えた。


赤みを帯びた金髪に新緑色の瞳、屈強な兵士と並んでも頭ひとつ抜けた大柄な我が夫、フェリックスは表情を変えずに私の告白を聞いていた。


翠玉のような眼がこちらを覗き込むようにしている。


「貴女はもとからそういう身体なのかい?それとも私に嫁ぐためそういう身体にされたのかい?」


何を問われたのかわからなかった。わかった瞬間慌てて否定した。


「元々です!!そんな!!生めない身体にするなんて、そんな恐ろしいことは!!」


「いやぁ、驚かせて申し訳ない。どうしても最悪を想定してしまう性分でね。それなら良い。安心したよ、もしそうでなければ私は貴女の父君を殺してしまうところだった。」


私があっけにとられているのを続きを促してると受け取ったのか、さらに言葉が紡がれた。


「もし貴女が実家を恨むなら、復讐を望むなら力を貸そう。そうだな、こちらで用意した子どもを『貴女が産んだ子供』として父君に紹介するのはどうだろう。」


朗らかで、本当に安心したと伝わる顔と声が恐ろしかった。


「妻の一人として、貴方のお側に3年間居ましたが理解できません。なぜそんな普段通りの口調で恐ろしいことをおっしゃるのですか。」


「何故かと問われれば、貴女の言う恐ろしいことが、私にとっては日常だからだろう。」


「私や父に騙されたとはお考えにならないのですか?」


「もはや単独での戦局逆転は絶望的。我が帝国から援軍を得る為には婚姻が不可欠。しかし、そうなればいずれ生まれる子供を使って乗っ取られるのも時間の問題だ。」


そう、それを父は恐れたから私を輿入れさせた。


「普通なら絶望するであろう状況で、貴方の父君は諦めなかった。とった手段は親としては誉められたものではない、君主としてもはたして良手と言えるかどうか・・・私や父上を激怒させて、普通に乗っ取られた方がまだマシという惨事もありえた。しかし、醜くも抗う姿を私は愛しくも思うのだ。」


「なぜそんな風に思えるのですか。」


「それが貴女の夫の器量だからだよ。」


◇ ◇ ◇ ◇


いま思えば私は本当に子供だったのだろう。冷たく拒絶されるか温かく受け入れられるかの二通りの展開しか予測していなかった。自分の言動が切欠となって様々な思惑が絡み合い、飛び火していくことがあると、その時初めて知ったのだから。


それが今では陛下の右腕とは、人は変われば変わるもの。


「陛下、お時間ですよ。お急ぎください。」


「・・・疲れた、楽隠居したい。」


「あと少しですから。私も精一杯支えになります。」


「私は良い妻を持った。」


「ええ、私も良い夫を持ちました。」

読んでいただけて幸いです。なるべく早く本編を投稿できるようしたいと思います。


本編ではリュドミラとは別のヒロインが主人公の予定です。

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