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デートイベント

 暖かい気温に眠くなりながらも、私は必死に頭を働かせていた。


 窓から差し込む光がちょうど席まで当たって心地がいい。隣には相変わらずエリック。今は歴史の講義を受けているところだ。


 エリックはあれから特に何も言うこともなく。かといって距離が遠ざかることもなく。時々裏庭で一緒にラベンダーを眺めたりした。


 ファントムの攻略は一応は順調に進んでいた。選択肢を間違えることもなく、クリスティーヌの台詞も間違えていない。時々ファントム以外の攻略キャラ、主にミフロイドの視線が気になったが特に何も言われることもなかった。


 劇までの日数はあと少し。そして『歌学』のエンディングまではちょうど中間地点あたりだろうか。


「じゃあ今日はここまで」という声を合図に生徒が一斉に動き出す。


 すぐに帰り支度をする者、はりきって部活に向かう者、友達とその場に残って語り合う者。

 私はというとどうしようか、と悩んでいた。今日の部活は珍しく休み。だが、だからといって暇というわけじゃない。今日はデートイベントの日だった。問題なのは……。


 本来の『歌学』ならばクリスティーヌはメグに街に誘われ、その街で迷子になってしまう。そこで一番好感度の高いキャラが来てくれて、街を巡りながら一緒にメグを探してくれるというイベントが発生する。本来なら私とメグは同じクラス。私が暇をしていることを知っているからこそ誘ってくれた。


 けれど……。私はメグと同じクラスではないし。それにドレスを裂いた犯人として疑われている。誘われるかどうか分からない。


 自分一人で街へ出かけるべきか。でも迷子になっているわけではないし。……困った。


 私は椅子に座ったまま悩み続ける。


「クリスティーヌさん」


 悩んでいるところにいつもの女の子二人組から声がかかる。


「今日ってもしかしたら暇?」

「よかったら一緒に買い物行かない?」


 一緒に買い物。っていうことはストーリー補正がきいている、のか。などと考えながら笑顔で頷く。


「うん。今日は部活休みで。買い物、お供させて」




 三人で学園を出て街を歩く。左右に並んでいる商店街がどこか古臭い。けれどその古臭さが『歌学』の世界観にあっていていい味を出している。同じ学園の生徒はもちろん、老若男女たくさんの人で街は賑わっている。


「そういえばこの辺りにクレープ屋があるんだけど」

「え、そうなの? 」

「うん。行こうよ」


 女の子達は同時に私の方を向く。


「クリスティーヌさん、クレープ嫌いじゃないでしょ」

「一緒に食べようよ」


 女の子二人の勢いに押される形で思わず頷いた。


 そんなに甘いものが好きなのだろうか……。まぁ、私も甘いもの好きだから万々歳なのだけれど。正直、今は甘いものどころではない。どこで迷子になるんだろう、と気になって仕方なかった。


 『歌学』ではメグと街に着いたすぐ後、人混みに流され迷子になってしまう。けれど今の私は二人にがっしりと挟まれて歩いているし、人も多いには多いけれど押しつぶされるような人混みではない。到底迷子になるとは思えない。


「もうすぐだよ」と女の子に声をかけられ、前を向く。数メートル先に「おばあのクレープ屋」という看板が見えた。その看板が見えた途端に甘い香りに体全体が包まれる。そしてそれは皆同じなのか、甘い香りにつられるように道に人が増えていった。

 人が増えたとはいえ、目的地が見えてしまっている。もし今迷子になったとしてもクレープ屋が見えているのだから、クレープ屋に行けばいいだけの話であって。わざわざ迷子になるのも可笑しな話だ。


 そんなわけで私は女の子二人とクレープ屋の目の前に着いてしまう。クレープ屋の目の前にはそこそこの行列が出来ていた。


「どれにしようか」


 女の子は薄っぺらいメニューをいつの間に持ってきて、私に見せてくれる。自然と三人で体を寄せ合ってメニューを見る姿勢になった。


 そういえば……とメニューを見ながら昔を思い出す。転生前は父や母のことで頭がいっぱいで友達との記憶があまりない。こうやって女の子同士で甘いものを食べるのはもしかしたら始めてかもしれない。


「どれにするか決めた?」

「えーっとね、私はプリンカスタードにする」

「私はね、チョコレートトルネードにしようかな」


 女の子二人の会話に耳を傾ける。


 なんだか胸が温かくなっていって、妙にそわそわとしてしまう。ただ甘いものを三人で食べるだけの行為が今の私にとっては特別なものだ。


 もうデートイベントなんていいか、と本気で思いながら自分から二人の会話に割り込んでいく。


「私は苺キャッスルマウンテンにしようかな」

「私もそれと悩んでたの」

「どれも美味しそうだものね」


 ずっとこういう会話に憧れていたような気がする。


 甘い香りが強くなるにつれて体が浮上していく。空に赤い風船が一点浮かんでいる。手を伸ばせば風船に届きそうな気さえしてきた。


「食べくらべしようよ。三人で」


 ほんの少し勇気を出して提案してみる。今の私はどんどん上がっていく体に不安を覚えながらも、無敵だと感じていた。妹のことも攻略のことも気にならない。今の私は何を言われても気にならない。無敵だ。


 やっと最前列の店員の前まで来る。「おばあのクレープ屋」の名の通り、店員は眼鏡をかけた冴えないおばあちゃんが鉄板に生地を広げていた。


「プリンカスタード、チョコレートトルネード、苺キャッスルマウンテンで」

「あいよー」


 しわがれた声でおばあちゃん店員が答える。会話することなく三人でおばあちゃん店員の手元に集中する。おばあちゃん店員は素早く生地を焼き、中にそれぞれの具を詰めて丸めていく。


「はいよ」


 愛らしいピンクの包紙と共に三人にクレープが手に渡る。

 女の子の一人がクレープを手にしながら、ほんの少し遠くにあるベンチを指す。


「あそこなら三人並んで座れそうだよ」


 ベンチは古びてはいるが、その古びた感じも周りに溶け込んでいておしゃれだ。

 私は「うん」と頷こうとする。が、女の子の指さした先にベンチ以外の物を見つけた。


 攻略対象――ファントムだ。


「っ!」


 ゲーム通りではないけれど、ここでファントムを追えばデートイベントと同じ展開になるかもしれない。


 女の子二人がベンチに歩いていく中、私はその場に立ち尽くす。


「クリスティーヌさん?」と声をかけられる。その声の主に思わずクレープを渡した。


「え?」

「ごめん。ちょっと迷子になってくる」

「え? ちょ、ちょっと? クリスティーヌさん!」


 迷子になってくるという謎の言葉に女の子達は私に手を伸ばす。けれど私はいとも簡単にその手を振り払ってファントムを追いかけ始めた。



番外編にするつもりでしたが、わりと重要回になりそう……。

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