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Present of Us  作者: ズッキーニ
1/1

プロローグ

初投稿です、かなり稚拙な文かもしれません。

「ーー撃て」


夜の静寂を破る号令と共に戦車から休むことなく砲弾が浴びせられる。砲撃の標的となった町は焼け、崩れ、もはや人が住める環境ではなくなってしまっただろう。鮮やかな町並みは破壊され、街道を飾っていた木々は焼け落ち、残ったのは無機質な殺意に濡れた兵器とそれを操る軍隊だけであった。


「ふん、こんなものか」


その軍隊の後方に一人、他の兵士とは服装の異なった人物が居た。他の兵士はシンプルな軍服なのに対し、その人物の軍服には紀章や十字架が飾られている。何より違うのは色、普通の軍服は黒1色だが彼の服には赤いラインが差し込まれている。



「まったく手を煩わせおって……ローゼン国に逆らうからこうなるのだ、邪教徒どもめ」



彼、コーザはローゼン国からとある任務を受けていた。それはルクナという町を蹂躙せよという物である。

このような任務が課せられたのには理由がある。

現在、世界規模で発生している不作によって食糧難が発生し、これを懸念した各国が各自で植民地拡大に手を打ちだした。これにより世界大戦が勃発。世界は火の海に包まれた。世界大戦が始まって5年が経った現在、世界は大きく分けて2つの国に併合した。1つは大陸の東側に位置する帝国。圧倒的な軍事力を武器に次々と他国を侵攻、植民地化していった。そしてその帝国に並び立っているのがローゼン教国。ローゼンとはローゼン教という世界最大規模の宗教から来ている。つまるところ宗教国家なのだ。そのため国を統べるのは王ではなく教皇。国民の7割が教徒という特殊な国だ。そんな宗教国家であるローゼン国が軍事国家である帝国に何故並びたつ事ができたのか。それはひとえに宗教国家という特性上、世界各国に教徒が散らばっていたからというのが1つある。戦争において勝敗を決する大きな要因。それは情報だ。いくら相手の裏をかこうとしても敵国のスパイが紛れ込んでいればその作戦は筒抜け、後はどうなるか言うまでもない。その結果教徒が紛れている国を端から侵攻、植民地化していった。そして現在帝国とローゼン国は表向きに休戦協定を締結している。5年における世界大戦の結果、互いに疲弊し戦争に回す余裕がなくなったためだ。しかしあくまで表立って戦争する余裕がなくなっただけで、二国間の衝突は度々起こっている。今回の作戦もこの類いで、ローゼン国の統治下にあったある町が帝国に従属すると声明を出したのが発端である。


「はぁ……教皇様はどうしてこんな偏屈な町の制圧に大司祭である私を仕向けたのだ、こんな町ぐらい司祭だけで足りるだろうに……」


この程度の町を制圧するのに自分を仕向けるのは過剰だと教皇への文句を垂れ流していると、教徒の一人が戻ってきた。


「報告します、つい先程町の制圧が完了しました」


予定してた時刻より早く制圧の知らせが届いたことに笑みを浮かべるコーザだったが、


「どうした?何か問題でも発生したのか?」


教徒が何かを言い淀んでいる気がして尋ねる。


「……問題ってほどでは無いのですが町の住人が誰一人として居ませんでした。恐らく帝国が避難させたのかと……」


「そうか、我々を侮辱した邪教徒どもを粛清したかったのだが、それはまた今度ということか」


コーザは教徒を労い、本隊に戻って待機を命じた。

(しかし多少なりとも帝国の介入があると踏んでいたんだが、町の住人の避難だけとは…帝国も相当疲弊していると云うところか)


