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デートイベント2

 右へ、左へ。左へ、右へ。

 

 ファントムは商店街を早足で歩いていく。しかも細い複雑な道を曲がる。

 私は早足から駆け足でファントムを追いかける。


 クレープ屋はすでに見えない。というよりも、もはやどこから来たのか分からない。ファントムを追っているうちに本当に迷子になってしまいそうだ。


 目の前のファントムを決して見失わないように追い続ける。


「ファントム!」


 ファントムまであとわずかと迫ったところで大声で名前を呼ぶ。


「……クリスティーヌ?」


 ファントムは黒髪をなびかせて振り返った。


 私は心の中でガッツポーズをかます。


 いろいろあったけれどこれはデートイベントに突入している。ここで選択を間違えないようにしないと。


 私はちょっと目線を上にあげて、ファントムを見る。


「ファントム、実は。私……。迷子に」と言ったところだった。遠くから「キャー」とどこかで聞いた悲鳴が聞こえる。

 いや、この悲鳴は『歌学』で聞いた悲鳴だ。クリスティーヌが迷子になってファントムと一緒にメグを探しているときに、ひったくりが起こりその犯人を捕まえるというもの。けれど今はメグを探しているわけではない。ましてや今までファントムと一緒にいたわけでもない。


 私はなんだか嫌な予感がして「ファントム」と名前を呼ぶ。だが……。


「どうも何かあったようだな。すまないがクリスティーヌ、話はまた後で」

「ちょっと待って。私も一緒に行く!」


 そう呼び止めるもファントムは悲鳴の聞こえた方へ走っていった。ヒロイン――私を置き去りにして。


 街は変わらず賑わい、人々は笑顔で大切な誰かと道を歩いている。そんな中、私はポツリと道端に直立不動で立っていた。


 ファントムに置いて行かれた。しかも本当に迷子になってしまうとは。


 まだ日は高いのに、急速に世界が白黒に変わっていく。


 私は張りつめていた息をゆっくりと豪快に口から吐き出す。


 とにかくこのままここで立ち止まっていても意味がない。まずは歩かなないと。少しでも見かけたことのある場所へ。


 左へ、右へ、左へ、右へ。


 早足で歩いていくも、見知った場所がない。元々商店街なので同じような店が立ち並んでいるため、目印になる場所も実はいくつもある。

 私は本屋の前で立ち止まった。


 もうこうなったら誰かに聞いてみるしかないか。本屋の店主にでも聞いてみよう。


 そう思って本屋の扉に手をかけた時、カランと鈴が鳴り急に中から人が出てきた。


「ごめんなさい」と反射的に謝ろうとした瞬間、黒いフードが目に飛び込んでくる。


「こんなところで会うなんて奇遇だな」


 聞きなれた低い声に安堵する。


「……エリック」


 醜い顔を黒いフードで隠しているエリックは、片手に本を数冊抱えていた。『上級魔法書』というちょっと痛い題名が見えている。


「どうかしたのか」


 エリックは私の目の前に立つ。私はちょっと悩んで口を開いた。


「実は。私……。迷子に」

「迷子? 君が? 意外だな」

「迷子になるつもりはなかったんですがね」


 迷子になったことは変わらないし、どうせ道を聞くなら知っている人の方が気楽だ。

 悩んだ挙句、正直に迷子になったと伝える。と、エリックは「よかったら案内しよう。どこへ行きたいんだ」と質問してくる。


「ファントムのところへ」と私は答えようとするも、グッと立ち止まる。


 本当にファントムのところでいいのか。ここでファントムに会いに行ったとしても、まだ犯人捜しをしているかもしれないし。それに……。


 私は空を仰ぎ見る。もう少しで掴めそうだった赤い風船はもう見えない。


 そりゃそうだ。私から赤い風船を手放したんだもの。それでももう一度あの赤い風船を掴むことができたなら。


「私、クラスメイトにクレープを食べないか誘われて。街に来たの」

「……」

「さあ食べようってなった時に、私。私、自分の都合で勝手にその場から離れて」


 エリックは何かを感じ取ったのか静かに私の話を聞いてくれている。その静けさが今はありがたい。


「とっても楽しかったのに、勿体無いことをしてしまって。今頃クラスメイトは私のことを忘れて楽しんでいるのかな。今からクレープ屋に行っても意味ないよね」


 するとエリックは私の手を取る。あの日、妹のドレスを裂いた時のように。

 私はまじまじと手を取った彼を見つめた。エリックはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「なら行ってみればいい」

「でも」


 いなかったら……傷つくのが恐い。自分からいなくなった癖に。


 そんな私にエリックは優しく諭す。


「大丈夫だ。最初の頃にも言っただろう。君の味方は増える、と」

「……」

「それに君は自分のしたことを分かっている」


 その言葉にファントムを思い出す。

 エリックはファントムの身勝手で母が亡くなった。

 エリックもファントムを思い出しているのか、どこか表情が暗い。


「まだ、間に合うのかしら」


 ポツリ、と言葉に出す。まだ赤い風船に追いつくことができるのだろうか。


「これ以上手遅れにならないために……。行こう」


 エリックは私の手を取って歩き出す。早くもなく遅くもなく、歩く速度はちょうどいい。それがなんだか嬉しかった。


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