ほんとうの
『ほんとうの』
まだほんとうの
ひとりをしらない
友人に迷惑をかけられず
家族に心配をさせられず
他人に弱みをみせられず
土色の顔で
微笑んでいる
そこにある檻を
私はしらない
まだほんとうの
虚ろをしらない
風塵の音
夜の海に降る雨
灰色の雪片
目を開けていても
閉じていても
そんな毎日を
私はしらない
まだほんとうの
悲しみをしらない
変わること
離れること
失うこと
堪りかね
胸の穴を押さえながら
さまよい歩く
冬枯れの街を
あのころは
まだしらない