危機
エリックは攻略対象達、特にファントムを睨みつけている。
顔の傷も相まって怒ると怖いなぁ……なんて冷静に思いながら黙って様子を見る。
「ファントム。お前は私のことなど覚えていないだろうな」
「……」
エリックの問いかけにファントムは無言だ。それを見越していたかのようにファントムは言葉を続ける。
「別に覚えていようが、覚えていまいが関係ない。私にあるのはただ一つ。ファントム、お前への恨みただ一つだ」
その言葉に攻略対象達は一気に体を強張らせた。特にミフロイドにいたっては懐にあるサーベルまで取り出している。
「恨みってなんなんだ。どうしてクリスティーヌを」とラウル。
「私は今のクリスティーヌと同じことをされた。何を言っても信じてはもらえなかった」
「そんなことしていない!」
「……」
ファントムが声を振り絞る。だが、エリックは無言でファントムを睨むだけだ。
ファントム推しの私としては複雑な気分ではあるが、さすがの私でもこればかりは経験者なのでファントムを庇えない。
エリックは軽く息を吐いてからまた話し始める。
「だからクリスティーヌを利用した」
「理由になってないですよ」
「……ファントムと関わるだろう人物を利用した。それがクリスティーヌだった」
ずっと硬直状態にあったメグに問われるも、エリックはよく分からない答えを返す。
――というか、私を利用したとはどういうことだろう。
口を出さずエリックを見守り続ける。
「よく分からないけれど、クリスティーヌを利用したってことよね」
「だからそうだと言っているだろう」
その瞬間、ファントムが黒い髪をなびかせながら銃を取り出した。
「っ! 」
さすがにこの行動には全員驚いた。
どこに銃を隠し持っていたのか、なんてそんな理由じゃない。銃はミフロイドが持っているサーベルとは違う。引き金を引けば瞬く間にエリックに当たってしまう。
空が赤く染まっていく。本当なら夜へと変わっていくはずなのに。それにピンクの花も遠めから見ると赤い花びらみたいで。まるで血の色みたいな……。
私は無言でエリックの袖を握る。
どうして私を利用したのかは全く分からないが、とにかく撃たれるのを目のあたりにするなんてまっぴらごめんだ。
ファントムはミフロイドの隣に立つ。そして両手で銃を構えた。
「クリスティーヌをどうするつもりだ」
「ただ利用しただけだ。彼女に、クリスティーヌに、何かするつもりはない」
……?
ここで私は妙なことに気が付いてしまった。
今、何で言い直したんだろう。「彼女に」ではなく「クリスティーヌに」に。
こんな時なのにどうでもいいことに頭が働いてしまう。
そういえば、だけれど。エリックは私のことをあまり「クリスティーヌ」と呼んだことがないような。もちろん「クリスティーヌ」と呼ばれることもあったけれど、どちらかといえば「君」と呼ばれることが多かった。
エリックは冷たい視線をファントムへ向け続ける。
「むしろファントムの方だろう。彼女に何かしたのは」
「何を言っている」
「先程も言っただろう。彼女の言葉を信じなかった」
「それはお前がそそのかしたからで」
「彼女の言葉より、見覚えのない私の「そそのかした」という言葉を信じるのか」
そのエリックの言葉にファントムは一気に顔を真っ赤にする。
――このままだとヤバいんじゃ。
そう思った私の予感は見事的中してしまう。
「っ!」
危ない、という言葉すら出なかった。ファントムはあっけなく引き金に手をかけた。
――パァン
乾いた発砲音が鳴る。
私の目の前にいたエリックから赤い液体が飛び出した。そしてやけにゆっくりと後方に倒れてくる。自然と私の胸に寄りかかる形になり、私は尻もちをつきながらエリックを抱きかかえた。
「エリック……。ねぇ、エリック」
抱きかかえたまま恐る恐る顔を見る。エリックはグッタリとしていて呼びかけに答えない。
「起きて。ねぇ……」
そんな中、ファントムを含めた攻略対象達と妹はポカンとして動く気がない。
「何してるの! 早く医者を呼んできて!」
その言葉にラウルとメグが走り出す。
ショックが大きいのは分かる。けれど、今は打ちひしがれている場合じゃない。
私は自然と出てきた涙を拭って、着ている服を引き裂いてただの布にする。その布を血があふれ出している胸下へ巻き付けた。
お願いだから。目を覚まして。
次話の為にこの話はいつもより短め……。




