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聞く耳持たず

 風が空気を裂く音だけが聞こえてくる。しばらく誰も口を開こうとしなかった。


 そんな中、私はこれからどうなるのかなとやけに冷静に考えている。


 妹が嫌いと言ってしまったし、ファントムと結ばれるエンディングはもうないだろう。それは他の攻略対象においても同じで、誰とも結ばれることはない。まぁ嫌がらせをした程度で処罰されたり殺されたりすることはないだろう。『歌学』ではバッドエンドの場合孤独に生きていくだけだから、許容範囲だ。それに……。


 私は眉をひそめているメグを見ながら、孤独エンドにならないかもなぁと思い始める。


 メグとは友達と呼べない関係になってしまったけれど今の私にはリサとカナがいる。この先ずっと友達でいてくれたなら孤独、にはならないかもしれない。


「嫌い、なのか。妹が」


 しばらくするとファントムが震えた声で尋ねてくる。


「ええ、そうですよ」


 しれっとした声で答える。私がファントムから妹へ視線を向けると、バツが悪そうに目線を下へ落とした。


「どうして嫌いなんだ」

「……むしろどうして嫌いにならないのか、私には不思議ですね」

「……は?」


 攻略対象達に一斉に見つめられた。


 本当に私の言っていることが分からないのだろう。まぁ、私がそういう態度を一切見せなかったのだから仕方ないのだけれど。


「この妹は父と愛人との間に出来た子供ですよ。しかも一歳差。私の母が苦労している中、生まれた子供です。好きになれるはずがないでしょう?」

「それは……」とファントムは黙り込む。


 妹はまだ地面に視線を向けたままだ。けれどその眼には微かに涙が浮かんでいる。


 泣きたいのはこっちだ。攻略対象達に呼び出され責められ、ファントムの攻略は失敗。最悪だ。


「だからといって嫌がらせをする必要はないだろう」


 黙り込んでしまったファントムに代わってラウルが口を開く。


「……それもその通りなんですけどね。でも人ってそう単純ではないんですよ」


 クリスティーヌは嫌がらせをしなかったけれど。それはあくまでそういうキャラクターであったから。私はキャラクターじゃない。私は私なりに好きにすると決めた。自分を抑えつけない。


 ここでファントムが「違う」と口を開く。


「クリスティーヌはこんなことしない」

「はい?」

「誰かがクリスティーヌに入れ知恵をしたんだ」

「はい? ちょっと待ってください、ファントム」


 私の制止を聞く耳持たずでファントムは言葉を続ける。


「そうだ。クリスティーヌと同じクラスの男に違いない」


 何やら雲行きが危うくなってきた。どうもファントムは私が進んで妹へ嫌がらせをしていたと信じたくないらしい。しかも嫌がらせをしていたのは裏に男、エリックがいたからだと思っている。


「確かエリックという男でした」


 ここでミフロイドが余計な一言。それに続いてファトムが「昨日男と一緒にいただろう。その男のことか」と話し始める。


 なるほど。昨日いきなりエリックの様子がおかしくなったのはこれか。ファントムが校舎の陰から私達を見ていたから。


 私は拳をギュッと握る。


 確かに、エリックがいなければ嫌がらせをしなかったかもしれない。けれどエリックが全てじゃない。私は自分自身の意思で妹にいやがらせをしたんだ。


「待ってください!」


 叫ぶ。と、キャラクター達はピタリと動きを止めた。

 私は肩で息を吐きながらキャラクター達を見る。


「違いますよ。関係ありません。私は自分で決めて行動したんです。誰かに言われたからやったわけじゃない」

「いや、クリスティーヌはそんなことはしない」


 ファントムに一喝されて思わず眉をひそめる。


 駄目だ。全然聞く耳を持っちゃくれない。クリスティーヌを美化しすぎている。


 私はおでこに手を当てながら考える。そしてようやくエリックの態度が腑に落ちた。


 前にエリックはファントムのせいで母が死んだと言っていた。あの時、私は「酷いわね」と一応は答えたけれど、実際自分がされたわけではなかったから深くは考えていなかった。けれど実際にやられると、かなり頭にくるものがある。

 憧れのファントムが目の前にいるから、という理由でなんとかキレずにいるだけで。


 私の気持ちが段々と重くなるのに対し、空は綺麗な橙色。それが余計に心をささくれさせていく。


 この場から今すぐにでも逃げ出したい……。


 そんな衝動に耐えながら拳を強く握る。


「違います。私は本当に」と口を開いた時だった。ザァと風がピンクの花を揺らす中、後ろからもはや聞きなれた低い声が聞こえてくる。


「相変わらず人の話を聞かないな」


 ピンクの花の中で黒いフードが目立つ。思った通りエリックだ。

 エリックは私の隣に立つと手を私の頭にポンとのせる。私は軽く瞬きをして、隣のエリックを見上げる様に見つめた。


「何で来たんですか。しかも今、このタイミングで」

「このタイミングだから来たんだ」

「は?」


 エリックは私の頭から手をどかして、顔を覆っているフードに手をかけた。頬から口元へ裂けた傷跡が否応なしに目に入る。


 相変わらず痛々しい。


 妹や攻略対象達は突然来たエリックに対応できていないどころか、顔の傷を見て息を飲んでいるありさまだ。そんな中、誰より早く反応したのはミフロイドだ。ミフロイドは王子を庇うように前に立つ。


「あなた……。クリスティーヌと一緒のクラスのエリックでは」

「ああ。そうだが」


 エリックは即答。


 この状況で即答していいのか、と思いながら口を挟まずエリックを見守る。


「何でも私がクリスティーヌを入れ知恵したとか。そういうことを言っていたみたいだが」


 自分で言っちゃうんかい。と心の中で思わずツッコミをいれる。だがすぐにエリックらしいといえばらしいし、私もズバリ言われた方が楽だしなと思い直す。


 するとそこにラウルが入ってくる。


「少なくともファントムとミフロイドはそう思っているみたいだ。とはいえ僕もクリスティーヌと幼馴染だし。クリスティーヌが自ら嫌がらせをするなんて思えないんだ」

「そうだな。私がそそのかしたんだ」

「は?」


 見守ると決めたはずなのに、あまりの展開に声を上げてしまった。


「ちょっと」と小声でエリックをいさめる。


「何勝手なことを言ってるんですか。それにこの状況でそんなこと言ったら」

「いいから。この場は任せてくれ」

「……」


 そう言われると黙るしかない。


 夕焼けは橙から赤に変わっている。赤がエリックの傷跡に当たって少しの気味悪さを感じた。


まだだけれど、完結が見えてきました。

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