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運命の入学式

 扉を押して入学式の会場に入る。

 『歌学』の入学式は立食パーティー式。あちらこちらのテーブルにキラキラとしたサンドイッチやケーキ。日本のただただ座って面倒な挨拶を聞いている入学式とは違う。


 私はメグについて行く形でそれぞれのテーブルを回っていく。


 メグもやはり貴族。あちらこちらに顔見知りがいるのか、和やかに会話をしている。

 なのに私はというと、メグの後ろにただついて行くだけ。けれどよく考えれば当たり前だ。私はここに転生したしたばかりで、顔見知りなんか一人もいない。


 そういえば、『歌学』のヒロインクリスティーヌもこうやってメグの後に続いて挨拶していたっけ。それでこうやって挨拶しているうちに、新入生代表独唱のアナウンスが入って『歌学』本編のオープニングに繋がるんだよなー。


「新入生代表による独唱に入ります。新入生代表は壇上までお願いいたします」


 浅くため息。ほら、やっぱり。こうなってしまった。


「ほらっ、早く早く」


 メグに背中を強く押され、私は重い足取りで壇上へと上がる。

 壇上に上がった瞬間、一斉に生徒達の視線がこちらに集まる。


 こうやって壇上に上がるのは始めてだ。観客でいた時は高低差なんて全く気にならなかったのに、こうやって上にいると想像以上に高くて足元がふわふわする。


 ピアノのしっとりとした前奏が始まる。


 どうしよう……。


 前奏が始まった瞬間、急に焦りが襲いかかってくる。


 私、今から人前で歌を歌うんだよね。そんな度胸、ない。しかもそんなに歌上手くないし。どうしよう、どうしよう……。


 そんな私の焦りなんか知る由もなく、曲は進んでいく。生徒達は静かに壇上を見ている。視線はもちろん、私に一直線だ。


 もうすぐ前奏が終わってしまう。歌わなくちゃいけない。


 この世界に転生したと気付いてまだ一時間も経っていないのに……。そりゃあクリスティーヌになれたのは嬉しいし、これから大好きなファントムを含め攻略対象に会えるのも嬉しいけれど。でもまだ状況もよく分かっていないのに歌わされるのは嫌だ。

 けれどここで歌わなきゃ大好きなファントムには会えないわけだし。


 ――やるしかない――


 クリスティーヌは歌が上手いし、ここは本来持っているヒロインの能力に頼る! 私はただただ大声を出すだけだ。


 深く息を吸って大きく口を開ける。

 ピアノの音が一瞬止まって、私は声を張り上げて歌い始めた。




 曲が終わってとりあえず一礼する。


 ……ナニカがおかしい。


 観客の拍手は何故かまばらだ。


 『歌学』ではクリスティーヌが歌い終わった後、天を覆うほどの大きな拍手と歓声。そして熱狂的な視線が集まる、はず。

 それなのに今は誰も注目していない。誰かと楽しそうにおしゃべりしていて、かろうじてメグの大きな拍手につられて薄っぺらく拍手している。


 ――何で。私の声はクリスティーヌそのもののはずなのに――


 沸々とした気分をグッと堪えながら、急ぎ足でメグの元へと向かう。


「メグ。私の歌、変だった?」

「変というか、その」


 メグが渋い顔をする。目をグッと細めていてもさすがは攻略対象、可愛い。


「あの、変じゃなかったんだけど。上手くもなかったというか。普通」

「フツウ」

「うん。でも調子悪い時もあるしね。気にすることないわ」


 クリスティーヌが小さな手で肩をポンポンと叩く。


 本当だったら壇上から降りた時点であちこちの人に取り囲まれ、そこでファントムにも会えるはずだったのに。

 歌っちゃいけなかった? けれどあそこで歌わないという選択肢はあり得なかった。


 右手をギュッと握りしめ、入学式が終わるまで立ち尽くしていた。


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