仮設基地に戻っていく教徒の背中を見ながらそんなことを考えていると、突如本隊を展開している方角から凄まじい爆発音と悲鳴が響いてきた。


「なっ……敵襲か!?いや、帝国軍はここら周辺には居なかった筈、では一体何が……!?」


突如起こった事態に驚愕していたコーザだったが、切り替えの早さはさすが重役といえる。コーザは急いで仮設基地に戻り本隊との通信を試みる。


「こちらコーザだ、状況を説明しろ。こちらコーザ、状況を説明しろ」


僅かな沈黙の後で返答があった。


「こ……ら……ムルファ、こちらチームα。現在敵と交戦中!」

コーザは今作戦において軍隊を三つのチームに分けて行動させている。通信に応じたチームαは仮設基地に一番近い位置を担当している。


「敵の数は?」

「ひ……です」

「……何?」


再び起こった爆発の音によって上手く聞き取れなかったコーザはもう一度問いかける。


「敵は一人……敵は一人しか確認できません!」

「……何の冗談だ?」


自分は馬鹿にされているのではと憤るコーザ。しかし必死さの垣間見える声で教徒が続ける。


「本当です。本当に一人なんです!!なんだよ!なんなんだよあの女!なんで死なないんだよ!」


コーザを含む仮設基地で指揮をしている面々にあるのは困惑だ。

(どういうことだ……本当に敵は一人だけなのか?しかしそれにしては被害が大きすぎる、いやそもそも一人で軍隊と対等に戦うことなんて出来る筈が……)


「β隊とγ隊はどうした!?」


残る二部隊は何をしているのかと尋ねる。


「……β並びγ隊は全滅しましたっ!」


コーザは絶句する。たった一人の敵に三部隊のうち二部隊が既に敗北しているというのだから。


「映像は……映像は出せないのか!」


近くにいる教徒に早口で捲し立てる。早口になってしまったのは彼の不安が現れているからだろう。


「は……はい!少々お待ちください」


教徒の一人が作業を始めてから1分ほどで現場の定点カメラの映像がスクリーンに映し出される。


「……なんだこれは……」


コーザはスクリーンに映った光景に固まり呟きを漏らした。しかしそれは仕方のないことだろう。なぜならそこに映っていたのは、α隊を一人の女が蹂躙している様だったからだ。女が両手に握っている銃が戦車に向けられたかと思えば数秒もしないうちに轟音とともに爆発する。なにより異質なのはその服装だろう。白いノースリーブの上に黒のコルセットを着用している。あまりにも戦場には似つかわしくない。今からどこかのパーティー会場に行くと言われた方が信じられる。そんな場にそぐわない格好の女は手を休めることなく銃を撃ち放っている。その度に教徒が倒れ、戦車が炎に包まれる。教徒達も反撃しているが女に弾が当たる気配はない。

コーザ達は現実離れした光景、ーー女による一方的な蹂躙をモニター越しにただ見つめることしか出来なかった。




ーーそれから10分もしないうちに女の他に動く者は居なくなった。


「一体あの女は何者だ!!どうして軍が個に負ける!?そんなことあってたまるか!」


コーザは驚愕と恐怖によってその場から動けずにいた。いや、コーザだけではない。仮設基地に居るすべての教徒達が時が止まったかのようにその場に縛り付けられていた。誰も何も口にしない。口にしてしまったら何かが確定してしまう、そんな気がして。そんな彼らを嘲笑うかのようにカメラに映る女は歩き出す。コーザ達の居る仮設基地の方角に向かって。途端に時が動き出したかのように仮設基地内は騒がしくなる。


ーーあの女、ここに向かってるんじゃないか!?

ーーど、どうすれば……!!

そんな声が仮設基地内のあちこちから聞こえてくる中、コーザはある決断を下す。


「聞け、敬虔なる教徒達よ!我等はここでやつを迎え撃つ。総員ただちに準備に取り掛かれ!!」


コーザが迎撃を選択するに至ったのには二つの理由があった。1つは今から撤退を始めても間に合わないから。そしてもう1つは面子の問題だ。大司祭であるコーザが指揮した軍が敗北し、無様にローゼン本国に逃げ帰れば待っているのは教皇の失望と枢機卿などからの嘲笑だろう。そんな事態をコーザのプライドは許さなかった。なんとしてでもあの女だけは討ち取る、そんな意思が如実に感じられる。そして指示を出してから10分程で簡易的なバリケードと武装を整えた教徒達とコーザは仮設基地の前に陣取った。


(姿が見えた瞬間に蜂の巣にしてやる)


コーザは油断なく辺りを見回しながらその時を待つ。しばらくすると前方から一台の装甲車が走ってきた。


(あれはα隊の装甲車……生き残りが居たのか?)


しかしそんなコーザの楽観的な考えはすぐに裏切られた。

装甲車の側面から先程の女が飛び出し、操縦者を失った装甲車が凄まじい速度でこちらに向かってきたのだ。


「なっ……総員待避しろ!!!」


コーザは自らの甘い考えを後悔しつつ、教徒達に大声で叫びながら走って待避する。装甲車はそのままバリケードに衝突すると突如大爆発を起こした。

コーザは咄嗟に爆風から顔を背ける。

(な……荷台に爆弾か何かを積んでいたのか!!)

