デートイベント3
商店街の通りを抜けていく。
優しく、けれどしっかりと手が繋がれていて、これ以上迷子になることはなさそうだ。安心する。そこにちょっぴりとしたドキドキが加わって、くすぐったさを感じる。
エリックは迷うことなく歩いていく。そのエリックに着いていくと「おばあのクレープ屋」という看板が見えた。
「ここだろう。例のクレープ屋は」
「うん」
「それじゃあ私はここで」とエリックは私から手を離す。が、その手を強引に掴む。
「こ、ここで置き去りにするんですか! 」
声を絞り出す。そんな私にエリックはけげんな顔を浮かべる。
「目的の場所には着いただろう」
「そうですけど……」
私はエリックの腕を強引に掴んだまま、離さない。少し顔を上げてエリックの瞳を見つめる。するとエリックは大きくため息を吐いた。そして私の腕を強引に払いのける。
やっぱり駄目だったか。
がっくりと肩を落とす。
「分かった」
「え?」
項垂れていた顔をバッと上げる。
「分かったと言ったんだ」
「一緒に来てくれるんですか」
「ああ。とはいえ後ろからついていくだけだが」
「はい、それで十分です」
私はペコリと頭を下げる。
不思議だ。私を応援している人がいる。それだけでほんの少し、ほんの少しでも一歩進む勇気が出る。
一歩ずつベンチに近づいていく。二人の女の子の姿が見えた。手に持っている三つのクレープは私がファントムを追いかけた時から全く減っていなかった。
ゴクリ、と唾をのむ。
文句を言われるのだろうか、いや、それどころか嫌われるかもしれない。それでもこのままではいけない。
「あの」
私は女の子の前に立つ。
立って始めて気づく。クレープ生地が白く濁っていることに。生クリームが溶けて、生地にべっとりとくっついてしまっていた。
女の子達はハッとしてこちらを見つめた。
「あの、ごめんなさい……。勝手にいなくなって」
思わずうつむく。二人の反応が恐かった。自分らしくもない……。
ビクビクと二人の反応を待つ。と、甘い匂いが鼻につく。
二人の女の子の内の一人が、私の目の前にクレープを差し出していた。思わず差し出されたクレープを手に取る。
「あの」
「さ、早く食べましょう。このままじゃドロドロになっちゃうよ」
そう言って女の子達は黙々とクレープを口へと運んでいく。
私はというと立ったまま、その場で固まっていた。そしてやっとの思いで口を開く。
「怒ってないの。勝手にいなくなったりして」
「まぁ、多少はね。でもクレープがまだドロドロになっていないから良しとするわ」
そう言った女の子にもう一人の女の子もうんうんと頷いている。私はホッと息を吐きだして、一口クレープをかじった。
甘い。美味しい。
クレープをもう一口頬張る。
ふと後ろを見てみるとエリックが強く頷いているのが見えた。
――頑張れってことなのか。
私はエリックに対して目をつむる。
頑張ってみるよ。少しずつ、だけれど。
「ありがとう」
目を開けて女の子達を見る。
やっと掴める気がするんだ。私が欲しかったもの。その内の一つが、やっと。
「あのさ」
「ん?」
頬をポリポリとひっかく。そしてスッと息を吸った。
「あの、名前、教えて」
「名前?」
「うん。あなたたちの名前。私、知らなかったから」
……というよりも今まで覚えようとしなかった、の方が正しい。ファントムを攻略しようとそればかりで。攻略キャラ以外のことは見ていなかった。
女の子達は「えー。覚えていないの。酷い~」と軽口を言い合う。
「仕方ないなぁ」
やがて女の子達はニヒルな笑みを浮かべる。
「私はリサ。で、こっちは」
「カナ」
二人が私の手に触れてくる。暖かい……。
私は二人の顔をここで始めて認識する。二人とも茶髪だが、リサのほうがより髪色が明るい。笑うと唇から八重歯が顔を覗かせる。一方のカナはというと茶髪というよりもこげ茶に近く、歯をのぞかせて笑うことはないものの、微笑んで目尻が下がるのが印象的だ。
「リサ……と、カナ……」
私は小声で二人の名前を呼ぶ。
「呼び捨てで呼んでもいいかな」
「「っ!」」
「だから私のことも呼び捨てで呼んでほしくて」
その言葉を聞いた二人は目を丸くしてしばらく二人で見つめあった後、クスクスと愛らしく笑いあう。
「ええ、もちろんよ。クリスティーヌ」
それから仲良く三人でクレープを頬張る。
ずっと欲しかったものの一つがここにある。昔から憧れていた友達――というものが。
いつの間にか赤い風船の手綱は私の手の中にある。
番外編のつもりで書いていましたが、いつの間にか重要回になってしまいました。




