別れ
後期も終わり、最後の春休みに入った。今期の表彰は逃したが――二人して門限破りをしたのだから当然だ――やはり二人のバディはなかなかの好成績を収めていた。あとは卒業してここを去るだけだ。アイリスは、ふと自分とニーアの将来が気になった。
「これから私たち、どうなるのかな……」アイリスがつぶやいた。
「どうって、どういう意味?」ニーアが目を丸くした。
「そりゃ、私は今でも、それにこれからだって、ニーアのことが好きよ。でも現実的に、卒業したら離れ離れだし、新しい出会いだってあるかもしれないし……」
確かにそうだ。いくら好き合ってるからといって、この関係がいつまでも続けられるかというとニーアも自信がなかった。
「それに、私たち、同性っていう事情があるじゃない? どうしたって、いろいろ不都合なことがあるわよ。それでも一生、私としか付き合わないことが本当にニーアの幸せなのかどうか、よく考えてみて……」
この国では、女性同士の結婚は認められていない。それに、二人ともいつかは子供を持ちたいという気持ちがあった。互いの幸せのためにどうすべきか、二人は話し合った。
そして――二人は、卒業したら「恋人」としての関係を終わりにすることを決意した。ここを出たらバディとして一緒に暮らすこともなくなるし、別れるにはいい潮時だと考えたのだ。
「でも……でもっ、あなたへの気持ちは変わらないんだからね。忘れないでね、ニーア」アイリスが泣きじゃくりながら言った。
「当たり前じゃない。私たちが結婚しても、子供を産んでも、ずっとあなたは友達だし、あなたへの愛は変わらないわ」ニーアも泣いていた。
そして卒業式も終わり、いよいよここを去るときがやって来た。二人には、それぞれの家族から迎えが来ている。部屋を出る直前に、二人は別れを惜しんだ。
「あっちに行ってからも、いっぱい連絡するからね。ニーア」
「私だって、負けないぐらいいっぱい送りつけてやるんだから。アイリス」
そして二人は最後のキスを交わした。涙が一筋、頬を伝うのを感じた。
「それから、これ…」
ニーアは小さな包みを取り出した。
「あなた、4月が誕生日でしょ。ちょっと早いけど、プレゼント」
「うわぁ、ほんと! 嬉しい!」
アイリスが開けてみると、輝く銀色の髪飾りだった。ニーアのプレゼントを探していたときには一度も見かけなかったデザインだ。
「あなたは、黒髪だから、これが映えるかと思って。見つからないように買ってくるのに苦労したわ……」
アイリスはもう髪に着けていた。思ったとおり、よく似合う。
「かわいいわよ、アイリス」
「髪飾りが、じゃないでしょうね?」アイリスは嬉しさを隠しきれない目つきのまま、口を尖らせて言った。
「私の思いを受け取ってくれたアイリスが、一番かわいいに決まってるでしょ」ニーアはあのときのアイリスの言葉をそっくり返した。アイリスの顔が赤くなったが、ニーアも顔が火照るのを感じた。
「かわいすぎて、せっかくあげた髪飾りが霞んじゃうわ」ニーアは照れ隠しに、憎まれようのない憎まれ口を叩いた。
「あーらあなただって、かわいすぎて私のプレゼントがかたなしよ」アイリスも、恋人としては最後となる憎まれ口を返した。
自家用車で来たニーアの家族は東の駐車場、電車で来たアイリスの家族は西の裏門で待っていた。二人は玄関で軽く挨拶をして別れると、振り返らずに自分の家族のもとへと向かった。
ニーアは車に、アイリスは電車に、それぞれの家族と一緒に乗り込んだ。二人は当然、ここでの生活で「彼女」ができたことなど家族の誰にも伝えなかった。その代わり、素敵な友人とのたくさんの思い出話を、家族に聞かせた。本当はただの友人などではない、誰かさんのことを思い出しながら。二人の青春の最後を飾る、誰も知らない、ひとときの恋を思い出しながら。
うららかな光が窓から射し込んで、髪飾りが輝いていた。