女は装甲車の後方に佇んでいた。右手に大型の銃 を構えて。恐らく装甲車がバリケードに衝突すると同時に女は荷台目掛けて引き金を引いたのだろう。

爆発の威力は凄まじく、教徒達の半分以上が爆発に巻き込まれて物言わぬ炭と化した。

コーザはすぐにその場から離れると、辺りを見回す。するとバリケードが張られていた辺りで悲鳴にも似た絶叫が木霊した。見ると女が突進し、近くに居る教徒に右手で銃を放っていた。


(不味いな……このままでは全滅する)


銃の直撃を受けた教徒は首から上が忽然と無くなっていた。銃のあまりの威力に頭部が弾け飛んだのだ。その光景を見た他の教徒達は半ばパニックになり、狙いも定めず銃を乱射する。そんな弾が女に当たる筈もなく女は一人また一人と教徒達を殺していった。


(不味い……不味い不味い不味い……私が負けるなんてあってはならない。そんなことがあった暁には周りからどんな反応をされるか……私だけでも勝たなければ、どうすれば、どうすれば勝てる?どうすれば……)


焦るコーザの目の前では止まることなく無情とも言えるほど凄惨な殺戮が続いていた。





ーー先ほどの再現とでも言うのか、それから5分も経たないうちに女以外に立っているものは居なくなった。女の白かったノースリーブはおびただしい量の返り血によって赤色へと変わり、足元には教徒だったものが転がっている。

女はぐるりと辺りを見回しながら何かを呟くと来た道を戻っていく。



ーーパンッ

乾いた音が響き、同時に歩いていた女が倒れる。


「……ふは、ふはははははははは!」


先程まで誰も立っていなかった場所に血にまみれたコーザが女めがけて銃を構えていた。


「勝った……勝ったぞ!!ふははははは!油断するからこうなるのだ!!」


コーザは自分の敗北が色濃くなったのを感じると、自分が一番生き残る確率が高く尚且つ女を殺すチャンスが生まれる方法を模索し始めた。そしてコーザが取った行動は一番シンプルだが最も不意討ちに効果的な方法 “死んだ振り” だった。教徒の死体の下に潜り込みチャンスを求めてひたすらに息を潜めていたのだ。その結果コーザはチャンスを掴み、無警戒な女の背後から頭蓋に鉛をぶちこむ事が出来た。仰向けに倒れた女はピクリとも動かない。コーザは自身の勝利に気持ちが昂り笑みを漏らす。


「ははは……しかし、女一人にこれだけの被害を受けたと教皇が聞いたらどう思われることか、いやそもそもこの話を信じてもらえるのだろうか……まぁカメラの映像記録を持ち帰れば済むことだな」


コーザは教皇に女の話をしても信じてもらえないのではないかと考え、仮設基地へカメラの映像記録の回収に向かおうと振り返り、

ーーあり得ない光景を目の当たりにした。先程まで倒れていた女が何事も無かったかのようにコーザに銃を向けているのだ。


「なっ……!」


コーザは驚愕に目を見開く。

(ど、どうしてやつが生きている!?さっき確かに殺した筈!!)

そう、確かにコーザは先程女の隙をついて頭を銃で撃ち抜いたのだ。しかし今目の前で銃を構えている女の頭部には傷1つなく、まるで最初から弾など当たっていないかのようだった。未だ驚愕に囚われているコーザに初めて女が口を開く。


「…………羨ましい」


「……なんー」


何のことだ、そう言おうとしたコーザは続きを口にする事が出来なかった。女が言葉の終わりとともに引き金を引いたためだ。銃から発射された弾がコーザの頭蓋を砕き脳を引き裂いて遥か後方へ飛んでいく。それと同時にコーザの意識は女の言葉の意味を理解することなく途絶えた。


「…………」


女は立ち去ることなく静かに佇んでいる。どこからか吹いた生温い風が女を撫でていく。女の周りには無数の死体が並び、それらを感情の見えない瞳で見つめている。果たしてどのくらい見つめていたのか、女はゆっくりと顔を上げ未だ太陽の昇らない夜空を仰ぐ。


「また……死ねなかった」


自らの額に手を当ててそんな呟きを溢した女は暗く、どこかとても辛そうな表情をしていたーー




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